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オンライン酒屋の 「KURAND(クランド)」(東京都足立区)が展開する、500種類以上のクラフト酒からランダムでお酒が届くサービス「酒ガチャ」。その開封動画や“当たり報告”がSNSで次々と拡散され、注目を集めている。
酒ガチャは、1回ごとに購入できる都度注文型のサービスで、プランによって1回に届く本数が異なる。複数のプランから選択でき、どの銘柄が届くかは開封するまで分からないため、消費者は届くまでの期待感を含めた体験を得られる。
銘柄を自分で選べない、“賭け”のような仕組みでありながら、なぜここまで支持を集めているのか。同社取締役の河端竜児氏に、その“バズる仕掛け”を聞いた。
●酒の消費量は減少傾向
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国税庁によると、日本における成人1人当たりの年間酒類消費量は、1992年の101.8リットルから2022年には75.4リットルとなり、この30年間で約25%減少した。
消費者の購買行動などを分析するmitoriz(ミトリズ)が実施した自宅での飲酒に関する調査では、40代の18.2%が「毎日飲む」と回答した一方、20代では「毎日飲む」がわずか1.5%にとどまり、「全く飲まない」は36.8%に上っている。
さらに、あえて飲まない選択をする「ソバーキュリアス(Sober Curious)」という考え方や、ノンアルコールカクテル「モクテル」の流行も、若年層の飲酒離れを加速させている。
こうした流れもあり、普段お酒を飲まない人にとって、銘柄や製法の違いを理解しながらお酒を選ぶことは、心理的なハードルが高い。贈答用となればなおさらだ。
その課題を解消するのが「酒ガチャ」である。酒ガチャは、お酒選びを「作業」から、“好き”や“おもしろい”と感じられる「体験」に変えた。また、仮に好みと異なるお酒が届いたとしても、「ガチャだから」と納得できる。それが失敗への不安を和らげ、お酒購入のハードルを下げることにつながっているようだ。
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●ゲーム感覚を取り入れ「共有欲」を生む
酒ガチャの特徴の一つが「会話のネタになる」点だ。その背景には「ピスタチオのお酒」「夜9時のチョコミント」といった、ひと目でユニークさが伝わる商品名と、思わず写真を撮りたくなるラベルを備えた“変わり種のお酒”をあえて選び抜いている点がある。
さらに、思わず誰かに伝えたくなる演出として、1本10万円相当のレアで豪華な「当たり」商品を用意している。
「メイン顧客層である20〜30代は、ソーシャルゲームに慣れ親しんでいる世代です。レアを引いたときのうれしさや興奮を、お酒でも体験できたらおもしろいと思いました」(河端氏)
その狙い通り、SNS上ではレア度やラベル、味といった要素を軸に、顧客起点の新たなコミュニケーションが生まれているという。その効果もあり、クランドの顧客層は、20代が約5割を占め、30代を含めると8割以上となる。これは、従来の酒類購入者の中心だった40代以降とは明確に異なる層であり、クランドが新たな市場を切り開きつつあることを示している。
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2019年にスタートした酒ガチャは、2020年のコロナ禍に、自宅で過ごす時間が増えた消費者から支持を集めた。現在では、クランドの売り上げの約4割を占めるメインコンテンツへと成長している。
リピーター比率は4割強に達し、中には年間30〜50回も酒ガチャを回すユーザーもいるそうだ。
「SNSで酒ガチャを知り、購入する人がほとんどです。不定期でポップアップを開催しており、そこで何度か目にした方がECで購入してくれるケースも多いですね」(河端氏)
実際、2023年7月にJR新宿駅の施設内で実施したポップアップでは、3週間で5000回以上、ガチャが回された。中でも人気を集めた「ミニボトル酒ガチャ」は、開始から1週間で完売。在庫補充が追いつかず、臨時で駅構内の倉庫を借りるほどの盛況ぶりだったという。
●酒造の技術力と顧客データで共創する、新しい酒
クランドは毎週3〜4商品、月に最大30商品をリリースし、常時100〜120商品を開発中だ。このスピード感は、酒類業界の中でも珍しい。通常の「酒のお楽しみ袋」と違い、クランドの酒ガチャは都度購入でありながら、商品数や価格帯が明確にプラン化されている。そのため、偶然性はありつつも、購入前に体験のボリュームを想像しやすい。
それを可能にしているのが、日本全国200社以上の酒蔵と連携する「分散型の開発体制」である。特定の酒蔵に依存するのではなく、各地の酒蔵が持つ技術や個性を生かしながら、同時並行で商品開発を進めているのが特徴だ。
大手メーカーが数万リットル単位で製造するのに対し、少量ロットで生産することで、ユニークな商品を短期間で開発・販売できる。
また、クランドは自社ECを通じて直接販売を行っているため、顧客データや市場データをリアルタイムで取得できる。そのデータを酒蔵と共有することで、20〜30代といった新たな顧客層にリーチする商品開発を可能にしている。
●顧客に損をさせず、体験として楽しめる設計に
顧客がガチャで「外れた」と感じる確率を下げるため、お酒のカテゴリ選択や苦手な原料の除外、購入履歴に基づくかぶりの回避などの工夫を重ねている。さらに、味が好みに合わなかった場合に無償交換に応じる仕組みも整えた。
それでも寄せられる「不満」の声は、“最重要資産”と位置付け、サービス改善に生かしているという。
最低限の条件設定によって、顧客が損をしない環境を整えつつ、エンタメ性を掛け合わせることで、「体験として楽しめる」設計を実現している。
今後は、「購入希望者が目標数を超えた場合にのみ販売する」クラウドファンディング形式の展開を通じて、よりニッチでユニークな商品開発とファン化に注力していく考えだ。
中身が見えない酒ガチャが支持される理由は、単なる偶然性ではなく、選択疲れや失敗への不安といった消費者心理に正面から向き合った体験設計にある。酒ガチャは、若年層が酒類に触れるきっかけの一つといえそうだ。
(岡のぞみ)
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