18歳成人法案こそ、有権者教育の教材として最適なのでは? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

0

2018年06月15日 15:12  ニューズウィーク日本版

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ニューズウィーク日本版

<成人年齢引き下げの議論に、当事者である18歳、19歳の有権者が参加できなかったのはもったいない>


これまで20歳だった成人年齢を18歳に引き下げる民法の改正など民事法制における「18歳成人制度」が6月13日、参議院本会議で可決、成立しました。ちなみに施行は2022年4月1日ですから約4年後という先の話になります。


これまでに選挙権の年齢が18歳以上に引き下げられているわけで、残りは刑事法制、特に少年法が適用される年齢を現在の20歳未満から18歳未満へと引き下げる改正が課題になります。ちなみに、飲酒、喫煙、公営ギャンブル参加は20歳以上ということで従来と変わりません。


さて、このニュースですが、実は3月13日に民法だけでなく民事関連のいくつかの法律について、「成人年齢を18歳に引き下げる」1つの法案のパッケージとして閣議決定されていました。この時点では「18歳成人になったら、成人式はどうなる?」といった議論が多少は起きたのですが、いつの間にか消えてしまっていました。


そこへ、この6月13日のニュースが出てきました。電子版の各サイトでは、詳しい紹介がされていた一方で、NHKのニュースでは、若者にインタビューして「親の確認なしに契約ができてしまうと騙されるのではと不安」だという声を紹介していました。また、ネットでは飲酒・喫煙を20歳からに据え置くことの是非や、大人になった18歳が誤って飲酒して混乱を生じる懸念などのコメントを多く見かけました。


この「18歳成人」制度ですが、今回の決定を見ていますと、法案審議のタイミングでは報道が少なく、従って議論が盛り上がらない、その一方で「可決成立してから」周知徹底のための「ご存知ですか?」とか「制度が変わるので気をつけて!」といったPRや報道が盛り上がる、その結果として「主権者が意思決定に参加できない」という「いつものパターン」になってしまいます。


これは非常にもったいないことです。どういうことかというと、せっかく選挙権年齢の引き下げが先行していたのに、そのメリットが生かされていないからです。


18歳と19歳の有権者は、憲法改正の国民投票や公職選挙法で選挙権の年齢が18歳にも引き下げられたことから、まず選挙権だけが与えられました。つまり、いきなり有権者になり、投票行動を通じて主権者としての権利を行使できるようになったのです。


ですから、18歳と19歳にとって非常に重要な「成人年齢を20歳から18歳に引き下げて良いのか?」という法案の議論に、有権者として参加することができるようになったわけです。もちろん、日本は間接民主制の国ですから、国会議員を通しての意思決定参加という形、あるいはジャーナリズムやネット社会への参加ということでの世論の形成への参加という形を取ります。


有権者として、そのように参加しながら「政治年齢引き下げ」という自分たちに取って、最も身近で利害関係のある法案について、決定過程に参加できる、これは最高の主権者教育になるわけです。


その意味からすると、今回の民事関連の「18歳成人制度」については、18歳と19歳の主権者の参加は十分であったとは言えません。もったいないというのは、そういう意味です。


今回の民事関連の方は「いわば権利と義務のうちの権利」の方ですが、次に控えている刑事法制に関する「18歳成人」というのは、与えられた権利に対する「義務」の部分になります。この点については、是非とも18歳、19歳の有権者が賛否両論の議論に加わり、決定のプロセスに参加するのが良いと思います。


正確に言うと、現在の18歳や19歳の有権者は、これから「少年法など刑事法制における18歳成人」の法案が審議され、仮に可決成立し、さらに周知期間を経て発効するときには、20歳以上になっていると思われますから、法改正が直接影響を与える当事者にはなりません。


ですが、法律の対象となる年齢に最も近い世代が、賛否両論を戦わせながら新法の運用面における個別のケースなど、詳しいレベルでのディスカッションを行うことは、重要と思います。社会における価値観というのは世代によって異なる以上、若い世代を対象とする法改正には、若い世代の意見が反映していることが望ましいからです。


さらに、ここが最も大事な点なのですが、議論には参加したが、最終的に可決成立した法案は「自分の意見とは違う」という場合、それはそれで成立した法律には服さねばならないわけです。この「頑張って反対した」「でも自分の意見は通らなかった」「でも法律には従う」というところに、民主主義を採用した法治国家における有権者の権利と義務の関係が凝縮されているわけです。


また「自分は反対した法律が成立した」「だが、自分は反対の意見表明と法案の改正を主張し続ける」という言論の自由、政治的良心の自由、表現の自由というのも有権者として知っておくべき権利だと思います。


せっかく18歳選挙権が先に認められたのですから、少なくとも刑事法制における「18歳成人」については、是非18歳や19歳の有権者が、その議論に参加していくべきだと思います。成人式がどうなるかなどという話題より、こちらの方がずっと大事ではないかと思います。


【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きをウイークデーの朝にお届けします。ご登録(無料)はこちらから=>>



    前日のランキングへ

    ニュース設定