限定公開( 22 )
突如作中に現れたかと思いきや、名前や設定が明かされる間もなく一瞬で死亡してしまう……。そんな即死系のモブキャラが登場する漫画は少なくない。しかもなぜか読者のあいだで熱狂的な人気を集めがちだ。
今回は『週刊少年ジャンプ』(集英社)の作品に登場するレジェンド級の“即死モブ”たちを取り上げ、その人気の秘密に迫っていきたい。
敵も味方もあらゆるキャラクターが熱い生き様を見せる『鬼滅の刃』だが、単行本5巻では、生き様を見せる間もなく死んでいったモブキャラが描かれていた。
物語序盤の「那田蜘蛛山」編で、主人公・炭治郎たちは鬼殺隊士たちが蜘蛛の糸のようなもので攻撃されているところに遭遇する。そしてそのボスとして登場するのが、下弦の鬼・累(るい)だった。
炭治郎との戦闘が始まる直前、森の中から鬼殺隊士が突如出現。子どものような見た目をしている累を侮り、薄笑いを浮かべながら斬りかかっていくが、相手を振り向かせることもできずに屠られてしまう。
|
|
このシーンのインパクトが大きかったのは、教科書通りとも言えるフラグ回収の仕方にある。「こんなガキの鬼なら俺でも殺れるぜ」と余裕しゃくしゃくのセリフを吐いておきながら、次の瞬間には木っ端微塵。その出番は原作では4ページ、TVアニメではおよそ30秒という尺で、清々しいほどの出落ち感だった。
おまけにその散り様は、全身を蜘蛛の巣状に斬り刻まれてバラバラになるというもの。あまりにショッキングな光景だが、ファンからは愛情を込めて「サイコロステーキ先輩」と呼ばれている。
人気の高い即死モブは『HUNTER×HUNTER』にも存在する。それは幻影旅団が暗躍した「ヨークシン編」で登場した、名もなき殺し屋だ。その殺し屋は、幻影旅団の団長・クロロが手刀でネオン=ノストラードを気絶させた際、映像を見て何が起こったのか見抜いてみせた人物。「おそろしく速い手刀 オレでなきゃ見逃しちゃうね」というセリフはあまりに有名だろう。彼の正式な本名は明かされておらず、ファンのあいだでは「団長の手刀を見逃さなかった人」という通称で知られている。
彼はクロロの実力に興奮し、「久々に血が騒ぐ」「オレの獲物だ」といかにも強キャラめいた発言を連発していく。そして意気揚々と1対1で戦いを挑むのだが、次の話で即座に敗北。しかも身体をバラバラにされて壁に貼り付けられるという無残なやられ方だった。
ただ、彼に関しては“実は本当に強キャラだった”という説も。よく見ると戦闘後のクロロは、ネクタイを途中で切り落とされているため、それなりに肉薄した戦いだったのではないか……とも考えられるからだ。物語の余白に想像力を膨らませられるのは、即死キャラならではの醍醐味と言えるだろう。
|
|
『ドラゴンボール』に登場する「戦闘力5のおじさん」も、有名なモブキャラの一人だ。彼は地球にやってきたラディッツが最初に対面した一般人で、恐怖心からライフルを構えて戦おうとするも、呆気なく退場させられてしまう。
原作での活躍はわずか6ページという短さだったが、実はこのシーン、作中で初めて“戦闘力”という概念が可視化された歴史的瞬間だった。しかもラディッツのスカウターに表示されたおじさんの戦闘力は「5」。一桁を記録したのは潜在能力を隠していた4歳の孫悟飯くらいで、ほぼ現役を退いている亀仙人ですら139だった。修行とは無縁の一般人なので当然といえば当然だが、それでも「5」というあんまりな数値が、逆に強烈な印象を残す結果となった。
なお「戦闘力5のおじさん」は、フィギュアやTシャツといった公式グッズが発売されるほどの人気ぶりで、スマホゲーム『ドラゴンボール レジェンズ』では、エイプリルフールイベントでフィーチャーされたことも。今や『ドラゴンボール』でもっとも有名なモブキャラの1人として愛されている。
『DEATH NOTE』の渋井丸拓男、通称シブタクといえば、ジャンプ漫画のモブキャラを語るうえで外せない存在だ。
原作第1話に登場した彼は、チンピラのような存在。集団でバイクを乗り回し、道を歩いていた女性を集団で取り囲んでナンパしていたところ、デスノートの力で事故死させられた。ナルシスティックな身振りで“シブタク”と名乗り始める強烈な個性、猛スピードで突っ込んできたトラックに轢かれる無残な最期、いずれも読者の記憶に強く刻まれる要因となった。
|
|
とはいえ彼と出会ったときの夜神月(キラ)はまだデスノートの力に半信半疑で、手ごろな実験台を探していた段階だった。そのため後にキラが処刑していく凶悪犯罪者たちと比べると、かなり小物。冷静に考えると、たんに女性に声をかけていただけだ。迷惑な人物ではあるものの、死罪に値するかどうかはきわめて疑わしい。インパクト絶大なキャラクター性にごまかされているが、実は哀れな人物だったと言えるのではないだろうか。
ちなみにこの問題を解決するためか、アニメ版では軽薄なチンピラから暴行未遂犯へと設定が改変されている。これによって、もはや同情の余地がないキャラクターになってしまった。
すぐれた漫画家はメインキャラクターや脇役だけでなく、モブキャラに至るまで独創的な描写を欠かさないもの。名作漫画でレジェンド級の即死モブが頻出していることには、それだけの必然性があるのかもしれない。
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 realsound.jp 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。