
「朝起きることがどうしても苦手」
そんな人は、もしかしたら「夜型人間」かもしれない。
体内時計のパターン(クロノタイプ)には、人それぞれ傾向があるのだそう。
日本睡眠学会総合専門医の志村哲祥さんは「自分のクロノタイプに合わせた時間帯に過ごす方が良いです」と話す。
クロノタイプは、体が最も活動的になったり、眠気を感じたりする「活動時間帯・睡眠パターン」のこと。大きく「朝型」「夜型」「中間型」の3つに分けることができるという。
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あなたのクロノタイプは何だろうか。
志村さんによると、特別な検査をしなくても、普段の生活から自分のタイプを知ることができるという。
志村哲祥さん
「簡単な方法としては、翌日の予定がなくて早起きしなくて良い、あえて夜ふかしもしないというときの、自然な寝起き時間の中央時間(寝る時間と起きる時間の真ん中の時間)で判断できます。寝不足などもなく、体が健康的な状態の時を考えてください」
日本の社会人の平均的な中央時間は3.5〜4時。これが「中間型」となる。そして、この中央時間が3時以前の場合は「朝型」、反対に5時以降であると「夜型」と判別できるそう。
例えば、翌日の予定もなく、健康的な体の状態で、深夜0時に眠り、翌朝、自然に朝8時に目覚めたとする。0〜8時の中央時間は4時のため「中間型」となる。
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それぞれのクロノタイプの特徴としては、以下の通りだ。
「朝型」の人は、活動のピーク時間帯が10〜16時頃と日中に調子が良く、パフォーマンスが高い。なおかつ、自然に早く眠り、早く起きる傾向がある。
「夜型」の人は、活動のピーク時間帯は19時頃と1日の後半にあり、夕方から夜にかけて集中力や運動機能も高まり、夜遅くまで眠くならず、起きるのも遅い。
そして、「中間型」の人は、その2つの型の間で、昼〜夕方頃に活動のピーク時間を迎える。
無視し続けると危険!体内時計のズレが引き起こす不調のサイン自分のクロノタイプを理解することは、健康維持のためにも重要だという。タイプに合わない生活を長く続けると、体は何らかのサインを出し始める。
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例えば、朝型人間に合わせて作られた社会で生活している夜型の人たちは、自分の体内時計と社会のリズムがズレてしまい、朝起きるのがつらい、朝イチの会議は頭がぼーっとしてしまうといった、日々の生活で困りごとに直面しがち。
逆に、朝型の人であっても、夜遅くまでの仕事や付き合いに無理をして合わせて、体調を崩してしまう場面が生じることもある。
このような、心と体のリズムのズレを無視し続けると、眠気や慢性的な疲労につながり、結果としてパフォーマンスや生産性が低下するという影響が出てくるという。
志村さんは、さらに長期間リズムを無視した生活を続けると、その結果として、うつ病や起立性調節障害など、心身のさまざまな不調につながるほか、発がん率や死亡率の上昇といった、より深刻な問題にも発展していくと話す。
志村哲祥さん
「3か月くらいで無理がきます。無理ができるのは3か月が限度です」
実際、うつ病などの相談で病院へ来たら、クロノタイプと生活リズムが合っていないことで、睡眠時間が足りずに、無理をしてしまったことが原因だったという人もいるという。
クロノタイプは変えられる?早寝早起きのポイントは「光」そういった不調を回避するためには、自分のクロノタイプに生活を合わせることが理想だ。しかし、それができる人ばかりではないだろう。
では、「クロノタイプの方を変えることはできないのか」
その問いに対し、志村さんはこう答える。
志村哲祥さん
「クロノタイプ自体を変えることはできませんが、何時に寝起きするかは多少、調整・操作をすることは可能です」
クロノタイプは細胞に刻み込まれた情報のため、変更することはできない。しかし、現実の生活で3時間ほどであれば、寝起きする時間を調整することができるという。
ポイントは「光」。
人間の体は、目の中に入る光の明るさによって「今は朝だ」「今は夜だ」と判断している。
そこで、“起きる際”と“寝る前”に浴びる光の明るさ・時間を調節することによって、体内時間を前進させたり遅らせたりすることができると指摘する。
この調整の鍵を握るのは「メラトニン」という物質だ。
メラトニンは、外界が一定以上暗くなった時間が、ある程度継続すると分泌されるもの。これを全身の細胞が受け取ることで「夜」だと認識する。メラトニンが分泌された2、3時間後に人は眠りにつくことができるという。
一方、暗くなると分泌されるメラトニンだが、100ルクス程度の暗めの蛍光灯の光を浴びただけでも分泌は抑制され、200〜300ルクス(一般的なリビングの明るさが)あれば、ほぼ完全に分泌が止まる。すなわち、体が「朝が来た」と認識を始めるのだ。
「朝」だと本格的に体に認識させるためには、強い光(理想的には朝日に相当する2500ルクス以上)が必要になる。ちなみに、一般的なコンビニの蛍光灯は約1000ルクスだ。
つまり、朝型化するためには、朝の早い時間(特に午前6時頃)に強い光(2500ルクス以上)を浴びると、体内時計は前進し、早寝早起きになるのだ。
反対に、夜型化にするには、夜の遅い時間(午後10時〜午前1時頃)に強い光を浴びることで、体内時計は遅延し、遅寝遅起きになる。
したがって、夜型人間が早寝早起きをしたい場合は、日が暮れたらすぐに照明を数十ルクス以下に暗くして「夜」だと体に思わせ、朝は可能な限り早く強い光を浴びるように調整することが効果的だという。
光で調整「寝起き時間」の具体的な工夫法とは?具体的には、以下のような生活環境の工夫をおすすめしている。
▼夜に「暗い」と体に認識させるために、照明を数十ルクス以下にする。
→特にメラトニン分泌を強く抑制するブルーライトを含まない、暖色系の間接照明などに切り替えることが効果的。本がギリギリ読めるくらいの明るさがOK。
▼朝の光を早く浴びるために、窓が東向きの部屋で寝る。時間になると自動で開く目覚ましカーテンを活用する。強い光が出る目覚ましを使う など
なお、光のタイミングを調整することで、寝起き時間は大きく変えられるとした上で、志村さんはこのようなことも話している。
志村哲祥さん
「寝起きの時間をずらしても、そもそものクロノタイプは変化しません。そのため、調整した時間帯にパフォーマンスが一番高くなるかと言われると、そうではないです」
先述した通り、朝型は午前から昼、夜型は夕方から夜の時間帯がパフォーマンスが一番高い。自分のクロノタイプと調整した寝起き時間との折り合いも大切かもしれない。
クロノタイプに優劣はない。
自分のタイプを変えようと無理に頑張るよりも、「私はこの傾向がある」と受け入れることが大切かもしれない。
志村哲祥さん
「合わないクロノタイプで生活を続けるのは万病の元です。自分のタイプに合わせて、生活のペースを調整・工夫することが、毎日を快適に過ごすための近道になります」
取材協力:志村哲祥さん
東京医科大学睡眠学講座 客員教授
財団法人神経研究所/国立精神・神経医療研究センター 客員研究員
主な研究領域は睡眠衛生指導による睡眠の改善、概日リズム睡眠・覚醒障害の治療。
順天堂大学医学部医学科卒業、同 順天堂医院初期臨床研修修了
東京医科大学大学院博士課程(精神医学教室・睡眠学講座)修了
同大メンタルヘルス科、同大精神医学分野客員准教授、医療法人寿鶴会菅野病院、睡眠総合ケアクリニック代々木、睡眠プライマリケアクリニック、スタンフォード大学精神・行動医学分野等を経て、現職
