声優音楽シーンで目立つ“自作自演”の流れ 沼倉愛美、鈴木みのり、早見沙織の作品を解説

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2019年04月13日 18:41  リアルサウンド

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 近年、声優自らが作詞作曲を手がける音楽が増えてきた。これまで作詞・作曲・編曲を誰かに依頼することが多かった声優音楽シーンであったが、その傾向が少しずつ変わり“自作自演”の領域へと踏み込んできたのだ。本稿では、そういった流れのなかでも、特に注目すべき作品をピックアップしていきたい。


(関連:早見沙織が語る、自作曲10曲のアルバム制作で見えた“歌い手・作り手としての現在地”


・沼倉愛美『アイ』


 まずは、2月に発表された沼倉愛美の2ndアルバム『アイ』だ。沼倉愛美は、前作『My LIVE』から作詞にも参加し、今作でも3曲担当している。


 『My LIVE』で明確に打ち出された「ハードなギターサウンド×沼倉愛美の歌声」という軸は、『アイ』の収録曲「魔法」「夜と遠心力」などにも取り入れられており、彼女ならではの音楽性だ。一方「This Kiss」や「グッバイ」など、アグレッシブなエレクトロサウンドが目立つのも本作の特徴。これは、4月から始まる東名阪ツアーや海外公演(『沼倉愛美2ndライブツアー「アイ」』)を前提にしつつ、制作が行われたことが影響しているのではないだろうか。


 また声優としての沼倉愛美といえば、『アイドルマスター』の我那覇響を思い出すファンも多いはずだ。響のキャラソンを作曲しているAJURIKAは『My LIVE』にも参加。さらに今作収録の「This Kiss」ではAJURIKAとも縁深いTaku Inoueが登用されている。Taku Inoueが得意としているフューチャーベースに、ポップスマナーがかけあわされており、まさに“ライブ映え”する1曲になっている。


 また、沼倉本人が歌詞を書いた「アイ」では、〈出し切ってからっぽに/素晴らしい!だからそろそろいいんじゃない?〉〈評価する視線から/逃げたって罪には問われない〉など、まるで自身の思いをそのまま言葉にしたかのようなフレーズが印象的だ。エレクトロ色の強い楽曲やメッセージ性の強い歌詞などからは、声優で求められがちな清廉潔白で元気いっぱいなアイドル像から解放され、“ありのままの自分”を表現しているようにも思える。


・鈴木みのり『見る前に飛べ!』


 『マクロスΔ 歌姫オーディション』でグランプリを勝ち取り、フレイア・ヴィオンとして声優デビューした鈴木みのり。同アニメに登場するユニット・ワルキューレのボーカリストとしても活動し、2018年1月にはシングル『FEELING AROUND』でソロデビューを果たした。


 2018年12月に発売された『見る前に飛べ!』には、アルバムタイトル候補がもう1つあがっていた。「ヘンなことがしたい!」である。このタイトルは、今作の2曲目のタイトルだ。実はこの曲、彼女が口癖のように「変わったことがしたいんです!」と言い続けてきたことがきっかけで制作されたのだという。


 同曲の編曲を務めたのは、モーニング娘。などのハロー!プロジェクトを中心に多彩な楽曲を手がけてきたDANCE☆MAN。イントロのグルーヴィなサウンドから歌声が入った瞬間、メロディーラインとリズムが一気にずれていくという、これまでの声優音楽にはなかった曲調だ。


 「ヘンなことがしたい!」のほか、本作では、ROUND TABLEの北川勝利、元ラヴ・タンバリンズの宮川弾、堂島孝平、南佳孝といったニューミュージック〜渋谷系へと連なる作曲陣を起用した点も興味深い。ソウルであったり、ネオアコな感触もあり、多彩さに満ちている点こそ本作の魅力だ。


・早見沙織『JUNCTION』


 鈴木みのりと同じ2018年12月末には、早見沙織の『JUNCTION』が発売された。デビュー時から楽曲制作にこだわっていた彼女は、今作では全14曲中10曲で作詞・作曲を担当。幼少期よりジャズボーカルを学んでいたという歌声、尽くことのない音楽への興味関心など、声優界でも突出した音楽的才覚の持ち主なのは間違いない。


 これまでも度々作詞作曲を手がけてきた彼女だが、本作ほど彼女の趣向が全面に出ているものはない。例えば、「Let me hear」(作曲は川崎里実)はゴスペル系のコーラス、きらびやかなキーボード、ナチュラルトーンのバッキングコードなどで、ディープソウルを取り入れた。そのほか、「メトロナイト」ではAOR〜シティポップサウンド、「夏目と寂寥」ではジャズ〜ヨットロックなサウンドメイクが施されている。早見沙織が作曲を務め、倉内達矢が編曲を務めたこの2曲は、声優としての彼女を知る人も驚かせたことだろう。


 また、竹内まりやが提供した「夢の果てまで」では派手な管弦楽のイントロは昭和歌謡らしさに溢れていて、J-POPらしく響くのが面白い。さらに今作の後半では、バラード、シューゲイザー、ギターポップなども取り入れられている。この多彩さからは、ジャンルに縛られることなく、自身の好きな音楽にチャンレンジしようとする姿勢がうかがえる。また、「夢の果てまで」は、早見沙織がヒロインを演じている劇場版『はいからさんが通る』の主題歌だ。声優であり、音楽家でもある彼女。2つのペルソナを今作に詰め込んでみせ、紛れもなく「自分自身らしさ」を表現した1作であろう。


 作曲・作詞・編曲家へのオファーだけでなく、自作自演の色を強め始めた声優シーンの音楽制作。機械的なプロダクト作業から一歩踏みこみ、自身の嗜好性や個性をよりヴィヴィッドにファンへ届ける一線を画したフィールドへと変化しつつあるのではないだろうか。「自分をいかに捉え、華やかに音楽を鳴らすのか?」という一歩踏み込んだ視点が、ファンの心の鍵穴にハマリこむキーファクトになっていくのだ。(草野虹)


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