2026年4月末の導入した新型絶叫アトラクション「やんばるトルネード」(画像提供:ジャパンエンターテイメント)2025年7月に沖縄県北部・やんばるにグランドオープンしたテーマパーク「JUNGLIA OKINAWA(ジャングリア沖縄)」。
同テーマパークは、経営危機に陥っていたUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)をV字回復させた、マーケティング会社「刀」の森岡毅氏が手掛けたこともあり、開業前から大きな話題を呼んでいた。
総工費700億円、沖縄の自然と融合した「大自然没入型」の世界観、ここでしか味わえない本物のクオリティ……。
そういった開業前の期待とは裏腹に、蓋を開けてみれば「広告イメージと実際のギャップが大きすぎる」「目的のアトラクションを体験できないまま終わってしまった」といった賛否両論の声が飛び交うなど、オープン直後から「炎上」と報じられる事態に発展した。
まもなく開業から1年を迎えるジャングリア沖縄だが、果たして、今後の見通しや事業成長の目処が立っているのだろうか。
ジャングリア沖縄を運営する株式会社ジャパンエンターテイメント 取締役副社長の佐藤大介氏に話を聞いた。
◆開業初期の批判や失敗の先に見出した“手応え”
まず、ジャングリア沖縄の現状について率直な感想を求めると、佐藤氏は「課題はまだ数多く残っていて、思い描いていた通りに進まなかったこともたくさんあるが、『必ず成功できる』という確かな手応えも感じている」と答えた。
同氏は以前、経営危機にあった青森県の古牧グランドホテルを「星野リゾート青森屋」として再生させ、V字回復に導いた経験がある。
そうした視点から今のジャングリア沖縄の状況を見ると、「人材や資源の面では十分に恵まれた環境にいる」と自信を覗かせた。
「成長を実現するための仲間がいて、組織があり、設備もある。もちろん課題はありますが、『お金もない、人もいない、施設も老朽化している』という状態から再建するケースと比べれば、挑戦できる土台は整っています。
加えて、現在は観光需要そのものがコロナ禍と比べて回復しており、多くのお客様が沖縄を訪れているのも大きな追い風になっています。実際にジャングリア沖縄の来場者数も着実に増えており、お客様の満足度も改善傾向にあります」(佐藤氏、以下同)
◆ジャングリア沖縄が本気で取り組んだ構造改革とは
開業当初は、オフィシャルアプリのシステム不具合や長時間の待機列、さらには広告イメージと実際の体験クオリティとの乖離など、さまざまな課題が積み上がった。これらに加え、オペレーション面での経験不足や準備不足も相まって、批判やトラブルが集中する事態を招いたことは否めない。
しかし、こうした課題に対して真摯に向き合い、改善に向けて取り組んできた一つひとつの施策の成果が、目に見える形として現れてきているという。
まず注力したのがオペレーションの見直しだ。
待ち時間の短縮一つをとっても、並び方や案内方法の改善、スタッフの配置など、細かな運営改善を行ってきたと佐藤氏は話す。
「例えば人気アトラクションのジップライン『スカイフェニックス』では、安全確保のためにハーネス(墜落制止用器具)装着の入念なチェックは欠かせません。その一方で、長時間の待ち時間を解消する効率性も求められます。そのため、現場のスタッフたちは、ハーネスのサイズ選択や装着の順番、備品の配置場所などを細かく見直しながら改善を続けてきました。
その結果、当初は5分に1回程度だったジップラインの運行間隔を、現在では約2分30秒に1回まで短縮することができました。他のアトラクションでも、回転率が1.2倍から最大2倍近くまで向上するなど、生産性改善の成果が着実に現れています」
また、人気アトラクションの入場方法を「整理券方式」からアプリ上の抽選方式へと変更したことも、大きな改善につながったそうだ。
「開業当初は、朝一に紙の整理券を配布していたため、午前中に来場者が集中する状況が発生していました。そのため、整理券を入手できなかったゲストの満足度が低下し、さらには他のアトラクションの混雑も相まって、昼過ぎには多くの来場者が退園してしまう悪循環に陥っていたのです。
こうした構造的な課題に対し、紙の整理券を撤廃してアプリでの「1日3回の抽選制」へと刷新したことで、何時に来場しても公平にアトラクションを楽しめる環境を実現することができました」
◆“南国リゾート感”ではない、沖縄らしいコンテンツが満足度向上につながった
加えて、午後から来園するゲストを対象とした「午後パス」を2025年秋から導入。
人気アトラクション「ダイナソー サファリ」の優先利用特典を付与するなど、来場時間の分散化につながる取り組みを実施したほか、夜間のイベントやショーコンテンツを拡充することで、夕方以降の滞在価値の向上に努めた。
特に、ショーコンテンツに関しては“沖縄らしさ”を取り入れたことが奏功し、ゲストの満足度向上に寄与していると佐藤氏は説明した。
「当初は、無理に沖縄らしさを前面に出す必要はないと考えていました。むしろ、南国リゾートとしての世界観を重視した方が、新たなテーマパークとしての魅力が伝わると思っていたのです。
しかし、現場のスタッフがお客様と接するなかで、沖縄らしさを伝えることが県外のお客様にも地元の方々にも喜ばれることが分かってきました。そこで、ショーの演出に沖縄の要素を取り入れるようになったところ、お客様の体験価値や満足度の向上につながったんですね」
◆口コミ回復の原動力となった「スタッフのホスピタリティ」
さらに開業当初から課題となっていた暑さ対策についても、大型ミストファンの設置や日差しを避けられる大型休憩エリアの新設など、来場者がより快適に過ごせる環境づくりを進めている。
こうした一連の改善策を講じたことで、施設全体の受け入れ体制が向上し、ユーザーのリアルな評価にも大きな変化が生まれている。
かつては2点台前半と低迷していたGoogleや海外のOTAサイトでの口コミスコアだが、現在は4点台前半まで急上昇。現場の真摯な努力と改善に伴うPDCAを回し続けたことが、着実にブランドの信頼回復へと結びついているのだ。
特に注目すべきなのは、「スタッフのホスピタリティが非常に高い」ということ。
スタッフの人材育成においては「目的思考で動く」「集団知で勝つ」「高速PDCAを回す」という3つの考え方を大事にしている。
マニュアルに書かれた業務をただこなすのではなく、「自分たちは何のためにこれを行うのか」という本質的な目的を共有することを徹底しているという。
「私たちが目指しているのは、『お客様を喜ばせ、沖縄から日本の未来をつくること』です。その目的に共感したうえで、スタッフ一人ひとりが自分の言葉と判断で行動することを大切にしています。だからこそ、現場ではマニュアルには書かれていない創意工夫が次々と生まれています。
先述した『沖縄らしさを前面に出す』という姿勢も、スタッフが沖縄の方言や地域ならではの話題を積極的に取り入れたのがきっかけで、それが自然と施設全体に広がっていきました」
また、多様なバックグラウンドを持つスタッフが集まっていることも、今のサービス品質やホスピタリティの高さにつながっていると佐藤氏は続けた。
「『テーマパークのスタッフは20代が中心』というイメージを持たれがちですが、ジャングリア沖縄では20代の次に多いのが50代のスタッフなんですよ。その中には本土からの移住組もいれば、地元沖縄の出身者もおり、キャリアも、生まれ育った環境も、価値観もまったく違う多様なメンバーが集まっています。
一人ひとりの異なる視点を掛け合わせ、お客様のために知恵を絞り出す。こうした『集団知』こそ、私たちの誇る圧倒的なホスピタリティを支えています」
◆沖縄に行く“ついで”に、ジャングリア沖縄へ来てもらえるかが鍵を握る
沖縄北部エリアは、ジャングリア沖縄以外にも沖縄美ら海水族館や備瀬のフクギ並木、古宇利島、ナゴパイナップルパークなど、多くの観光スポットが点在している。
そのため、将来的には「沖縄北部エリア全体の滞在価値を高める」ことを未来像として掲げていると佐藤氏は述べた。
ただ、まずは何よりも、「実際にジャングリア沖縄へ来てもらう」という足元の集客をしっかり作っていくことが最優先だと言えるだろう。
直近では、従来の1日券だけでなく、短時間でも気軽に楽しめる「ふらっとチケット」を販売し、ショーやアトラクションの魅力を体験しながら、他の観光地とジャングリア沖縄を組み合わせやすくする取り組みも始めた。
「沖縄北部エリアの観光に関する調査を実施したところ、約4割が2泊3日までの短い行程で旅行されていることが分かりました。そのスケジュールの中で、沖縄美ら海水族館や古宇利島といった定番スポットを巡りつつ、『ジャングリア沖縄も体験したい』という需要があることも見えてきたのです。
そのため、限られた時間の中でも、自然とジャングリア沖縄を旅程に組み込んでいただけるよう、7月1日から9月30日までを対象入場期間とする『ふらっとチケット』を導入しました」
テーマパークそのものが旅行の目的地(デスティネーション)となるUSJや東京ディズニーランドに対し、ジャングリア沖縄は「沖縄旅行」がまず先にあり、その旅程の一部として訪れてもらうという決定的な違いがある。
つまり、“旅ナカ需要”(旅行者が滞在している期間中の消費や体験)をいかに取り込めるかが、盤石な集客基盤を作るうえで肝になってくるわけだ。
◆沖縄北部の価値を最大化し、「点」から「面」の観光へ
さらに集客戦略の新たな布石が、短時間で効率よく園内を巡るガイドツアー」の提供だ。2026年春に国内外の旅行会社向けツアー商品として販売開始され、スタッフによる入園ゲートでの出迎えから、おすすめのアトラクションへの優先案内、さらにはショーや買い物までを効率的に楽しめる内容となっている。
佐藤氏は、「国内外の旅行会社から『ぜひツアー商品に組み込みたい』との反響を多くいただいている」と説明するなど、集客チャネルの拡大については好感触を得ているようだ。
その一方で、リピート客の獲得には「常に進化していることが不可欠」だと佐藤氏は強調する。
2026年4月末には新型絶叫アトラクション「やんばるトルネード」を導入したほか、食事、お土産といったあらゆる要素で沖縄らしさを強化し、「訪れるたびに新しい発見がある場所であり続けたい」と、さらなる進化を見据えている。
「今後はジャングリア沖縄単体だけでなく、周辺観光施設と密に連携しながらエリア全体で沖縄北部の価値を引き上げていく。つまり、『点』ではなく『面』で魅力を訴求することで、地域全体の観光価値を高めていくことが鍵になります」
ようやく復調の兆しが見えてきたジャングリア沖縄。ここから真価を発揮し、持続的な成長を実現できるのか。その真骨頂が試されるのはこれからだ。
<取材・文・写真(インタビュー)/古田島大介>
【古田島大介】
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている