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任天堂の株価がさえない。
【動画】実際にAIだけでつくった「ゼルダに酷似した」ゲーム世界
2月3日に発表された任天堂の決算によれば、NintendoSwitch2の販売台数は全世界で1700万台を超え、「史上最速ペースで売れているゲーム機」の記録を塗り替えた。
しかしそんな同社の株価は、決算発表から2月4日執筆時点で12%以上下落している。直近半年間の株価下落率は3割にも達した。
なぜここまで任天堂の株が売られるのか。
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その背景として、主にメモリ価格の高騰の影響が挙げられていたが、追い打ちをかけるようにGoogleが大規模世界モデル「Genie 3」を活用した実験的プロトタイプ「Project Genie」を発表した。
これは、テキストや画像から3D環境を生成するもので、利用者はキャラクターを操作して、自分だけの世界を自由に探索できる。
このプロジェクトが一部で「もう、誰でもAIで複雑な3Dゲームをつくれようになるのではないか」と評価され、任天堂もその影響を受けている可能性がある。
現在ではAIの力を借りて一般の消費者でも画像や動画、音楽を生成可能な時代となった。その延長線上として一般人による「ゲーム生成」が可能となれば、任天堂の存在価値も再定義されるリスクがありそうだ。
●AdobeやFigmaはいち早く株価下落 「創造の民主化」で
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任天堂が直面しているこの危機は、米Adobeや米Figmaが既に経験している評価の修正と同じ方向性をたどっている。
両社は主にプロフェッショナル向けのクリエイティブ系ソフトで圧倒的な地位を築き、サブスクモデルで安定した収益を上げてきた。しかし生成AIの台頭により、熟練した技術を持たない人でもプロ並みの成果物を作れるようになると、市場はAdobeの高すぎる月額料金に疑問を抱き始めた。
これまで、Adobeの「イラストレーター」や「フォトショップ」といったソフトはプロのデザイナー間では業界標準となっており、どれだけ月額料金が値上げされてきても契約を継続せざるを得ないという認識が一般的であった。
業界内では、これを「Adobe税」などと皮肉る形で表現されてきたが、ここ1年で「Adobe税を卒業する」という趣旨の投稿がSNS上でも急増している。
ちなみに筆者も6年間ほど「Adobe税」を支払ってきたが、3月にサブスクリプションの期限が切れたら卒業する予定だ。
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こうした外部環境の変化を受けて、Adobeの株価はわずか2年間で半額以下まで目減りした。
Figmaの場合はより深刻だ。2025年の8月には140ドルを超えていた株価が、直近で24ドルまで売り込まれている。いかに巨大な企業や知名度のある企業であっても、生成AIが引き起こしたビジネス環境の変化で窮地に追い込まれる事例は後を絶たない。
これは、AIが「創造」の参入障壁を下げた結果、ツールの価値が低下し、供給過多によってコンテンツの希少価値が失われる経済原則を反映している。この現象は、クリエイティブ領域だけでなく、あらゆる「無形資産」を収益源とするSaaS企業を中心に波及しつつあり、海外では「SaaS is Dead(SaaSは死んだ)」という言説がしきりに投稿されるようになってきた。
この点、任天堂はさまざまな伝説級のゲームクリエイターや経営陣によって支えられた「任天堂ブランド」を競争優位性としている。
しかし、近年では「パルワールド」のように知名度の低い企業がリリースしたゲームがゲーム産業の勢力図を一変させるような事例も生まれている。
Googleの提供するAI技術が、ゲーム生成を本当に可能としてしまえば、アイデアさえあれば自分が一番欲しかったゲームを消費者自身が自作できるようになる可能性すらある。
そうなれば、イラストや音楽と同様、「ゲーム機に数万円、ゲームソフトに数千円を支払う」という現在の商慣習そのものが崩壊しかねない。
●米国のゲーム関連銘柄も急落
Project Genieが1月末に公開された直後から、米国市場ではテイクツー・インタラクティブやロブロックス、ユニティといったゲーム関連企業の株価が軒並み急落している。
Project Genieは端的に言えば、自然言語による指示だけで、リアルタイムで操作可能な三次元の世界を生成する機能をもつ生成AIである。現在のところ、生成時間は60秒、解像度は720p、秒間24コマという制約はあるものの、その本質的な脅威は「誰でも一瞬で想像した世界を遊べる」という点にある。
膨大な開発費で高品質を担保してきたテイクツー・インタラクティブ、開発プラットフォームのスタンダードであるユニティ、そしてユーザー生成コンテンツの成功例であったロブロックス。これらの株価が軒並み急落したのは、Googleの基盤が「より安く、より簡単な」代替品になるという懸念が現実味を帯びてきたからだ。
●パルワールドを超えた真の試練
かつてパルワールドが示したのは、既存のゲームシステムを効率的に模倣する手法の成功だった。しかし今起きているのは、AIが「創造の道具」そのものを代替し始めるという、次元の異なる変化だ。
任天堂は直近、研究開発費を過去最高水準にまで積み増している。しかしAIによって開発コストが極限まで下がれば、消費者個人の好みに最適化された「十分に面白い」体験がタダ同然で作れるようになるかもしれない。任天堂が巨額を投じて守る「完璧な品質」は、これまで通りの利益を生めるのだろうか。
株価は未来を映す鏡だ。現在の株価低迷は、市場から任天堂への問いかけでもある。AIをも手懐けて、新たな「娯楽の定義」を創り出せるのか。「スーパーマリオ」や「星のカービィ」に似たゲームをAIが生成できるようになったとき、任天堂が提示できる「最後の価値」とは何なのか。
その答えが示されない限り、市場の不安はくすぶり続けることになるだろう。
筆者プロフィール:古田拓也 株式会社X Capital 1級FP技能士
FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックスタートアップにて金融商品取引業者の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、広告DX会社を創業。サム・アルトマン氏創立のWorld財団における日本コミュニティスペシャリストを経て株式会社X Capitalへ参画。
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