【大人の必読書】明日は我が身!?『他人をバカにしたがる男たち』

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2017年09月06日 21:00  citrus

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もしかしたら近親憎悪かもしれませんが、世の中でもっとも目障りなのは、威張りんぼの「ジジイ」です。いや、この「ジジイ」は、年配の男性のことではありません。小さな権力を振り回し、今の立場にしがみつき、スキあらば人をバカにして、あの手この手でチンケなプライドを守ろうとするタイプの総称です。あなたのまわりにも、そんな迷惑なジジイがいるのではないでしょうか。

 

ジジイの鬱陶しさに辟易していた折も折、「我が意を得たり!」と激しく膝を打つ本と出合いました。健康社会学者である河合薫さんの『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)です。職場や社会にはびこるジジイがいかに困った存在か、なぜはびこってしまったのかを幅広い学説や研究結果を元に解き明かしている一冊。勢いよくうなづきつつ、おっさんとしては「明日は我が身かも……」と静かに震えずにはいられません。

 

この本で言う「ジジイ」とは、自分の保身ばかりを考え、行動する人たちのこと。コンビニの店員さんにキレたり、何もできないしヤル気もないのにプライドばかり高かったり、女性や年下をことさら見下したり……。それらも要は保身のため。ああ、みっともないったらありゃしません。本の中でも「ジジイ」は年齢や性別を問わないと書かれてはいますが、何だかんだ言って強固な「男社会」が続いている日本においては、ジジイ問題はおもにおっさんの問題と言っていいでしょう。

 

著者の河合薫さんは、かつては気象予報士として「ニュースステーション」などに出演していました。その後学問方面に大きく舵を切り、東京大学大学院医学系研究科に進学。博士課程を修了し、現在は「人の働き方は環境がつくる」をテーマに、研究や執筆活動を行なっています。この本も、女性タレントがジジイへの怒りを面白おかしくぶちまけている内容ではありません。わかりやすく書かれてはいますが、どの話も学術的な裏付けを元に、ジジイの置かれている状況をきっちり分析し、ジジイについて多角的に考察しています。

 

一部の、いや多くのおっさんはなぜ、困ったジジイになってしまうのか。社会や企業に蔓延している「ジジイの壁」が、いかにしぶとく、どれだけ大きなマイナスになっているか。虚勢を張るしかないジジイにならないためには、どうすればいいのか。本書で繰り返し出てくるキーワードは「SOC=Sense Of Coherence」。直訳すると「首尾一貫能力」、平たくいうと、人生のつじつま合わせができる力のこと。まだ間に合います。本書を熟読して、少しでもちゃんとしたおっさんを目指しましょう。

 

ちょっと本からは離れますが、リアルだけでなくSNS上でも、タチの悪い「ジジイ」たちが今日も大暴れしています。小さなプライドにしがみついて自分を守りたがっているといえば、まず思い浮かぶのが、いわゆる「ネトウヨ」の人たち。会社内のジジイが女性の足を引っ張るのも、あの人たちが他国を悪しざまに言うのも、構図は同じと言っていいでしょう。あそこまでわかりやすくなくても、いわゆるオヤジの「クソリプ」や「クソコメ」と言われるもののタチの悪さと、ジジイのタチの悪さには通じるところが大いにあります。

 

そういう意味で、SNSを含むネットは「ジジイの見本市」。たくさんの反面教師がいて、たくさんの他山の石がころがっています。本書を読むことで、SNSで見かける「ジジイ」を興味深く観察できるようになったり、不愉快な「ジジイ」のリアクションをスルーできるようになったりという副次的な効能もあるかも。もちろん、眉をひそめられる「ジジイ」にならないために、自分の振る舞いを省みる上でも大いに役に立ちます。

 

それはそうと、こっそり期待しているのですが、この記事のタイトルを見て、中身も読まずに「バカにしたがるのは男だけじゃない!」といった怒りのコメントを書き込む人が出てきてはくれないでしょうか。反射的にそう書いてしまうのは、「ジジイ」である押しも押されもせぬ証拠。おそらくふだんも、本人は無自覚のうちに困ったジジイっぷりを発揮して、周囲を辟易させていることでしょう。最後まで読んだ上で、批判なり意見なりをくださる方は、そんなことはないかと存じます。

 

と、ここまで書いてきてふと気づきましたが、こうやって「ジジイ」に悪態をつくこと自体が、自分はそうじゃないと思いたいがための保身であり、自分も立派な「ジジイ」であることを示すことにはならないでしょうか。遠ざけようとすればするほど、その魔の手にからめとられてしまいそうです。ああ、恐ろしきかな「ジジイ」。

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