限定公開( 5 )

お茶をベースにした缶チューハイは、どのような人が飲んでいるのか。焼酎やスピリッツを緑茶やウーロン茶などで割ったものなので、年配層が多いのではと思われたかもしれない。
スーパーやコンビニの棚を見ると、ド派手な商品が並んでいる中で、お茶系の缶チューハイは、緑や茶色を基調とした落ち着いたデザインが多い。静かにひっそりと座っている印象があるので、筆者も「年配の人が手に取っているんでしょ」と思っていたが、どのやらその考えは“ここ数年の流れ”に乗り遅れていたようである。
例えば、宝酒造の「お茶割り」(宝焼酎の烏龍割り、宝焼酎のやわらかお茶割り)シリーズ。同社が20〜30代のユーザーに調査(2021年)したところ、「お茶割りを飲む機会が増えた」と答えたのは19.2%である。
この数字を目にして「ん? ビミョーじゃね?」「いやいや、少ないでしょ。40〜50代のほうが多いのでは?」などと思われたかもしれないが、その通りである。同じ質問で、40〜50代が「増えた」と答えたのは73.9%なので、若い層を圧倒している。
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しかし、である。翌2022年の数字を見ると、20〜30代は34.5%に増えていて、2023年には46.2%と半数に迫る勢いで伸びているのだ。
ここ数年で、なぜ若者の間でお茶割りが広がっているのか。その謎を解くために、宝酒造で焼酎を担当している佃裕之さんに話を聞いた。聞き手は、ITmedia ビジネスオンライン編集部の土肥義則。
●どのコンビニで売れているのか
土肥: RTD(Ready-to-Drinkの略。缶チューハイなどそのまま飲めるアルコール飲料)市場が伸びていますよね。2024年は前年比4.8%増の2億750万ケース(350ml×24本換算)となり、初めて2億ケースを突破しました(醸造産業新聞社調べ)。
お茶系のチューハイ市場を見ると、2024年の販売規模は前年比157.4%と、拡大しています(インテージSRI+調べ)。居酒屋のメニューを見ても、定番のレモンサワーやウイスキーハイボールのように、緑茶ハイやウーロンハイが並んでいますよね。
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ところで、宝酒造のお茶割りが若者の間で広がっているそうですね。その理由をうかがう前に、まずはこのシリーズが登場した当時のことから教えていただけますか?
佃: 1980年代、首都圏を中心に居酒屋チェーンが増え始め、若者の間でチューハイが人気を集めていました。この動きを受けて、1984年に「タカラ canチューハイ」を販売したんですよね。「レモン」「プラム」など4種類のフレーバーを発表したところ、翌日に問い合わせの電話が殺到しまして。
想定以上の人気を受けて、1998年に「宝焼酎の烏龍茶割り」 (現在の烏龍割り) 、2004年に「TaKaRa焼酎のやわらかお茶割り」(同やわらかお茶割り)を販売しました。関東では「烏龍割り」が定着していったのですが、名古屋より西に行くと、あまり浸透していませんでした。
新幹線の駅構内の売店でよく売れていて、特に東京駅では好調でした。「長旅の前に買って、新幹線の中で飲もうか」といった人が多かったのでしょう。しかし、名古屋から西の駅では、苦戦が続いていました。
その背景に何があったのか。関東では、お茶割りに適した甲類焼酎が日常的に飲まれていたのに対し、関西では、味や香りをそのまま楽しむ本格焼酎が主流でした。そのため、西日本では「お茶割り」という飲み方が、なかなか定着しなかったんですよね。
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土肥: ほー。関西出身の人間としては、お茶系のチューハイを当たり前のように飲んでいた記憶があるのですが、関東ほど根付いていなかったのですね。
佃: 発売当初、駅構内の売店やコンビニでよく売れていて、スーパーではまずまずといった具合でした。その傾向は続いていて、現在はコンビニ6割、スーパー2割、あとは酒販店などですね。
では、どこのコンビニで売れているのか。店舗別で見ると、1位は東京の「下北沢」、以下「渋谷」「新宿」「渋谷」と続き、5位に大阪の「難波」がランクインしている。6位以下は「渋谷」「渋谷」「新宿」「池袋」「渋谷」という結果ですね。(編集部注:複数の店舗が対象となっているので、同じエリア名が並んでいる)
●渋谷や新宿のコンビニで人気
土肥: お茶割りは関東でよく売れているということもあって、東京のコンビニが圧倒的に強いですね。渋谷や新宿の店舗が上位に並んでいますが、これはどのように見ていますか?
佃: 3年ほど前、少し気になる動きがありました。渋谷の道玄坂にあるコンビニで、よく売れていたんですよね。なぜ、その店だけ数字を伸ばしているのか。よく分からなかったので、現地で調査してみました。ですが、因果関係がよく分からなかったんですよね。
一過性のものかもしれないと考えていたのですが、その後も継続して売れている。やっぱり何か原因があるのではないかと思って、もう一度調査してみました。すると、若者が大きく関係していることが分かってきました。
道玄坂の店舗の近くに、ライブハウスがある。その会場で演奏しているバンドが歌いながら、お茶割りを飲んでいたんですよね。観客も、お茶割りを手に持って応援していました。というわけで、そのバンドがライブを行うときに、若い人たちがお茶割りを購入しているのではないか――。このような仮説を立てました。
土肥: 道玄坂のコンビニでは、どのくらい売れたのでしょうか?
佃: 正確な本数までは分かりませんが、一般的なコンビニの棚では、一列に10種類ほどの商品が並んでいます。缶チューハイの場合、人気商品で2本並んでいるケースが多いのですが、道玄坂の店舗では、お茶割りが棚一列を埋め尽くしていました。
土肥: 10本並んでいたということなので、人気商品の5倍ほど売れていたということですね。ライブハウスの近くの店舗では、お茶割りがよく売れていたそうですが、当時はかなり限られたエリアの話でしたよね。一方、直近のデータを見ると、ここ数年で若い世代の飲用シーンが広がっています。こうした変化を、どのように見ていますか?
●若者に広がった「3つ」の理由
佃: なぜ、若者の間でお茶割りが広がっているのか。調査したところ、3つの理由が浮かんできました。1つめの理由は、アルコール度数が高くないこと、無炭酸であること。
2010年前後に、高アルコールのいわゆる”ストロング系”がヒットしました。缶チューハイの一般的なアルコール度数は5〜7%なのに対し、ストロング系は7〜9%ほどで強い。
土肥: 安くて、早く酔えて、コスパがよくて。こうした理由で、人気に火がつきました。ただ、消費者の健康志向などもあって、ここ数年、各社はそれほどチカラを入れなくなりました。
佃: ですね。調査したところ「高アルコールが苦手」「炭酸がないほうがいい」といった声も多く。「2〜3杯目は刺激の少ない飲み物がいい」ということで、飲食店でお茶系のチューハイを注文する人が多いようです。
2つめの理由は、食事に合うこと。多くの人は食事と一緒にアルコールを飲んでいるわけですが、「お茶系なので食事に合う」といった声が多い。昔のように、バーやスナックに行く若者が減っていることもあってか、「食事はきちんと味わいたい」「その料理とうまくマッチしたものを飲みたい」といった人が増えていて、そうした層とうまくマッチしているようです。
3つめの理由は、SNSでの発信が増えたこと。コンビニで売れている店舗を見ると、若者が多く集まっているところが多い。お茶割りを飲んでいることをXでポストしたり、飲んでいるシーンを動画でアップしたり。それを目にした若者は「ちょっと飲んでみようか」といった循環が生まれているようですね。
土肥: 売り上げのランキングを見ると、下北沢の店舗が1位でした。下北沢にはライブハウスが多く、若者もたくさんいる。また、渋谷や新宿のようにコンビニが密集していないこともあって、下北沢の店舗で購入する人が多いのかもしれませんね。
あと、気になったのは、5位に大阪の難波がランクインしていること。発売当初、名古屋から西の売り上げは苦戦していた……という話でしたが、変化が出てきたとか?
佃: このお店は、難波・アメリカ村の三角公園の近くにあるんですよね。周辺では、若者がたくさん歩いていることもあって、売り上げにつながったと見ています。あと、先ほど申し上げたように、SNSの影響を受けて、関西に住む若者の間でも、お茶割りの文化がじわじわ広がりつつあるようですね。
●お茶割りを「役者」に例えると
土肥: 年配層だけでなく、若い層にもお茶割りが広がりつつある。会社にとってうれしい動きだと思いますが、現状の課題をどのように受け止めていますか?
佃: 缶のいいところは、多くの人に手軽にとってもらいやすいこと。ただ一方で、焼酎とお茶があれば自分でつくることもできます。焼酎とお茶を使えば、これまでとは違った世界が広がるのではないかと思っています。
土肥: うーん。ただ、ペットボトルや瓶に入っている焼酎を買うのは、初めての人にとって抵抗があるかもですね。そのハードルは、ちょっと高いような。
佃: いまの若い人たちは、自宅だけでなく、持ち込み可能なカラオケボックスで飲んでいたり、レンタルスペースで楽しんでいたりするんですよね。お店で飲むことも、周囲に気を使うので楽しめないという人もいるそうで。そう考えると、お店以外でお酒を楽しむ文化が広がるかもしれないので、焼酎とお茶を買って飲む人が増えるかもしれません。
土肥: 最後に、質問をひとつ。「宝酒造=日本酒」のイメージがあって、売り上げのランキングを見ても、日本酒がズラリと並んでいる。そうした状況の中で、お茶割りはどのような存在なのでしょうか?
佃: テレビCMをバンバン流すような商品ではなく、好きな人がずっと飲み続けているといった感じ。役者で例えると、目立たない名脇役のような存在でした。
ですが、数年前から若者にも広がってきたので、下積みが長かった俳優がようやく表舞台に立つ――。そんな存在になってきました。
土肥: 「気が付けば、客席は若者だらけ」というわけですね。本日はありがとうございました。
(おわり)
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