外国人収容者に対する非人道的なあつかいが批判されている入管行政。2021年は、コロナ対策で「三密」を避けるため、これまでの方針から一転、一時的に身柄を解く「仮放免」が進んだ。
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出入国在留管理庁によると、全国6カ所の収容施設と空港支局に収容されている外国人の数は、2021年11月15日時点で計134人まで減っている。
だが、職員による過剰な制圧によってケガを負う人、体調不良を訴えても外部の医療機関の診察を受けられず、栄養の偏った食事やストレスが相まって食欲不振になり、体重が激減する人など、残された収容者は厳しい状況に置かれている。
なかでも、東京出入国在留管理局(品川)で継続的に面会活動をしている支援者たちが、その健康状態を懸念しているのが、スリランカ出身の男性、ジャヤンタ・クマラさんだ。
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今年2月下旬、品川で起きたクラスターでコロナに感染して以降、体調不良が続くなか、ジャヤンタさんはこの10月、職員による制圧でケガを負った。その後、ようやく仮放免が認められたものの、わずか2週間で再収容された。
仮放免中や再収容後に面会したジャヤンタさん本人、彼の代理人をつとめる奈良泰明弁護士、収容者への処遇を懸念して視察や面会を続けている石川大我参院議員に聞いた話から、彼の置かれた状況を伝える。(取材・文/塚田恭子)
今年2月下旬、品川で起きたクラスターでコロナを発症したジャヤンタさん。2カ月で体重が13キロ減少した彼は、その後も体調不良が続き、7月には2度目のコロナを発症した。
8月以降、脚の痺れから歩行が難しくなり、車椅子を利用するようになり、食事を摂っても吐いてしまうため、弁護士や支援者との面会にも、バケツを持参するようになっている。
ジャヤンタさんは、クラスター発生時のことをこう話す。
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「一緒の部屋には、熱がある、咳をしている、血圧が上がっているなど、コロナの症状が見られる人がいました。私も熱や喉の痛みがあり、普通の食事を出されても食べられないので、具合が悪いからおかゆにしてもらいたいと頼みましたが、そのときに出されたのはお湯をかけただけで煮てもいない、塩も振っていないごはんでした」
その後もずっと体調は改善しないなか、10月10日の夜中から翌11日かけて、次のような「事件」が起きる。
「11日の午前3時から4時ごろ、体調不良でトイレに立てず、紙コップに排尿する状況だった私は、寝たままバケツに吐いてしまいました。そのときバケツに寄せた頭がうまく外れず、苦しさから手で払いのけると、弁当などを受け渡しする窓口の棚にぶつかったんです。
その拍子にバケツの底に穴が開き、吐しゃ物が飛び散ると、それまで助けを求めても様子を見ているだけだった職員が『ジャヤンタがバケツを投げて暴れている』と無線で通報し、職員10人ほどに囲まれました」
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この日、朝になって外の病院で検査・診察を受けたジャヤンタさんは、夕方近くに入管に戻ると、夜中のバケツをめぐる出来事を理由に職員から懲罰を言い渡された。
なぜ自分の言い分を聞こうともしないのか――。そう抗議しても、職員は耳を貸さず、彼を車椅子から引き離そうとしたため、ジャヤンタさんは車椅子ごと転倒。このとき右足が車椅子の間にはさまってしまう。
職員が車椅子にはさまったジャヤンタさんの足を引き抜こうとしたものの、足はなかなか抜けず、痛みから医師を呼んでほしいという依頼に応じてもらえたのは、しばらくしてからだった。
医師は、このままだと足が危ないから車椅子をばらすしかないと言ったものの、職員はジャヤンタさんの足を引こうとするだけで、ようやく足が抜けたのは1時間半後だったという。
その間も、職員の肘が右の顔面に何度も当たり、ジャヤンタさんの右顔面は腫れ上がり、目も見えなくなっていた。4日後の15日午前に面会した支援者は、ジャヤンタさんの右目が充血し、右手と右足の傷跡がかさぶたになっていた状況を確認している。
祖国スリランカで政治活動をしていたため、帰国すると身に危険が及ぶリスクの高いというジャヤンタさんは、これまで3度、難民申請をしている。
今年3月に、2度目の難民申請についても難民不認定処分に対する異議申立(審査請求)が棄却され、入管は、ジャヤンタさんに8月第1週に強制送還する旨を通知している。このとき支援者から相談を受けて、ジャヤンタさんの代理人をつとめることになった奈良泰明弁護士はこれまでの経緯を次のように話す。
「ジャヤンタさんは、6月10日に自分で3回目の難民申請をしていました。このとき私は代理人として、彼の仮放免を申請しています。代理人は送還予定を通知してもらえるので状況を尋ねると、申請中であるにも関わらず、入管から『予定通り、8月1週目に強制送還します』という連絡がきたんです。
入管法では、難民申請中の者は強制送還できないことになっています。一体どういうことなのか。私が尋ねると、執行部門の担当者は『難民申請中なのは承知していますが、その結果を見守りつつ、送還の準備は進めます』と返答しました。
法律に反することはやめてほしいと、しばらくやりとりを続けたものの、埒が明かないまま、3回目の難民申請は、申請からわずか18日後の6月28日に不認定処分がされました。
この処分に納得できず、私たちはすぐに行政不服審査法に基づき、審査請求を申し立てました。証拠書類の準備などが必要な審査請求は、数年ほどかかる場合もあるもので、ジャヤンタさんは代理人の立ち会いのもと、審査する人の前で口頭意見陳述をおこないます。
コロナ以降、ジャヤンタさんは体調不良が続いていたし、書類の準備は時間を要するものです。にもかかわらず、入管は『審査請求を7月中におこないたい』と言いました。代理人の私が『8月中旬までスケジュールが空いていないので、それ以降にしてほしい』と伝えると、入管は、私抜きで口頭意見陳述をやると回答しました。
代理人が立ち会いを希望しているにもかかわらず、代理人抜きでの口頭意見陳述など、ありえないものです。
『あなたたちは何としてもジャヤンタさんを8月1週目に送還するため、審査請求も無理矢理進めて棄却したうえで、強制送還するつもりなのですか』。私がそう尋ねると、執行部門は『難民審査のことはよくわからない』、難民審査部門は『いや、そういうつもりはない』と答えるものの、予定を変える気配がありません。
これでは審査請求もきちんとしてもらえないと思い、最終的に7月半ばに難民不認定処分取消訴訟を起こしました」
出入国在留管理庁の公式サイトに、標準処理期間6カ月と記されている難民申請の審査が18日間で棄却されていること。数年かかることもある審査請求を1カ月以内で、しかも立ち会いを希望する代理人の立ち合いなしで口頭意見陳述をおこなおうとしていること。
この2点をとっても、ジャヤンタさんに対する入管の姿勢は、素人目にも常軌を逸している。最終的にどうなったのか。
「ちょうどこのころ、ジャヤンタさんは2度目のコロナを発症します。口頭意見陳述ができる状況ではなくなったことから、入管は7月26日付の通知でようやく、8月1週目の送還が停止されました」
難民問題に関する議員懇談会の事務局長をつとめ、支援団体などから入管の収容者への処遇について話を聞く機会も多い石川大我参院議員は事件後、ジャヤンタさんに面会をしている。そのときのことを石川議員は次のように話す。
「10月31日に面会室に現れたジャヤンタさんはやせ細り、車椅子に乗って、時折持ってきたバケツに嘔吐するなど、きっと(名古屋入管で収容中に亡くなった)ウィシュマさんもこういう感じだったのではと思わせる状況でした。
これは本当に危険だと思い、面会後、近藤昭一衆院議員と一緒に、東京出入国在留管理局の石岡邦章局長に会って『このままだと彼は死んでしまうかもしれないので、一刻も早く仮放免すべき』と申し入れました」
その後、ようやく仮放免が認められ、ジャヤンタさんは11月11日に外に出ることができた。だが、仮放免の期間はわずか2週間。指定された出頭日の11月25日に品川に行くと、そのまま再収容されてしまう。
この日、仮放免延長のための面接や手続きの前に、ジャヤンタさんを診た入管の医師が健康状態は回復していると診断したことが、再収容の理由とされている。
ジャヤンタさんが再収容されたと聞いた石川議員は、11月29日に品川に足を運んでいる。
「車椅子で現れたジャヤンタさんは面会中も、時折バケツに嘔吐していて、再収容によって体調が悪化していることは明らかでした。外にいる間は温野菜やフルーツ、うどんなど、胃に負担の少ない食事をし、リハビリもおこない、少しずつ回復していたけれど、この日の昼食は冷めたハンバーグとあじフライだったそうです。
今の彼はこういうものは食べられないし、食べても吐いてしまう。まずは体力を回復させるべき人を食べられない状態のまま収容し続けている。入管がやっていることは拷問に近いと思います」
また、この日の面会で石川議員は、ジャヤンタさんが25日の再収容から4日間、歯を磨くことができない状況だったことを知る。
「まったくお金がない場合、歯ブラシは支給されるものの、収容時に歯ブラシを携帯していなくて自分で購入する場合、差し入れ品同様、コロナ対策で2〜3日留め置かれるそうです。もちろんコロナ対策は必要ですが、せめてその間、使い捨ての歯ブラシを渡すなど、方法はあるはずです。
弁護士の駒井知会さんによると、アメリカで公民権運動が盛り上がった1950〜60年代、運動に参加して捕まった黒人は、拘置所で歯ブラシをもらえなかったそうで、歯磨きをさせないことは、このころからある嫌がらせのようです。
僕たちは4日間、歯を磨かないことなどまずあり得ないけれど、それがどれほど不快なことか。ましてや食べても吐いてしまっているジャヤンタさんが歯を磨けないのはどれほど苦痛なことか。いまだに続いている入管の、人を人と思わない対応は、人権侵害も甚だしいことだと思います」
再収容から2週間後、12月9日にわたしが面会したとき、ジャヤンタさんは「この2週間で体重が6.4キロ減りました」と話していた。入管はなぜ、法律を無視してまで、衰弱している彼にこのような処遇を取るのか。奈良弁護士はこう話す。
「自分の意見をはっきり口にするからでしょうか。職員の処遇を見ると、何らかの理由でジャヤンタさんのことを気に食わないと思っているとしか感じられません。
たとえ内心でどう思っているとしても、公務員は行政権を行使しているので、法律に則って仕事をすべきです。ただ、収容期限が無期限であることをはじめ、そもそも収容について、なんら法律的に明確な基準がなく、司法審査もされません。入管による収容は自由権規約9条が禁止する恣意的拘禁にあたります。
2週間で再収容されたのも、健康状態がよくなったからだと入管は言います。でも、外では胃に負担のないものを食べ、車椅子に頼らないように歩く練習もしたから、なんとか車椅子を使わなくても他人に助けてもらえれば歩けるようになったわけで、それで再収容というのはあまりにもひどいことです。
以前もハンストした収容者を仮放免して、2週間で再収容するということがありました。怒った収容者がまたハンストして、仮放免、再収容……と繰り返されたのと同じパターンです。これは相当に非人道的で、命を弄んでいるとしか思えません」
石川議員も「入管問題を調査していると、一般的な感覚ではありえないことが多々あります。外国人だからいいんだという考えが、入管の中ではまかり通っているんです」と指摘する。
医療環境が通常以上に手薄になる年末年始が近づいている。ジャヤンタさんは、この状態で収容されたままで、ほんとうに大丈夫なのだろうか。
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