『東京モーターショー2017』(東京ビッグサイト/一般公開日:10月28日〜11月5日)の東展示棟2ホール(東2)に、人目を引く真っ赤なクルマが展示してある。周囲にはメルセデス・ベンツやBMW、プジョーやシトロエンの高級ブランドであるDSのブースが並んでいるが、その真っ赤なクルマはまったく埋没していない。存在感抜群だ。
見た目はレーシングカー。それも、1990年代初頭にル・マン24時間レースをにぎわせていた頃のプロトタイプカーを連想させる(理由は後述)。極薄のフロントノーズに付いているナンバープレートは、このクルマが公道を走れることを示している。さしずめ、公道を走るレーシングカーだ。
出展社はイケヤフォーミュラ。栃木県鹿沼市に本拠を置くアフターパーツメーカーである。こう言っては失礼だが、周囲に居並ぶブランドに比べれば町工場規模である。だが、イケヤフォーミュラは町工場であると同時に、自動車技術のベンチャー企業でもある。
実は東京モーターショー2017(TMS2017)に展示されたイケヤフォーミュラのIF-02RDSは今回が初出展ではなく、2013年のTMSにも展示されていた。今回が2回目の登場だ。2013年当時は、このクルマが搭載する画期的なトランスミッションの技術をアピールする側面が強かった。IF-02RDS は、IST(Ikeya Seamless Transmission)と呼ぶ、アップシフト時(例えば1速から2速への変速)の駆動トルク切れをなくしてスムーズに変速するトランスミッションを搭載している。
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イケヤフォーミュラの東京モーターショーへの出展は今年で2回目。前回はトランスミッションの技術をアピールすることがメインだった
手動変速のMTはもちろん、MTのクラッチ&シフト操作を自動化したAMTや、遊星歯車機構を利用したステップATは、アップシフト時に駆動トルクが途切れてしまう。つまり、変速時に空走期間が生まれてしまい、それが違和感につながりやすい(加速も鈍る)。
アップシフト時の駆動トルク切れをなくしたトランスミッションにDCT(Dual Clutch Transmission)があり、すでにVWやアウディ、ポルシェなどが採用している。国産車ではホンダNSXやフィット・ハイブリッド、ヴェゼル・ハイブリッドなどがDCTユーザーだ。
DCTは機構が複雑で大きく重たいが、イケヤフォーミュラの発明品であるISTは機構がシンプルで軽く、小さい。シンプルで軽くて小さいので、コストも抑えられる。その技術を訴求するためのコンセプトカーが、IF-02RDSである。
■今年はついにエンジンを載せ、ナンバーを取得!
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今回はしっかりとナンバーを取得したことがポイント。「公道を走れるレーシングカー」だ
いや、「だった」と言うべきだろうか。TMS2017に展示されたIF-02RDSは、ISTのコンセプトカーであることを超越し、それ自体がプロジェクト化している。その論拠はエンジンだ。TMS2013当時は走行できる状態ではなかったが、その後、ホンダの2.0L・直4エンジンをベースにターボ過給化した高出力エンジンを載せて走れるようにした。ISTの変速フィーリングを確かめるならこれで十分だ。
TMS2017の搬入2週間前にようやくナンバープレートがとれたというから、冷や汗もののタイミングだったが、ナンバープレートを取得したことによって公道を走れるようになった。ISTの変速フィーリングをクローズドのコースだけでなく、実際の道路環境で確かめられるようになったのは大きなメリットだ。ISTの技術を訴求するだけなら、これでプロジェクト完了としても良かったはずである。ところが、そうはしなかった。
「だって、音が良くなきゃ」と言ったのは、イケヤフォーミュラの代表取締役であり、ISTの生みの親でもある池谷信二氏である。もはや、ISTとは何の関係もない。ロマンの追求だ。そもそもIF-02RDSのカタチからして、1990年代終盤のル・マンカー、「トヨタTS020が好き」という池谷氏の好みが色濃く反映されている。いい音を手に入れるために、すでにあるエンジンを調達するのではなく、イケヤフォーミュラオリジナルのエンジン開発プロジェクトを立ち上げてしまったのだ。
池谷氏にとっての「いい音」とは、甲高いノートを奏でつつも体全体を圧倒するようなボリュームで迫った、高回転F1エンジンが奏でる音だという。そのエッセンスを残しながら、IF-02RDSの専用ユニットを作ってしまおうというのだ。それも見よう見まねではなく、かつて実際に高回転F1エンジンの設計・開発に携わった技術者(メーカー名などはご想像にお任せします)に設計を依頼しているというから、間違ったものができるはずがない。というより間違いなく、F1エンジンのエッセンスを残した、いい音がするエンジンができあがる。
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次回のモーターショーでは、4L・V10ユニットが搭載されているかも
設計のベースは3.5L・V10自然吸気だというから、イメージしているのは1980年代後半から1990年代半ば(正確には94年まで)だ。IF-V10Eの名称を持つエンジンは、排気量を500cc増やして4.0Lにするという。「次のモーターショーに間に合う?」の質問に池谷氏は、「いやいや、もっと早く完成させます」と意気込みを語った。
F1エンジンのエッセンスを受け継ぐ高回転V10サウンド、早く聴きたいものだ。