『進撃の巨人』『NARUTO』『モンスターハンター』……日本IPのハリウッド実写化が加速した背景

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2018年11月30日 10:32  リアルサウンド

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 日本のIP(知的財産、ここでは主にアニメシリーズやキャラクターなどに代表される著作物のこと)のハリウッド実写化というと、90年代の『ストリートファイター』(1994年公開)などの作品から、2002年に第1作目が公開されてから2017年までに実に6本も公開となったミラ・ジョヴォヴィッチ主演の『バイオハザード』シリーズ、『沈黙 ーサイレンスー』(2016年)『Death Note/デスノート』(2017年)など意外と多くのタイトルが挙げられる一方、それら企画の発表は、時折見聞きする程度の頻度だったように記憶している。ただここ最近、『名探偵ピカチュウ』の予告公開のほか、『進撃の巨人』『機動戦士ガンダム』『ロックマン』など、日本では多くの人が1度は耳にしたことのあるタイトルのハリウッド実写化企画が次々と発表されており、これまでのペースとは、やや温度感が違う。


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 これまでハリウッド映画化が明らかになっている日本のIPの代表的なタイトルから、メインのプレイヤーたちを眺めてみると、『AKIRA』『BLEACH』(この2タイトルは、比較的前から企画が存在していたが)に加えて『進撃の巨人』がワーナー・ブラザース、パラマウントは『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』、ライオンズゲートは『ゴースト・イン・ザ・シェル』のプロデューサー、アヴィ・アラッドとタッグを組んで『NARUTO』を、20世紀フォックスは『ロックマン』の映画化権を獲得している。そして、『名探偵ピカチュウ』『機動戦士ガンダム』と、最近10月24日(アメリカ現地時間)に発表された『僕のヒーローアカデミア』はレジェンダリー・ピクチャーズとなっており、企画の数で比較してみると、ワーナー・ブラザース、レジェンダリー・ピクチャーズあたりが、日本IPの獲得に積極的であることがわかるが、パラマウントは過去に『トランスフォーマー』シリーズや『ゴースト・イン・ザ・シェル』を公開している。ここにフォックスも名を連ねていることを見ると、複数のスタジオで、こんなに多くの日本のIPに基づく企画が動いていたことは、これまでなかったであろう。また、タイトルを見れば明らかなように、企画は、コミックが原作のものも含め、そのほとんどをアニメやゲームのヒット作品が占めている。ゲームのヒット作品のハリウッド実写映画化というところでは、『モンスターハンター』の製作も、ミラ・ジョヴォヴィッチ主演,、ポール・W・S・アンダーソン監督、スクリーン・ジェムズによる北米配給という『バイオハザード』シリーズと同じ布陣で進んでいる。


 ここで、この数年で日本IPハリウッド実写化が一気に加速した背景、すなわちなぜ今ハリウッドが積極的に日本のIPに目を向けているのかについて考えてみたい。アメリカのエンターテインメント業界では現在、メジャースタジオ、配信プラットフォームのNetflix、Amazon、ケーブルチャンネルのHBOなどが、数多くのライバルと熾烈な生存競争を繰り広げている。その中で特に各映画スタジオの戦略は、いかに低いリスクで、確実にオーディエンスを獲得するかという方向に傾倒している。DCユニバースやマーベルのヒーロー映画、『ハリー・ポッター』シリーズ、「モンスターバース」などで作品が作られるのは、作品それ自体の魅力だけではなく、独特の「ユニバース」をブランド化して確立させたいというスタジオ側の戦略的な意図もある。それでも常に新しいものを求めるオーディエンスに応えるため、ハリウッドはアメリカ国外の市場に、映画のネタを求め始めたのである。日本のアニメやゲーム作品も、そこに加わったかたちだ。キャラクターの数が多く、独特の世界観を持つ日本のアニメやゲームは、新たな「ユニバース」を生み出すのに最適と言える。


 ハリウッドから見て、日本の人気アニメやゲームのタイトルを実写化することのアドバンテージは大きい。2017年の世界の国別映画興行収入ランキングを見ても、日本はアメリカ、中国に続いて第3位である。この世界第3位の市場に、すでに作品のファンが存在していることは大きなプラスとなる上、日本のアニメやゲーム作品は、中国や韓国など他のアジア諸国や北米、ヨーロッパにも一定数のファンがいる。また製作の際にも、もともと完成されたビジュアル要素が存在することで、例えば文字から映像を起こさなくてはならない小説などと比べても、実写化が容易である。


 一方で、日本のアニメやゲームのハリウッド実写化で成功を収めることのハードルは、決して低くはない。過去には、原作とかけ離れたストーリーやキャラクター変更を行うことによって、既存のファンの支持を得られなかったタイトルも多かったが、原作への忠実性を求めるオーディエンスの目は年々厳しくなっている。一つの間違いが、ファンを敵に回すことにつながり、結果として企画そのものをダメにしてしまうことがある。前述の『ゴースト・イン・ザ・シェル』は、草薙素子役に白人であるスカーレット・ヨハンソンが起用されたことに対し、アメリカやその他の地域で批判が相次いだが、ディズニーで実写化が進んでいる『ムーラン』で白人がヒロインの恋愛相手になるという噂が流れた際にも同様の反応が見られた。また、スクリーンに映る俳優だけではなく、製作に関わる監督やプロデューサーの多様性の確保も課題の一つである。例えば今年最も大きな話題を作った映画の一つである『クレイジー・リッチ!』がアジア系の俳優や監督で作ることにこだわったように、日本のIPが原作の作品でも、原作がもつ文化的背景まで理解した人を積極的に起用する動きがある。ただし、急速に変わるハリウッドのエンタメ業界とはいえ、そこで決定権をもつ人材に、そこまでの多様性があるかは疑問が残る。


 ハリウッドで実写化が進んでいるのは、上に出てきた映画だけではない。『ソードアート・オンライン』や『ONE PIECE』など、超ビッグタイトルの実写ドラマ化企画もある。ぜひとも観てみたいものから、どういったものができるのか全く想像のつかないものまで様々だが、今後日本のIP原作の作品がアメリカ国内外で成功していけば、ハリウッドのプロデューサーたちによる日本のIPへの注目は、さらに高まることだろう。近未来SF系アクションから異世界ファンタジーまで、あらゆるジャンルが揃う日本のアニメ・ゲーム作品だが、今後ハリウッドのアイデア工場になる日がいつか来るのだろうか?(神野徹)


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  • アニメーション作品の実写化のほとんどが、残念な仕上がり…
    • イイネ!4
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