東京・東神田の「LAUNDRY MORE(ランドリーモア)」。同じ建物の中にランドリーとトランクルームが併設され、両者の入口が隣り合う(提供:TOSEI)カフェや収納産業など、異業種とコラボレーションした「多機能型」のコインランドリーが急増中だ。かつては独身男性が利用するイメージも強かったが、スタイリッシュな外観の店舗も増え、主な利用客は働く女性にシフトチェンジしつつある。トランクルームを併設したとある店舗では半年足らずで4分の3近くの個室が埋まるなど、売上にも直結した効果をもたらしている。進化を続けるコインランドリーの“今”を追った。
◆季節外れの衣類や布団を洗って預けられるランドリー
インバウンドで賑わう東京・秋葉原駅。駅前のにぎやかな通りを抜け、数分ほど歩いたところに、一軒のコインランドリーがある。名前は、「LAUNDRY MORE(ランドリーモア)東神田店」。一見何の変哲もないランドリーだが、建物の外観をよく見ると、ランドリーの上に「トランクルーム」の文字が躍っていることに気づく。
同じ建物の1階がコインランドリー、2〜4階が「PiO(ピオ)東神田店」という名前のトランクルームで、どちらも無人で24時間利用できるのだ。
しかも経営するのは、洗濯事業者ではない。トランクルームを主事業とする押入れ産業だ。従来「コレクション置き場」としてのイメージが強かったトランクルームだが、同社店舗開発事業部の小柳晃さんによれば、利用用途は多様化している。「ランドリーモア」1号店が山形県天童市内にオープンしたときには、働く女性がコインランドリーで洗濯した衣類や布団をそのままトランクルームに預けていくパターンが目立ったという。
「洗濯乾燥機を自動でまわすと1時間程度で終わるぶん、『時短』になるという点を魅力に感じてもらっているようです。家の押し入れは湿度が高くなりがちですが、トランクルームは空調が24時間稼働しているので、衣類を保管しやすい。特に春から夏にかけては、コートやセーターなど厚手の衣類をボックスに入れたり、ハンガーで吊るしたりして保管されるかたが多いです」
◆個室の4分の3は成約済み……着目したのは顧客同士の「親和性」
コインランドリーの運営を手がけるようになったのも、トランクルームとの顧客の親和性に着目したことがきっかけだった。併設による相乗効果は大きく、トランクルーム単体だと満室稼働まで3〜5年かかるところ、併設店舗では早ければ1年以内に満室稼働となるケースもあった。東神田店がオープンしたのは’26年1月だが、半年足らずですでに80ある個室のうち60以上成約済みという。
ランドリーモア東神田店には洗濯から乾燥までを一度に済ませられる洗濯乾燥機(小・中・大)と中型の乾燥機、靴専門の洗濯乾燥機が並ぶ。これらはすべて、押入れ産業が販売代理店として契約を結んでいる業務用洗濯機メーカー・TOSEIのものだ(※社名は’26年7月より「エレクトロラックス・プロフェッショナル」に変更予定)。
TOSEIの調べによると、’99年時点で全国に1万1843店あったコインランドリーは、’21年時点で約2万5000店と、2倍以上に増えた。同社では異業種でも参入しやすく、安定的な収益が見込める事業としてコインランドリー事業の併設を推奨しており、これまでも大手飲食チェーンや自動車販売店などがコインランドリーの併設事業に参入している。
同社のランドリー営業本部で副本部長を務める栗田眞臣さんは、併設型コインランドリーが増えたきっかけとして、新型コロナウイルスの感染拡大を挙げる。
「感染症の拡大により景気が低迷する反面で、とくに’20年4月の緊急事態宣言発令以降は衛生管理意識が強まり、普段は洗えないふとん洗濯の需要が高まって、売上を伸ばしたランドリーが多くありました。コロナ禍が明けてからも人件費の高騰が続いたことなどもあり、無人で運営できるランドリーと他のビジネスとの組み合わせが増えていきました」
コインランドリーの併設は収益面に留まらず、マンションや団地の「コミュニティ作り」につながるという利点も持っている。小田急線座間駅(神奈川県座間市)の目の前にある「ホシノタニ団地」は、小田急電鉄が所有する社宅を’16年にリノベーションした建物だ。その1棟に構えるのが「喫茶ランドリー」。
約21坪の店内に入ると、飲み物や軽食を楽しめる喫茶スペースがあり、少し奥に業務用の洗濯機・乾燥機が3台ずつ、計6台並ぶランドリースペースが併設される。ほかにアイロンやミシンも用意されており、「まちの家事室」という名前で解放されている。
同店スタッフの三角(みすみ)陽子さんによれば、利用客の約9割はカフェ利用が目的。ランドリーは近隣に住む住民のほか、洗濯機が壊れたり、引越しして間もないため家具が利用できなかったりと、よんどころない事情ができたときに使われることが多いのだという。
同店の企画・運営を行うグランドレベルの大西正紀さんは、ランドリーは「赤字にならない程度の運営ができればいい」と笑う。
「私たちはもともと、建物や街をデザインする会社です。『喫茶ランドリー』は、家事やイベントもできる『超多機能スペース』であり、地域の『私設公民館』のような場所を目指しています。『喫茶ランドリー』は会社のアイコンであるとと同時に、新しいことを試す『実験場』のような位置づけなんです」
◆施設を広告媒体に見立て、利用を無料にする試みも
併設型のコインランドリーは、今後どのように進化を遂げていくのだろうか。ムガマエ代表取締役社長で経営コンサルタントの岩崎剛幸氏は、その方向性を大きく二つに整理する。
「一つはすでにある『コインランドリー×〇〇』という併設業態。カフェ、カラオケ、床屋など別のものと組み合わせることで客層は広がり、収益化が期待できるので、バリエーションを含めて確実に広がっていくでしょう。もう一つは別の事業で利益を出して、コインランドリーの利用価格を下げていくというやり方です。たとえば宮崎県に本社を置くコインランドリーの大手『WASHハウス』は過去、タッチパネルの大型モニターをつけたオリジナル洗濯乾燥機を開発しています。根底にあるのは、コインランドリーの施設そのものを広告媒体にするという『リテールメディア』の発想です。コインランドリーは滞在時間が長い分、広告を見る時間が長い。利用者も地域の方が多いので、住民にとって有益な情報を流せば大手企業が広告を出すよりも高い効果が狙えます」
コインランドリーはもはや、洗濯をするだけの場ではない。ビジネスや地域コミュニティ作りにおける最先端の「社会実験場」となりつつあるのだ。
岩崎剛幸(いわさき・たけゆき)
ムガマエ株式会社 代表取締役社長/経営コンサルタント。1969年、静岡市生まれ。船井総合研究所にて28年間、上席コンサルタントとして従事したのち、同社創業。流通小売・サービス業界のコンサルティングのスペシャリスト
<取材・文・撮影/松岡瑛理(本誌)>
【松岡瑛理】
一橋大学大学院社会学研究科修了後、『サンデー毎日』『週刊朝日』などの記者を経て、24年6月より『SPA!』編集部で編集・ライター。 Xアカウント: @osomatu_san