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英レスター大学などに所属する研究者らが2019年に発表した論文「Comparative Relevance of Physical Fitness and Adiposity on Life Expectancy」は、身体能力と肥満度が平均寿命にどのように影響するのかを詳しく調査した研究報告である。特に注目したのは、自己申告による歩行ペースと握力計で測定した握力という2つの身体能力指標である。
実験は2006〜2016年にかけて行われ、47万4919人という大規模な参加者を対象とした。参加者の年齢中央値は58.2歳であった。追跡期間中に1万2823人が死亡している。
実験では、歩行ペースを自己申告してもらい、また握力計を使用して握力を測定した。さらに、BMI、ウエスト周囲径、体脂肪率といった体格指標も記録している。
研究結果で最も興味深いのは、歩行ペースと平均寿命の関係である。「速い」歩行ペースと報告した参加者は、BMIに関係なく長寿の傾向を示した。具体的には、女性で86.7〜87.8歳、男性で85.2〜86.8歳という高い平均寿命を記録している。これは肥満度に関わらず一貫した結果であった。
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対照的に、「遅い」歩行ペースと報告した参加者は、全般的に短い平均寿命を示し、女性は72.4〜85.0歳、男性は64.8〜81.2歳となった。特に注目すべきは、BMIが20kg/m^2未満のやせ型かつ歩行ペースが遅い参加者で、女性は72.4歳、男性では64.8歳という著しく低い平均寿命を観察できた。この結果は、単に肥満度だけでなく、身体能力の重要性を強く示唆している。
握力については、高い握力と低い握力の間で平均寿命に差は見られたものの、その差は歩行ペースほど顕著ではなかった。特に女性においては、握力の違いによる平均寿命への影響は一貫性が低かった。同様のパターンは、ウエスト周囲径や体脂肪率を用いた分析でも確認されている。
この研究の重要な発見は、速い歩行ペースが示す長寿傾向が、肥満度に関係なく一貫していることである。これは、日常的な身体能力が健康状態の重要な指標となることを示している。特に注目すべきは、低BMIと遅い歩行ペースを併せ持つ群が最も低い平均寿命を示したことである。この結果は、単純に体重が少ないことが健康的とは限らないことを示唆している。
Source and Image Credits: Comparative Relevance of Physical Fitness and Adiposity on Life Expectancy Zaccardi, Francesco et al. Mayo Clinic Proceedings, Volume 94, Issue 6, 985 - 994
※ちょっと昔のInnovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。通常は新規性の高い科学論文を解説しているが、ここでは番外編として“ちょっと昔”に発表された個性的な科学論文を取り上げる。X: @shiropen2
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