限定公開( 3 )

酢飯とガリだけの「ガリだけ丼」、ネギだらけでうどんが見えなくなった「ぶっかけうどん」、フライドチキンの皮だけが詰まった「皮だけフライドチキン」――。
このような商品名を見ると「な、なんだよ、なにかのネタ?」「ユーチューバーのおふざけ企画?」などと思われたかもしれないが、ドン・キホーテの人気商品の一例である。
ブランド名は「偏愛めし」。2023年11月に「みんなの75点より、誰かの120点」をコンセプトに、弁当や総菜などを販売したところ、累計販売数は1122万点を超え、売上高は31億円(2026年5月末時点)を突破した。
一見すると「やりすぎでは?」と思えるような商品は、どのように生まれているのか。担当者によると、これまでに454件のアイデアを出したものの、発売に至ったのは118件(2026年6月末時点)にとどまる。採用率は約26%。とがった商品ばかりに見えるが、その裏では多くの案がふるいにかけられているのだ。
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偏愛めしの登場から約2年8カ月。販売を続ける中で、どのような発見があったのか。販売データからは、お客のどのような買い方や選び方が見えてきたのか。ブランド担当の近藤藍さんに話を聞いた。聞き手は、ITmedia ビジネスオンライン編集部の土肥義則。
●一番人気は「あんだく溺れ天津飯」
土肥: 偏愛めしの売り上げが好調に推移しているようですね。2026年1〜5月の販売データを見ると、1位は「あんだく溺れ天津飯」。天津飯にしょうゆベースのだしとオイスターソースが香る餡(あん)をかけた商品で、開発にあたって「容器に入る限界ギリギリまで餡をかけることにこだわった」そうですね。
2位は「はみだしすぎィな鶏つくねおにぎり」、3位は「はみだしすぎィなチキン南蛮おにぎり」。どれも、思わずツッコミたくなる商品名が付いていますが、そもそもどういったきっかけでこのブランドを立ち上げたのでしょうか?
近藤: 偏愛めしが登場したのは2023年11月のことですが、当時、大きな課題がありました。それは「ドンキで総菜を販売している」という認知度が低いこと。ドンキらしさを感じられるとがった商品を開発できないか、ドンキでしか買えないような弁当や総菜を提供できないか。開発メンバーはそのようなことを考えていく中で、コンセプトを決めました。それは「みんなの75点より、誰かの120点」。
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なぜ、このコンセプトに決まったのかというと、以前のドンキは“万人受け”を狙っていたんですよね。75点の商品を販売したものの、なかなか売れませんでした。そうした失敗を繰り返していく中で、「好きな人は絶対に好き」といったものを開発できないか。誰かに「120点」と思ってもらえる商品を届けようと決めました。
土肥: 120点を狙うということは、どうしてもとがった商品になりますよね。「またドンキが遊んでいるよ」「食べもので遊んでいるんじゃないの?」といった声が出てきそうですが、そういった不安はなかったでしょうか?
近藤: これまでになかったような商品を提供しているので、遊んでいるように受け取る人もいるかもしれません。ただ、その商品をつくることには、きちんとした根拠があるんですよね。
まずは「実際にこういう食べ方をしている人がいる」ということをリサーチします。その上で試食を重ね、偏愛めしのコンセプトに合っているかを議論しながら商品化を進めています。
多くの人は「自分はこの食べ方が好きだけれど、ちょっと恥ずかしくて他人には言えないよな」といった心のうちに秘めているものがあると思うんですよね。
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土肥: カレーに納豆とか、スイカにマヨネーズとか。
近藤: 恥ずかしいので、他人には言えない。そうしたマニアックな食べ方を、偏愛めしは肯定できるのではないか。例えば、きくらげだらけの中華丼がありますが、そういった商品を見て、「こういう食べ方もあるんだ」と気付きのようなものを感じてもらえればと思っています。
●自分自身を見直すきっかけ
土肥: 偏愛めしらしさが一番よく表れている商品はどれでしょうか。その商品には、どのような思いを込めて開発したのか教えてください。
近藤: そうですね。個人的に特に気に入っている商品を2つご紹介します。1つめは「だし漬け枝豆」(現在は販売終了)。「脇役を主役に」がテーマの商品でして、枝豆にスポットを当てました。枝豆を2時間ほどダシに漬けているので、豆はもちろん、皮にもダシのうま味が染み込んでいる。というわけで、皮までしゃぶって楽しめるんですよね。
ですが、他人がそれを見ると、ちょっと汚く感じるというか、お行儀が悪いというか。しかし、あえて“しゃぶってほしい”という発想で開発しました。
土肥: うーん、会社のランチで“枝豆の皮をしゃぶる”のは、ちょっと勇気がいりますね(汗)。
近藤: ただ、家の中であればアリですよね。その食べ方を前提にして、商品開発を進めました。
もう1つは「フライドチキンの皮だけ弁当」。フライドチキンの皮と白飯だけの弁当ですが、なぜこのような商品を開発したのか。開発チームのあるメンバーは、フライドチキンの皮が大好きなんですよね。皮だけをはいで食べていたら、ある日、奥さんから怒られてしまって。というのも、奥さんが食べようとしたら、皮をはがされた鶏肉だけが残っていたそうです。
土肥: それは怒られても、仕方がない(笑)。
近藤: フライドチキンの皮だけ食べるって、お行儀が悪いですよね。でも、そのメンバーは、フライドチキンの皮が大好き。「であれば、皮が好きな人のために、皮だけの弁当をつくろう」という思いから開発がスタートしました。
土肥: 偏愛めしの商品を見て「そうそう、自分もここが好きなんだよね」と気付く人も多そうですね。そうした「分かる、分かる」と共感してもらえるかどうかが、一番の勝負どころなのでしょうか。
近藤: 誰の中にも「偏愛」はある。でも、それを自覚していない人も少なくないと思うんですよね。偏愛めしを見て、「そういえば、自分もココが好きだった」と思い出す人もいる。少し大げさかもしれませんが、自分の好みを再発見するきっかけになっているのではないでしょうか。
●幻のパクチーサンドイッチ
土肥: 近藤さんが担当した商品で、最もヒットした商品を教えてください。
近藤: 「半熟ゆで卵まるごと2.5個サンド」ですね。個人的に、ゆで卵の半熟がものすごく好きなんですよ。スーパーやコンビニではサンドイッチが販売されていますが、ほとんどが固ゆでなんですよね。私は毎日のように半熟ゆで卵のサンドイッチを食べたいのに、なかなか食べられない。であれば、商品化するのはどうかと考えました。
「半熟ゆで卵が好きな人は絶対にいるはず」と思っていたので、これでもかこれでもかといった具合に詰めてみました。できれば3個分を入れたかったのですが、サンドイッチのサイズは決まっているので、2.5個が限界でした。
販売後、どういった人が購入しているのか、データを調べてみました。偏愛めしにはとがった商品が多いので、半熟ゆで卵のサンドイッチと聞くと「フツー」と感じられたかもしれませんが、カラダを鍛えている人の購入が目立ちました。筋肉量を増やしたい→タンパク質を多く摂りたい→半熟ゆで卵が2.5個入ったサンドイッチを選ぶ、という流れが生まれていたのではないでしょうか。
土肥: 一方、企画を提案したものの、却下されたモノもあるはず。どんな商品だったのか、聞かせてください。
近藤: パクチーって、好き嫌いがはっきり分かれる食材ですよね。ちょっと調べたところ、遺伝的な要因で苦手だとされる人がいることが分かってきました。パクチーを食べたときに「せっけんのような味がする」と感じたり、そもそも「においがダメ」という人もいたり。ということは、好きな人はそれだけ偏愛性が高いのではないか、という仮説を立てました。
サンドイッチのパンにできるだけたくさんのパクチーを詰め込んで、開発メンバーに試食してもらいました。ですが、パクチー好きからは「まったく足りない」と言われたんですよね。どういうことか。レストランなどで「パクチーサラダ」を注文すると、パクチーが山盛りになっていることがある。パクチー好きにとっては、それくらい食べないと満足できない。ということもあって、サンドイッチに詰め込んだ量では、「全く足りない」という感想が返ってきました。
求められる量のハードルが高すぎて、それを超えられませんでした。ですが、まだあきらめていません。引き続きアイデアを練って、いつか商品化できればと思っています。
●近藤さんの120点は?
土肥: 偏愛めしには、いくつかのカテゴリーがありますよね。お弁当・丼、サラダ、おにぎり、サンドイッチなど。その中に「おつまみ」がありますが、どのような人が購入しているのでしょうか?
近藤: 開発メンバーは男性をターゲットにして、商品をつくっているのですが、販売データを見ると、購入者は男女ほぼ半々なんですよね。カップタイプの総菜でいえば「無限沼ニラ」「カレー風味限界ポテトサラダ」「紅ポテ 」があって、お酒との併売率を調べてみました(1回の会計でカップ総菜を買う際に、お酒を一緒に買っている割合)。
ドンキで扱っている一般的なカップ総菜の場合、お酒との併売率は35%。一方、偏愛めしのカップ総菜の併売率は55%なので、20ポイント高いんですよね。中でも無限沼ニラは66%と、さらに高い数字となっています。
土肥: 無限沼ニラのパッケージをじっくり見ると、「ラーメン屋のあのしょっぱ辛いニラで呑みたい人専用! ビールが何杯でもイケる」と書かれている。
近藤: 総菜の場合、売れ行きのピークは昼と夕方。ただ、偏愛めしのカップ総菜は、夜によく売れるんですよね。お酒との併売率を考えると、酒の肴として楽しまれているのではないでしょうか。
また、偏愛めしには、にんにく約1玉分を使った「最香チキン弁当」があって、この商品は金曜日の夜にものすごく売れる。「明日は仕事が休みだから、取引先や同僚を気にせずににんにくを食べられる」と考える人が多いのかもしれません。
土肥: 最後に、質問をひとつ。偏愛めしの開発メンバーとして、近藤さんにお話をうかがってきましたが、ご自身のことを採点してもらえますか? さて、何点でしょうか?
近藤: うーん、なるべく90点は目指したいなあと思っているのですが、コミュニケーション能力は78点、性格は悪いので52点ですかね(涙)。
土肥: では、120点と思えるところはなんでしょうか?
近藤: 人のためなら、がんばれることです!
土肥: その120点があるなら、性格52点はカバーできそうですね(笑)。本日はありがとうございました。
(おわり)
※下記の関連記事にある『【完全版】なぜ「皮だけ」「ガリだけ」が売れるのか 販売データで見えたドンキ「偏愛めし」の買われ方』では、配信していない豊富な写真とともに記事を閲覧できます。
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