トランプ長男のロシア問題は、なぜ深刻なのか? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

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2017年07月14日 15:52  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<大統領選前にロシア人弁護士と面会していたトランプの長男ドン・ジュニア。ロシアの選挙介入を共謀していたことが立証されれば大変な事態に>


トランプ政権とその周囲がロシアと不適切な関係にあるという疑惑は、「ロシアゲート」と呼ばれ、現在はFBI並びに特別検察官による捜査が続いていました。その内容は、これまでは大きく分けて次の2つの疑惑が中心でした。


(1)トランプの選対本部長だったポール・マナフォート、安全保障補佐官だったマイケル・フリンの両名が、ロシア当局並びにその関係者の影響下にあり、金銭的にも不適切な関係があったという容疑。


(2)ロシア政府および諜報機関等が、自分たちに厳しく敵対しているヒラリー・クリントン候補が大統領に就任するのを妨害するために、2016年11月の大統領選に際してサイバー攻撃などの手段で選挙結果を歪めようとしたという疑惑。


この2つの問題は、基本的に別の問題です。ですが、仮にこの疑惑が一つのストーリーとして「一本につながる」ことになる、つまり「ロシアはトランプ政権の成立を望み、トランプ陣営は選挙戦勝利のためにロシアの諜報機関の工作を歓迎し、両者が何らかの連携をしていた」ということが立証できれば、大変なことになるわけです。


【参考記事】トランプ長男、ロシア疑惑の動かぬ証拠を自らツイート


そうなれば「大統領選が外国勢力によって歪められ、アメリカの民主主義が傷つけられた」ということになり、トランプ大統領は弾劾され、関係者の多くは有罪となって刑事罰を受けることになります。ただ、そこまでの立証は簡単ではない中で、例えばトランプ政権の内部で「発言の矛盾」が出てきたり、「事実の隠蔽工作」を行った形跡が明らかになったりすれば、それだけで大きなダメージになります。


今回「トランプ長男がロシアの弁護士に接触」というスキャンダルが一気に大きな問題になったのは、このロシア疑惑の様々なストーリーの中で、癒着疑惑の点でも隠蔽工作疑惑の点でも、様々な疑念を生じさせたからです。


このニュースですが、昨年夏にトランプが最終的に共和党の大統領候補への指名を確定した直後に、長男ドン・ジュニアがロブ・ゴールドストーンというフィクサーを通じてロシア人弁護士のナタリア・ベセルニツカヤ氏と面会したという問題です。


ベセルニツカヤ氏は2016年6月9日にトランプタワーを訪問し、ドン・ジュニアだけでなく大統領の娘婿ジャレット・クシュナー、そして当時は選対本部長だったポール・マナフォートの3人が、面会したとされています。


これについては次のような問題を指摘することができます。


まず仲介したゴールドストーンは、「ロシア政府が入手した『ヒラリーを犯罪者にすることができる』情報」を、このベセルニツカヤ氏が提供してくれると述べ、ドン・ジュニアはその情報提供を期待して面会したと言われています。この点に関しては、ニューヨーク・タイムズがスクープすることがわかった時点で、ドン・ジュニアはメールを公表しているので、すでに動かぬ事実となっています。


結果的に「会ってみたらそんな情報はなかった」として「未遂」だという主張になっていますが、少なくとも大統領の長男が選挙戦に勝つために外国勢力による諜報活動の結果を利用しようとした事実は動きません。


そのベセルニツカヤ氏との面談ですが「期待していたヒラリーに関する犯罪情報」はまったくなく、その代わりに「アメリカによるロシアの子供の養子縁組をプーチン政権が禁止している」という「養子縁組問題」の話題ばかりを、ベセルニツカヤ氏は時間いっぱい主張しただけだったと、ドン・ジュニア側はそう言っています。


仮にこれが事実だとしても、そこには深刻な問題があります。というのはロシアからアメリカへの養子縁組をロシアが禁止しているのは、アメリカによるロシアの「人権弾圧者への制裁」の根拠となっている「マグニツキー法」への報復として行われているものだからです。このマグニツキー法というのはロシアの人権活動家で、政府高官の腐敗を暴いたセルゲイ・マグニツキーという弁護士が2009年に獄死したことから、「マグニツキー殺害に関わった」とされる高官を「名指し」して資産凍結やアメリカへの入国禁止を規定しているものです。


【参考記事】初顔合わせの米ロ首脳会談、結果はプーチンの圧勝


実はベセルニツカヤ氏は、オバマ政権当時にアメリカの議会が与野党超党派でこの「マグニツキー法」を成立させようとしていた際に、成立を阻止するためのロビー活動を行っていた人物です。ということは、ドン・ジュニアに対して「養子縁組問題」を取り上げたというのは、要するに「マグニツキー法を停止せよ」という主張を行ったという理解が可能です。


さらに、この面会についてドン・ジュニアは父親であるトランプ大統領には報告しなかったとしており、大統領も「この件は数日前に知っただけだ」としています。ところが、面会をアレンジしたフィクサーのゴールドストーンという人物は、以前にトランプがモスクワでの「ミス・コンテスト」を開催した際に、そのアレンジを行っており、大統領自身との面識があるという報道が出ています。仮に大統領の「知らなかった」という発言が虚偽であれば大変なことになります。


事態を重く見た連邦議会上院司法委員会は、ドン・ジュニアを公聴会に招致することを決定、早ければ来週にも「公開形式での証人喚問」が行われる見通しとなりました。「ロシアゲート」は一気に深刻な局面を迎えています。



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