「×」ボタンをタップしても消えない――「UI偽装広告」が壊すデジタル社会の常識

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2026年02月05日 15:00  ITmedia NEWS

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 ネットで無料で閲覧できる情報や、無料で利用できるサービスには、大抵広告が付いている。これはビジネスモデルとして仕方がないところではあるが、ニュース記事なのに広告で本文が読めないなど、その在り方には本末転倒感が漂ってきているところである。


【画像を見る】これが「x」をタップしても消せない「UI偽装広告」(全9枚)


 ネット広告の問題を挙げればキリがないところではあるが、昨今筆者が注意してサンプルを収集しているのが、UIを偽装するタイプの広告である。こう言われてピンとくる人は少ないと思うので、例を挙げながら解説する。なお広告画面には著作権があるため、純粋に広告に関わる部分、あるいはセキュリティに関わる部分にはモザイク処理を行っている。


 まずオーソドックスな例としては、以下のようなものがある。


 一見何の変哲もないゲームの広告のように見える。ゲームのプレイ画面がアニメーションで表示され、上部に見える「Skip」もしくは「×」で広告を閉じられるという作りだ。


 この「Skip」と「×」が、偽装されたUIである。この部分も広告内の画像の一部で、どちらをタップしても結局はゲームのインストール画面へ誘導される。本当のUIは、画面上部に小さく表示されている「>>」である。


 こうした手法は、中国系ECサイトの広告でもよく見かける。「閉じる」ボタンをタップしたのに結局ECサイトに飛ばされるという経験をした人も多いのではないだろうか。


 ほとんどの人はタップする場所を間違えたか、タップしそこなったのかと自分の操作ミスをうたがってしまうが、実際には偽装されたUIによって、だまされて誘導されているのである。


 別のパターンも見てみよう。以下はニュースサイト内に表示された、次のページへ進むためのボタンのように見える。だが実際にはこの部分が広告枠である。


 記事の続きを見ようと思ってここをクリックすると、ウイルス感染のアラートを偽装したフィッシングサイトへ誘導される。マイクロソフトの公式ページへ移動したような作りになっているが、URLは全く無関係であることを示している。


 多くのネット記事は複数のページに分かれていたり、参照画像だけ次のページに置いてあるといった構成が多く、ページの下部に「次へ」や「続き」といったリンクボタンが設置されている。このボタンを偽装した広告だ。


 この広告は、Google Adsenseで配信されている。よって広告に問題があれば、その場でユーザーが報告できるようになっている。だが報告の内容には、フィッシング詐欺に対する報告に相当する選択肢がない。


 Googleへ報告したい場合は、「マイアドセンター」の「最近表示された広告」をたどって該当の広告を探し、詐欺広告として報告することはできる。


 こうした違法サイトへ誘導する広告は、そもそも景品表示法において違法になるのではないかと思われるだろう。ただこのケースでは明確に線引きができていない微妙なところなので、生き残っているものと思われる。


 景品表示法は、表示された広告内容が明らかに違法性があるものに適用される。例えば内容が全くうそである、実物以上によく見えるように誤解を与えるような表現をしている、といった場合だ。単に「続きへ」と表示された広告は、こうした条件には当てはまらない。


 ネットの広告は表示されて終わりではなく、それをクリックすることで別ページへ遷移できる。この場合、その遷移先と広告表示の関連性も問題になる。景品表示法は、表示された広告とリンク先とを一体評価するという仕組みも備えている。


 例えば広告表示画面で「公式」をうたっているが、実際のリンク先は非公式や偽サイトであった場合は、優良誤認あるいは有利誤認表示として違法になる余地がある。


 一方単に「続きへ」と表示された広告においては、「続きへ」とは「広告の続きへどうぞ」という意味であるという主張も、一応成り立つ。


 景品表示法は、リンク先が違法サイトであるかどうかでは違法性を評価しない。あくまでも、広告表示とリンク先の関連性において、事実と異なるかどうかを評価するだけである。


 しかし、ニュースサイトにおいて「続きへ」という表示を見かけたら、普通は次のページへ行くためのリンクボタンであると思うだろう。これがユーザーインタフェースを偽装する広告手法である。


●OS・アプリ表示を偽装した広告


 次の例は、広告には見えないかもしれない。


 一見するとゲームアプリに対するアップデート画面のように見える。すでにアップデートは自動ダウンロード済みで、あとは更新するだけのように見える。


 だが実際には、これ全体が広告画面である。質が悪いのは、この広告が出てくるのが、似たようなゲームの最中であるということだ。つまり現在プレイしているゲームがバージョンアップするかのように錯覚する。


 ここの更新ボタンは実際にはボタン機能はなく、この画面全体が1つのリンクボタンとして機能し、別のゲームのインストール画面へと誘導される。この偽装UIのポイントは、アップデート画面なので、キャンセルボタンを提示しておらず、一方通行になっているのが疑われないことだ。そのためユーザーは、もう更新するしかないとして画面をタップする。実は広告を閉じるスキップボタンは、画面左上に小さく表示されている。


 似たような例として、以下のようなパターンもある。


 同様にアプリのアップデートを偽装する広告だが、こちらは選択肢として「はい」しか表示されていない。上記のアップデートの場合と違い、こちらは「古いバージョンはまもなく…」とあるので、まだ猶予があることを示している。にもかかわらず、「はい」しか選択肢を表示していない時点で、UIのガイドラインに違反している。「はい」というボタンを設置する場合は、「いいえ」また「キャンセル」のような選択肢を表示することが求められる。


 次の例は、ニュース記事の途中に表示されるGoogle Adsenseの広告で、PDF版の有効期限切れを偽装したものだ。このニュースサイトはHTMLで書かれており、PDF版など存在しない。だが利用者は、「もしかしたら今PDFで見ているのかも」と錯覚する。


 こちらは「更新する」と「キャンセル」ボタンが表示されており、一見するとOSからの公式なメッセージのように見える。だがこれも前出のパターン同様ただの1枚絵なので、どちらのボタンを押してもフィッシングサイトへ接続される。


 存在しないアップデートを、システムメッセージであるかのように偽装する広告は、どのサイトやどのアプリ中で突然表示されても、違和感がない。システムのメッセージは、いつも割り込みで表示されるものだからだ。


 また以前ならこうしたテキスト系の詐欺広告は、日本語がおかしいなどと言った特徴があり、見破ることができた。しかし今はAIによる日本語翻訳がかなり洗練されており、日本語の怪しさがなくなっている。AIの発達は、国外の詐欺グループが日本語で活動しやすくなるという弊害を生んでいるように思われる。


●なぜUI偽装型広告は有害なのか


 UIを偽装する広告は、ある意味ユーザーの錯誤を利用して広告をクリックさせる。遷移先は問題のないサイトやサービスである場合もあれば、違法サイトや違法サービスである場合もある。違法サイトへ遷移するタイプは、広告とリンク先を一体で考えるならば、景品表示法での違法性は問えるだろう。


 一方UIは法律ではなく、OSにおけるガイドラインだ。従ってアプリの実装として違反したものは処罰されるわけではなく、OS事業者から修正が求められ、修正されるまで公開されないだけである。このあたりは、OS事業者がアプリの審査を行っていた時代にはある程度機能していた、という話で、スマホ新法以降はまた違った問題になってくるが、ここではその話はいったん置いておく。


 本稿で問題にしたいのは、UIを偽装する広告の社会的有害性についてである。例えば「×印は閉じる」、「はい」と「キャンセル」の先には違う結果が待っているといったお約束は、世界中で通用する。現在われわれが利用しているPCやスマートフォン上のこうしたUIは、長い試行錯誤や経験、失敗によって積み上げられたものだ。こうしたルールは、法規制や人命の犠牲なしに成し遂げられた数少ない成果の1つであり、開発者もユーザーも皆がこれを守ることで、コンピューティングがスムーズに成し遂げられる。


 しかし広告はただの画像表示であり、コンピューティングにおけるUIではない。よってUIのガイドラインの縛りを受けない。また広告内容の表現について、OS事業者がガイドラインを設けることも筋が違う。


 こうしたUIの常識を逆手にとって消費者をさます手口が主流になれば、UIの常識は常にうたがってかからなければならない状況になる。これはせっかく築き上げた世界共通ルールが崩壊する可能性を示している。「はい」と「キャンセル」の結果が同じといったことが新常識になる世界では、まともなコンピューティングは期待できない。筆者が懸念しているのは、ここである。


 基本的に広告が何らかのものに偽装するということは、消費者をだますことと同義であり、その点では景品表示法上で違法と判断される可能性はある。だが消費者には通報手段がほとんどなく、被害が出てからでなければ警察や行政が動かないという現状がある。これは被害や違法状態を未然に防ぐという、法の原則から逸脱する。


 われわれ消費者には自衛のために、こうした偽装広告に出会った段階で、何らかの対応ができるようなツールが必要だ。広告全部をブロックすることはその人にメリットがあるだけで、社会的なリスクである「UIの常識の崩壊」という問題は解消できない。また広告出稿システムを提供する会社に対して、ルールの厳格化・厳罰化を求める動きもあるべきだ。


 UIを利用して人をだますという手段は、正当化されるべきではない。こうした社会悪である広告が野放しにならないよう、広告主、出稿システム運用者、メディア・サービス運営者、消費者がそれぞれの立場で、やれることはないのか探していく必要がある。



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  • これこれ�ͺ�����exclamation ��2 前から気になってました����Ĺ�����棱���פä��ä��ʴ���å�������Ф��͡� �Х�をクリックしても閉じられなくてプチストレス�फ�á��ܤ�� ※国の通販がしつこくて、閉じる迄15分以上位かかりました�㤭��
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