公益通報を巡り、元勤務先から起こされた損害賠償請求訴訟の判決前に取材に応じる男性=2025年10月、千葉県浦安市 贈賄罪で元社長らが略式命令を受けた米医療機器メーカーの日本法人が、機密情報を持ち出した公益通報者の元社員の50代男性に損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は昨年12月、請求を棄却した。判決を喜ぶ一方、大企業との訴訟が大きな負担になったと語る男性は「通報した人の命、キャリアが守られる社会になってほしい」と願い、署名活動をしている。
判決などによると、男性は2021年1月以降、「スターサージカル」(東京都港区)元社長らによる公立病院眼科医への贈賄を告発するため、内部データを社外に持ち出し、同10月に解雇された。男性の告発を受け、23年6月に元社長ら5人が大阪府警に書類送検され、4人が罰金刑を受けた。
同社は24年、データの持ち出しで信用が損なわれたなどとして、約5000万円の賠償を求め提訴。男性の口座にあった約1200万円の仮差し押さえもした。
男性は「逮捕されるのではないかとびくびくしていた。訴訟対応も合わさって、うつ病のようになっていた」と振り返る。
判決で東京地裁は「(データの持ち出しは)犯罪の告発が主な目的で、違法性は認められない」として訴えを退けた。同社は判決を不服として控訴している。
公益通報者保護法は、通報による損害を理由に訴えることを禁じているが、内部資料の持ち出しに対する提訴は禁止していない。男性の代理人弁護士は「(通報に)必要だと思って情報を入手した場合は違法性が阻却されることを示した」と判決を評価した上で、通報の準備行為への提訴も禁止すべきだと指摘する。
男性は25年10月、公益通報者への支援制度導入を求めオンライン署名活動を開始し、これまでに4万筆以上集まった。「信用低下は身から出たさび。嫌がらせ目的のスラップ(どう喝)訴訟だ」と同社を非難し、「スラップ訴訟を制限する法律ができてほしい」と訴えている。