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打ち切り報道が出ていた『バイキングMORE』(フジテレビ)だが、本日13日、来年3月いっぱいで番組終了すると一斉に報道。本日放送の番組内でも、MCの坂上忍が「本当にみなさんにかわいがっていただいて8年も続けられたことに感謝しかない」と述べた。
スポーツ紙などの報道では、「坂上が動物の保護活動にあてたいと局側に「卒業」を申し出た」とされ、坂上本人の〈2年ほど前からでしょうか。どこかで“区切り”をつけなくてはと思い始めたのは〉とコメントも掲載されていたが、これはいわゆる“大人の決着”でしかない。
本サイトでも過去に何度か記事にしてきたが、フジテレビ上層部は以前から坂上忍を降板させようと、さまざまな形でプレッシャーをかけていた。
「フジのドンである日枝久フジ・メディアHD相談役に近い上層部がとにかく坂上をやめさせたがっていたらしい。ところが、『バイキング』は視聴率が安定しているうえ、いきなりやめさせると坂上に何を言われるかわからない。それで、いろんなかたちで外堀を埋めて、慎重に事を運んで、坂上が自分からやめると言うように仕向けていったようです。実は、パワハラ報道なども、坂上をやめさせたいフジ上層部の仕掛けという説が濃厚です」(フジテレビ関係者)
実際、今回、番組終了をいち早くスクープした「週刊ポスト」(小学館)12月17日号も、「『バイキング』来春打ち切り内定 坂上忍の姿勢にフジ上層部が難色か」というタイトルで、番組スタッフの「打ち切りの理由については、局の上層部の強い意向だったと聞いています。スタッフの間では政治から芸能人まで好き放題に噛みつく坂上さんの姿勢を上層部が気にしていたからではないかと囁かれています」というコメントをしていた。
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ただし、上層部が坂上忍を切った理由は、坂上の“芸能人叩き”ではなく、やはり、自民党政権批判にあった。
「そもそも芸能ネタで坂上さんが叩くのは不祥事を起こしたタレントだけ。現役の芸能人や大手プロにはむしろ擁護的なのでほとんどクレームはついていない。フジの上層部が気にしていたのは明らかに自民党政権の批判ですよ。『バイキング』は途中から扱うニュースも坂上さんが決めるようになったんですが、自民党の不祥事をどんどん取り上げてきましたからね。しかも、坂上さん本人が政権も野党も徹底的に批判する。自民党から番記者を通じてクレームが入ったという報道もありましたが、それ以前に自民党べったりのフジテレビからしたらありえない番組なんですよ」(前出・フジテレビ関係者)
●『モーニングショー』にも負けない『バイキング』の政権批判、坂上忍は安倍応援団も撃退
実際、番組をきちんと見たことのない視聴者にとっては意外かもしれないが、『バイキング』はこの間、他のワイドショーがさわらない安倍政権や菅政権の不正を取り上げ、坂上自身も徹底的に政権を批判してきた。
政治に対する坂上のスタンスがよくわかったのが、安倍政権の最大の負の遺産ともいえる2015年の安保法制が強行採決に持ち込まれそうになっていた時期だった。
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このとき、坂上は「(安保法案は)僕、大反対なんですね」「武器持たないで憲法9条持ってりゃいいんじゃないの? だって、被爆国なんだから。被爆国にしかできないことあるわけで、いまだからこそ、武器持たない日本でいてほしいなっていうのが強い想いですかね。どちらかと言うと」ときっぱり発言したのである。
当然、森友学園問題や加計学園問題でも、徹底して安倍首相を批判していた。加計問題を扱った放送では、安倍首相を擁護する評論家の八幡和郎氏に対して、坂上が「八幡さんが着目してるところと国民が着目しているとことはズレてる! 国民が知りたいのは本当かどうかだよ!」「“ご意向”があったのかどうかだよ!」などと発言して口論となり、ネットニュースとして取り上げられることもしばしばだった。
また、取り上げるニュースを坂上自身が決めていたためか、『バイキング』では、杉田水脈・衆院議員のLGBT差別発言や伊藤詩織さんの名誉毀損裁判、安倍政権のコロナ対応や黒川弘務・東京高検検事長の定年延長問題、河井克行・案里夫妻の選挙買収問題など、他のワイドショーがあまり取り上げたがらない政権やその周辺の不祥事も積極的に取り上げてきた。
とくに、河井夫妻の選挙不正問題では独自取材もおこなって真相を追及。どのワイドショー、ニュース番組よりもしつこく追っていたし、黒川検事長の賭け麻雀問題では、同じフジサンケイグループの産経新聞の対応を「個人的には」とエクスキューズつけながら朝日新聞の対応と比較し厳しく批判したこともある。
また、森友公文書改ざん問題で自殺に追い込まれた赤木俊夫さんの遺書と手記が公開された際には、「各局、新型コロナウイルスのニュースばかりで、ただ、森友問題しかり、再調査しないと。こちらの問題も埋もれちゃいけないんですよね」と発言。実際、その数日後には赤木さんの遺書と手記をスクープした元NHK記者の相澤冬樹氏をゲストに招き、赤木さんの妻・雅子さんも番組中に相澤氏へのLINEを通してメッセージを発信。坂上は「やましいところがないのであれば、真実を明らかにしていただきたいというのが多くの国民の声」と安倍首相の責任に言及した。
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●坂上忍『バイキング』は圧力に屈せず最後まで東京五輪批判を貫いた唯一の番組
なかでも特筆すべきは、東京オリンピックをめぐる報道だろう。
ワイドショーのなかで唯一、いや、『報道ステーション』(テレビ朝日)のようなニュース番組や大手新聞も含めて、最後まで五輪礼賛に流れることなく五輪批判をしつづけたのは、はっきり言って『バイキング』だけ。それも坂上自身が「反五輪」の立場を旗幟鮮明にしていた。
実際、坂上は『バイキング』で開会式直前まで東京五輪の開催を批判し再延期を訴え、「五輪選手の活躍を伝えて、次のコーナーでコロナの死者を伝えるなんてできない」と繰り返し発言。五輪期間に入ると、コロナ感染拡大が深刻な局面を迎えているにもかかわらずテレビは完全に東京五輪一色となり、NHKも民放も「金メダルラッシュ」だの「明日の見どころ」だのと総オリンピック特番状態で五輪礼賛に終始していたが、『バイキング』だけは五輪・金メダル礼賛報道をおこなわなかった。
また、坂上は開会式がおこなわれた7月23日の放送を最後に夏休みで番組を休み、8月4日放送から復帰したのだが、復帰早々、菅政権や東京都のコロナ対応と五輪強行開催を厳しく批判しつづけた。
「菅総理がずっと繰り返していた安全・安心なオリパラ開催っていうのは、僕は、ある意味、医療従事者の方々がお仕事をする合間にテレビを付けるなりして、応援する物理的な時間と、あとは応援する気持ちになるっていうその状態がある意味、安全・安心なオリパラ開催。もはや、この状況でどうしてくれるんだ?っていう気持ちしか僕にはない」
「僕がすごく許せないことは、菅総理も小池都知事もオリパラに直接的な原因がないからといって、でも、間接的な要因であることは間違いないはずなんです。なんだけれど、いまの感染爆発状況とオリパラをまったく結びつけようとしない。あの誠意のない答え方をいつまで続けるんだって。一番腹立たしい」
五輪の開催とともに夏休みに入ったため、一部では「逃げた」などとも揶揄されていた坂上だが、五輪反対の意思は固く、その立場を貫いたのだ。
しかも、元JOC参与の春日良一氏がラジオ番組で暴露したところによると、『バイキング』のプロデューサーは坂上に対し、オリンピック開始1週間前くらいに「五輪開催反対でなく、中庸でいくように」という方針を示していたが、坂上が徹底抗戦してこの方針をはねつけたのだという。
●維新・松井一郎大阪市長を「上から目線」「権力持たせたらロクなことがない」と批判
「上の意向」に従うこともなく、五輪礼賛ムードに流されることもなく政権批判をつづけた坂上──。実はつい最近も、こうした姿勢がよくわかった放送回があった。
日本維新の会代表である松井一郎・大阪市長の“30人宴会”問題について他のワイドショーが取り上げないなか、『バイキング』だけがこの問題を取り上げ、松井市長と維新を厳しく批判したのだ。
維新の“30人宴会”については本サイトでも先日報じたとおり、大阪府は府民に対して「同一テーブル4人以内、2時間程度以内での飲食」を要請しているにもかかわらず、松井市長と維新議員30人が「衆院選の反省会」という名目で“2時間半以上にもおよぶ大人数会食”をおこなっていたことが判明。10日発売の「フライデー」(講談社)がスクープしたものだが、同誌から取材を受けた松井市長は先手を打って9日定例会見でこの問題について明かしていた。
だが、それも反省どころか逆ギレと開き直りの噴飯ものの会見だったのだが、この問題を報じた新聞やテレビは当初、松井氏の開き直り発言をスルーし、ほとんどのワイドショーは取り上げようともしなかった。
そんななか、10日放送の『バイキング』では、「大人数はルール内やから」「人数の上限アッパーはない」などと抗弁したり開き直った傍若無人な松井市長の会見の模様、会場となった店や参加者への取材、大阪市民からの批判の声などをVTRやパネルで紹介し、坂上は「会見見ると、『打ち上げじゃない反省会だ』って、そういう問題なのか」などと批判。コーナーの最後にはこうも述べた。
「いま維新はイケイケだから調子に乗っちゃったのかな」
「会見見てると、松井さんが、やっぱ会見て記者の人とも顔なじみになるのはわかるんだけど、上から目線というか、なあなあがもうあからさまなんだよ。ああいう関係になると、どこかで勘違いするというか、素直に謝れなくなっちゃうのかなって。そういう姿を見ると、やっぱり同じ人にひとつところで権力持たせたらロクなことがないなって俺は思っちゃいました」
つまり坂上は、この宴会問題に限らず、松井氏の独善性や記者に対する高圧的な物言い、記者の追及の甘さなども指摘したのだ。
●政権忖度しない坂上忍をコントロールするため投入された“フジのスシロー”平井文夫とも大ゲンカ
だが、このように時の政権だろうと勢いのある政党の代表だろうと「忖度しない」坂上の姿勢は、フジテレビ上層部から睨まれつづけてきた。
前述したように、昨秋には「週刊文春」(文藝春秋)に「『なんでできねえ!』坂上忍“パワハラ”に『もう限界』フジ内部調査」と題した記事が掲載され、坂上にパワハラ疑惑が持ち上がったが、このとき「文春」が報じたフジのパワハラ内部調査はそもそも坂上潰しが目的で、9月改編での打ち切りを狙って6月ごろから複数のマスコミに盛んにリークされていた。
実際、「坂上によるパワハラ」とされたものの多くは、番組内容をめぐる対立で相手もADや下請け制作会社社員などではなく、プロデューサーやディレクターなどの責任者で、坂上とどちらが「優越的な立場」にあるのか微妙なところだった。しかも、坂上が激昂した理由は、番組内容が圧力で変更になったことなどに対して坂上が抵抗したというものだった。このとき坂上は調査に徹底抗戦し、結果パワハラ認定されることはなく、昨年9月での番組打ち切りは頓挫。むしろ番組は2時間から2時間40分に拡大され、番組名も『バイキングMORE』へとリニューアルした。
しかも、フジの上層部は坂上の政権批判を厭わない姿勢に対し、安倍応援団を投入することで番組内容をコントロールしようとしたこともあった。
『バイキング』は過去に竹田恒泰や有本香といったネトウヨ安倍応援団も出演してきたが、『ひるおび!』の田崎史郎のように恒常的に出演することはほとんどなかった。または、前述した八幡氏の場合がそうだったように、坂上と論争となって番組に呼ばれなくなるといったこともあった。ところが、坂上の政権批判がコントロールできないため、政権に近いフジの上層部や報道局から番組サイドにクレームが相次いだせいか、コロナ下の失政続きもあり番組の安倍政権批判がより一層勢いを増していた2020年5月半ばくらいからは露骨な安倍応援団ぶりで知られる“フジのスシロー”こと平井文夫解説委員を投入。平井解説委員は田崎史郎でもしないようなデマまがいの無理やりすぎる政権擁護をたびたび展開したのだ。
だが、坂上は平井解説委員の政権擁護に対しても番組中に反論。たとえば昨年の「GoToキャンペーン」強行について、坂上やコメンテーターらは厳しく批判したのに対し、平井解説委員が批判を封じるようなコメントをしたところ、坂上は平井氏に対して「言論封殺」「まるで政府の一員の方のような意見」と強い調子で反論し、平井氏の政権御用ぶりを批判した。
その後、平井氏は昨年10月に菅政権の「日本学術会議」任命拒否問題をめぐって完全なデマ発言をし、後日番組は訂正・謝罪をおこなった。それを最後に平井氏は番組から消えたが、いかにフジ上層部が『バイキング』における坂上の司会ぶりを疎ましく見ていたかがわかるだろう。
しかし、フジ上層部が坂上を厄介払いした背景には、自民党への忖度だけではなく、ネトウヨらによる抗議も影響を与えたはずだ。実際、坂上が安倍政権の批判を繰り出していた2017年には、ネット上では「坂上消えて欲しい」「偏向報道」などといったディスが溢れ返り、さすがの坂上も「結構、僕らだってね、なんかこうやっていつも政権に対してブーブー文句を言ってるとね……自民党さんを応援してないのかって? とんでもないことであって! いまのこの状況考えたら、ちょっと、まあ消去法じゃないけど、しょうがねーなって思ってる人多いと思うんですよ」などとエクスキューズをしたこともあった。
いずれにしても、こうした自民党政権批判を嫌がったフジ上層部が坂上を切るために、『バイキング』そのものを終わらせたのんである。
はっきり言って、いまのメディア状況のなかで、『バイキング』がなくなる損失は大きいと言わざるを得ない。
もちろん、『バイキング』および坂上は、眞子内親王の結婚をめぐる小室圭さんへの度を越したバッシングや、パワハラや女性蔑視に対する意識の低さ、大手芸能事務所への忖度など問題も数々あったことは事実だ。だが、政権批判にかんしては他のワイドショーとは一線を画していたし、前述したように他のワイドショーが取り上げないような政権の不祥事にかんする批判的報道もこまめにやってきた。実際、政権に批判的だとされてきた『羽鳥眞一モーニングショー』(テレビ朝日)でも扱わず『バイキング』だけが取り上げるという問題も少なくなかった。
だが、いまやその『モーニングショー』も忖度せずに政権批判をおこなう青木理らのコメンテーターが外されたことで明らかにパワーダウン、真正面から政権批判をおこなえるワイドショーは『バイキング』だけの状況だった。しかし、その『バイキング』と坂上が消えるとなれば、もはやワイドショーは死に体に等しい。
坂上はそのパワハラ気質のせいか左右関係なく嫌われていたため、ネット上では番組終了の報に快哉を叫ぶ意見ばかりが目立つ。だが、こうしてまともな政権批判がおこなえる番組が、またひとつ消えてしまうのだ。これはけっして喜ぶことはできない現実だろう。
(編集部)
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