限定公開( 4 )

聞こえづらさによる社会的な孤立を防ぐ──NTTグループが新ブランド「cocoe(ココエ)」で挑戦するのは、そんな課題です。第一弾製品のオープンイヤー型集音器「cocoe Ear」と、テレビ用Auracastトランスミッター「cocoe Link」の発表から見えてくるのは、"聞こえ"の未来に新たな可能性を広げるものでした。
国内の推定難聴者数は約1430万人。加齢に伴う"聞こえ"に課題を抱える人も増えていますが、補聴器の普及率は欧米の約半分である15%程度にとどまっています。この「聞こえの格差」は、単に生活の不便さだけでなく、認知症リスクの増大や社会的な孤立といった、より深刻な問題へもつながります。そこに一石を投じるのがcocoeです。
●"補聴器らしくない"集音器のあたらしさ
cocoe Earは、世界初をうたうオープンイヤー型の集音器です。最大の特徴は、集音器なのに耳をふさがないこと。従来の集音器やイヤフォンが抱えていた閉塞感や圧迫感、自分の声がこもって聞こえるといった不快感を解消するのが目的です。
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このオープンイヤー構造により、ユーザーは自身の聴力で聞こえる周囲の音はそのままに、聞こえにくくなった高音域などをデバイスが増幅して補う「ハイブリッドな聞こえ」を体験できるのです。加齢に伴う聴力低下は高音域から始まることが多いため、理にかなったアプローチといえます。
この自然な聞こえを支えるのが、NTTの特許技術「PSZ(パーソナライズドサウンドゾーン)」。スピーカーから出た音波とは逆位相の音波を重ね合わせることで音を打ち消し、耳元だけに音のゾーンを作り出す技術。これにより、オープンイヤー型でありながら周囲への音漏れと、スピーカーの音をマイクが拾ってしまうことで発生する不快なハウリングを大幅に抑制しています。
さらに、心臓部には高性能なチップを搭載し、音声処理の遅延(レイテンシー)を約2.5ミリ秒(0.0025秒)という極めて短い時間に抑え込んでいます。オープンイヤー型では、自分の耳で直接聞く音と、デバイスが処理した音の間に遅延があると、音が二重に聞こえるなどの違和感につながります。この超低遅延処理が、自然な音質を実現する上で重要な役割を果たしているのです。
また、片耳わずか約10gという軽量設計に加え、落下防止用のネックストラップを付属するなど、開発段階で50代以上のユーザーから集めた「落としそうで不安」「長時間着けていると疲れる」といったリアルな声が随所に反映されています。
一応、付け加えると通常のワイヤレスイヤフォンとしてももちろん使うことができます。見た目も含めて、ワイヤレスイヤフォンでありながら、実際には集音器であるのが、この製品の核となっているところです。そのおかげで、cocoe Earを使っていても、いかにも集音器を使っているようには見えません。
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●Auracastを家庭に持ち込む「cocoe Link」
今回の発表で、cocoe Earと同じくらい、あるいはそれ以上に注目すべきなのが、テレビ用Auracastトランスミッター「cocoe Link」の存在です。
Auracastは、Bluetooth LE Audioのブロードキャスト機能で、1つの音源デバイスから複数のレシーバー(イヤフォンなど)へ音声を一斉配信する技術です。例えば、この技術があれば、スピーカーから大音量を流さなくても、多くの人たちに一度に音を聞かせることができるわけです。これまで、空港のアナウンスや駅の多言語案内、パブリックビューイングなど、公共空間での活用が期待されてきました。
cocoe Linkは、このAuracastを家庭内に持ち込む画期的な製品といえます。この技術が「テレビの音が大きくて家族に迷惑をかけてしまう」という、高齢者がいる家庭が抱える普遍的な悩みを解決するというわけです。このcocoe Linkをテレビに接続すれば、同じ番組を見ている家族が、それぞれ手元のcocoe Earで自分に最適な音量で音声を聞くことができるのです。なお、メーカーとしてはもちろん保証しませんが、Auracastに対応したワイヤレスイヤフォンであれば、cocoe Linkと接続することも可能なはずです。
さらに特筆すべきは、Auracast設定の設計です。Auracastには、誰でも受信できる「オープンな配信」と、特定の受信者のみに限定する「プライベートな配信」があり、家庭内で利用する場合、隣家の音声が混信しては困るため、プライベート配信の設定が必須となります。
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通常、こうした設定はスマートフォンのアプリ上で行うなど、ITに不慣れな層にはハードルが高いものです。しかし、cocoe Linkは、cocoe Earの充電ケースとcocoe Link本体を物理的なUSBケーブルで接続し、ボタンを押すだけでプライベート配信の設定が完了するのです。
この「有線で鍵をかける」という、直感的で分かりやすいアイデアは、高齢者向け製品のUI/UXデザインとして非常に優れています。複雑なペアリング作業を必要としない仕様は、Auracast普及のきっかけとなるでしょう。
●cocoeが切り拓く"聞こえ"のパーソナライズ時代
cocoeは、単に「聞こえを補うツール」ではありません。オープンイヤー型であるため、音楽鑑賞やオンライン会議など、現代人の多様なライフスタイルにシームレスに溶け込むライフスタイルデバイスとしての側面を持っています。
NTTグループが描く、誰もが自分らしい"聞こえ"を享受できる未来。cocoeの登場は、その可能性を広げる一歩となることを期待されています。
なお、cocoe EarはクラウドファンディングサイトGreen Fundingでプロジェクトが進行中で、すでにその支援は3000人を超えています。この製品への期待が反映された数字といえるでしょう。
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