●キリンビール『一番搾り』、堤真一と仲間由紀恵・田中みな実ら、満島ひかりと豊川悦司
●キリンビール『本麒麟』、江口洋介とタモリ・舘ひろし・滝川クリステル・高畑充希ら
●アサヒビール『ザ・リッチ』、竹野内豊と長澤まさみと北大路欣也
●アサヒビール『クリアアサヒ』、上戸彩と木梨憲武と佐藤栞里
●サントリー『パーフェクトサントリービール』、松嶋菜々子と霜降り明星・粗品と吉田鋼太郎
これらは昨今流れている“ビール”(第三のビール等含む)のCM。それぞれ多少の違いはあるが、大まかなCMの構成は以下だ。
出演者A「変わったんですよ○○(商品名)」
出演者B「え〜? そうなんですか」
出演者A「飲んでみて下さい」
出演者AとB「かぁ〜〜!」(笑顔)
出演者B「!? 美味いですね〜!」
対談のようにタレント2名もしくは複数名が並び、一方が勧め、一方が飲み、「美味い!」と称賛。このフレームを、ただ1社のみがやっているのではなく、上記のように大手3社が同じようなスタイルのCMを流している。
後に著名な作家となる開高健や山口瞳らが所属したサントリー(前身の寿屋含む)宣伝部を代表に、アルコール関係のCMといえば、昭和の時代から各社が“世界観”や“キャッチフレーズ”を創り、アルコール業界だけでなくCM業界自体を盛り上げ、時代に残るCMを各社が作ってきた。
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しかし、出演者である“タレント”がただただ「うまい!」――なぜビールのCMは現在、各社似通うような作りになっているのだろうか。
CMが似てしまう“背景”
『文化としてのテレビ・コマーシャル』などの著作がある国際日本文化研究センターの山田奨治教授は、以下のように話す。
「おいしさをいかに映像で伝えるかについては、過去のCMを振り返ればさまざまな工夫がありました。“おいしい”と言わせるだけの作品も一定数ありますが、やはり“ベタな表現”と評価されてきたと思います。
大状況としては、テレビの凋落にともなうテレビCMの広告費とクリエイティブの衰退、ネット広告にシフトしつつあること、若い人がアルコールを飲まなくなっていることがあります。
それに加えてここ2年の状況として、大勢でワイワイと飲む表現がなじまないこと、1人飲みか少数の親しい者同士がディスタンスを保って飲む設定でないと受け入れられなくなっていると思います。そうしたことが制約になって、表現が似てしまうケースが生じているのかもしれません」
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CMの好感度調査などを行うCM総合研究所にも昨今のビールCMについて話を聞いた。
「弊社では東京キー5局から放送されている全CMを対象にCM好感度調査を毎月実施しております。これらの結果を見ると、当社ではビールCMが似通ったものばかりとは捉えておりません」(CM総合研究所代表・関根心太郎氏、以下同)
その理由とは?
「ビール業界はご承知のとおり競争が熾烈であるため、CMなどの広告活動においてはビールを愛飲している人だけでなく、頻繁に飲まない人も含めた幅広い層に向けてビールの魅力や価値を伝えていく必要があると考えられます。
その際、単にビールの製法などを説明するだけでは、視聴者の心を動かすことが難しく、各社とも商品への購買意向や興味・関心を高め、“ビールを飲みたい”という気持ちを喚起するために、さまざまな工夫を凝らしているのが現状です。
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ビールの最大の価値である“おいしさ”を訴求ポイントにしているCMが目立つのは当然ですが、ヒットCMを振り返ってみると、その表現内容は画一的でなく、時代の空気や生活者に寄り添うトーンのCMが見受けられます」
例として、アサヒビールの『アサヒ生ビール』が、12月前期の銘柄別CM好感度調査で総合1位に(CM総合研究所による調査)。
CMの内容は、竹内まりやの『元気を出して』をBGMに、新垣結衣が商品を手に「日本のみなさん、おつかれ生です」と呼びかけるものだ。
「そのほかにも広瀬アリスさんがあいみょんさんの弾き語りと商品を楽しむキリンビール『淡麗グリーンラベル』のCMでは、ビールのおいしさを自然や音楽といった心地良い世界観で表現。サントリービール『ザ・プレミアム・モルツ』は今年3月に小栗旬さんと柴咲コウさんを起用したCMシリーズを開始しました。
これまで非日常の世界観で憧れを醸成していたコミュニケーションを、リアルな生活を舞台に共感を作り出すことへ進化させたといい、彼らがそれぞれ商品を飲んで“日常のちょっとした贅沢”を楽しみ、“ちょっと高級なビールにしようか”などとつぶやく様子を描いています。
今後はビールの魅力に加え、こうしたビールを楽しむ瞬間の心情や、ビールを飲みながら過ごす時間の価値にスポットを当てたCMが増えていくかもしれません。
もちろんご指摘のように出演者がビールのおいしさについて語らうCMもありますが、そのシチュエーションやキャストの顔ぶれは多岐にわたり、今後もますます多様化していくのではと捉えています」
あの“ゴクゴク音”は禁止!?
アルコールのCMは、実は“規制”が多く、それが足かせのようになっている部分もあるのかもしれない。
「ビール酒造組合などアルコール関連の業界9団体で構成される『飲酒に関する連絡協議会』は、'16年にアルコール関連の広告の基準を自主的に強化。テレビ広告でのど元を通る“ゴクゴク”等の効果音は使用しない、お酒を飲むシーンについてのど元のアップはしないという規制を設けました。
かつては20歳のタレントがアルコールのCMに起用されることは多々ありましたが、この時の新規制によって“25歳未満はNG”となりました。それぞれ内閣府の指摘を受け、業界団体がそれを受け入れた形です。
また、これも協議会の自主基準としてアルコール商品は“朝5時から18時までテレビ広告は行わない”とされています。さらにアニメを使用したCMにも同じような形で規制が入っていますね」(広告代理店関係者)
'16年、キリンは同社の人気商品『氷結』で、アニメを使用したweb限定CMを配信。
しかし、配信直後にアルコール薬物問題全国市民協会と主婦連合会が共同でキリンに対して、配信中止を求める要望書を提出。こちらのアニメCMは、視聴スタート時に“20歳以上”の年齢認証を設け、未成年者が視聴しづらいように配慮していた。しかし、キリンが要望を飲む形で、結果的に配信からわずか8日でCMは打ち切りとなった。
「未成年への影響、そしてアルコール依存症の問題の観点から、アルコール関係の広告は規制が入ってしかるべきものだとは思います。YouTubeがトップページ最上部に表示される“最も目立つ広告枠”からアルコール商品の広告出稿を禁止するという報道もあり、アルコール広告の規制は世界的な動きです。
'04年に財務省によってタバコのCMはテレビ・ラジオで全面禁止となりましたが、アルコール消費の広告は、全面禁止はないにせよ今後も規制は進むでしょうね」(前出・広告代理店関係者)
「すこし愛して、なが〜く愛して」のフレーズとともにアルコールのCMが世の男性を魅了した時代もかつてあった(サントリー『RED』。出演は大原麗子、'80年〜)。
ビールで言えば、“男は黙ってサッポロビール”(出演は三船敏郎、'70年〜)は、同社の入社面接で“たったひと言、そのフレーズを言った者が合格した”という都市伝説を生んだ。今後、人々を魅了するアルコール広告は生まれるだろうか。