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2021年12月26日 20:20 リテラ
限定公開( 1 )
2021年も、残すところあとわずか。本サイトで今年報じた記事のなかで、反響の多かった記事をあらためてお届けしたい。
(編集部)
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【初出 2021.03.22】
東京五輪・パラリンピックをめぐり、海外からの観客受け入れ断念が20日の5者協議で合意された。しかし、世界のコロナ感染状況を考えれば当然で、むしろ変異株の拡大などまったく先が見通せないなかで「まだ開催する気」でいることのほうに驚かざるを得ないだろう。
そんななか、昨日21日にNHKスペシャル『令和未来会議 あなたはどう考える? 東京オリンピック・パラリンピック』が放送された。番組は、大会組織委員会の中村英正氏、国際オリンピック委員会(IOC)委員の渡辺守成氏に加え、五輪メダリストの有森裕子氏、元マラソン選手でスポーツジャーナリストの増田明美氏、作家の真山仁氏、社会学者の水無田気流氏、タレントの藤本美貴氏、東北医科薬科大学特任教授の賀来満夫氏という8人のパネラーが出演。
議論は、開催に前のめりな意見を主張する組織委の中村氏、IOC委員の渡辺氏、増田氏に対し、有森氏や真山氏、水無田氏らが疑問を呈するという展開で進んだのだが、浮き彫りになったのは、「開催」を主張する人たちのあまりの意識の低さ、そして客観的な事実に蓋をする姿勢だった。
番組では、冒頭に中村英正・組織委ゲームズ・デリバリー・オフィサー(GDO)は「安全安心が第一」「いままでの大会以上にプロセス、コミュニケーションが大事」と発言。これには作家の真山仁がこう反論した。
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「安全というのはだいたい数値化できるものなんですよ。でも我々は数値を聞いたことがない。数値化できない、安全すら担保できない状態。安心というのは信頼関係のなかで生まれてくるもので、安全という数値を担保にした上でそれぞれコミュニケーションしながら安心の信頼を勝ち取っていくもの」
「(パラの選考会では)厳戒態勢のなかで競技されているが、そこまでやるのがスポーツなのか。健康な環境のなかで選手も観る人も自由に何もまわりのことを気にしないでスポーツを楽しめて、はじめてスポーツの祭典になると思う」
まったく真っ当な意見と言わざるを得ないが、しかし、こうした意見に対して、国際体操連盟会長でIOC委員の渡辺守成氏は、こんなことを言い出したのだ。
「各国20カ国回るたびに、タクシーの運転手とかウエイトレス・ウエイターのみなさんに『あなた東京オリンピックどう思う?』って訊くんですね。信じてもらえないかもしれないかもしれないですけど、僕はおそらく1000人近い人に訊いていると思いますけど、みんながみんな『東京オリンピックやってくれよ』と言うんですね。それはやっぱり暗いと。こんな暗い生活するのは嫌なんだと。明かりや光、希望が欲しいと。僕にはそう言われる」
「みんな『オリンピックやってくれ』と言っている」って本当か?とツッコまざるを得ないだろう。実際、公益財団法人「新聞通信調査会」が20日に発表した米国、フランス、中国、韓国、タイの5カ国でおこなった世論調査の結果では、東京オリパラの開催について「中止すべきだ」「さらに延期すべきだ」を合わせた回答は5カ国すべてで7割を超え、タイにいたっては95.6%にもおよんでいるからだ。
この渡辺IOC委員の発言には、社会学者の水無田気流氏が「社会学的に考えると、ちょっとそれは選択的接触じゃないのかなと思ってしまう。IOCの方に会う方は限られている。身内の比較的近しい方とばかり議論してきた結果、透明性を欠いたまま開催ありきでここまできてしまった」と指摘したが、そのとおりと言っていいだろう。
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●有森裕子「医療逼迫なのになぜ五輪は医療体制確保と言えるのか」の正論に組織委は…
さらにひどかったのは、オリパラの感染防止対策についてテーマになったときの議論だ。五輪メダリストであり、2016年東京五輪招致の際アンバサダーも務めた有森裕子氏は、「こっちは『(医療が)逼迫して大変』と困っているのに、なぜこっちは『(医療体制を)確保している』と言えちゃうの?という。これが(ニュースとして)一緒に流れたときに、この矛盾をどう理解すればいいか、国民の不安は拭えない。情報の提供をすればいいと思うんですけど」と指摘すると、組織委の中村氏はこう述べたのだ。
「大会のときに医療どうしていくか、コロナ含めてどうしていくかという青写真は、我々つくっておりますけども、ただそれはいま、緊急事態宣言がようやく解除されることになってますけども、厳しいなかでいくら8月こんな状態ですねと突き合わせても混乱するだけのところがありまして。まさにオリンピック・パラリンピックのときに協力していただける病院自体が、もうちょっと状態がよくなったときに我々の青写真をお示しして、これができる、あれができるということをきちんと相談した上でないと、逆に一方的にお示ししても混乱するだけだと思っています」
「青写真は出来ているがいま発表しても混乱するだけ」って、そんなもの、いつまで経っても発表することなどできないだろう。なのに「青写真はあるから安心して」とは、国民をバカにしすぎだ。
しかも、組織委のこの無責任な態度には“身内”からも批判が飛び出した。組織委理事でもある渡辺IOC委員も、「安全安心は確保できるのかっていうのをとにかく出してもらわないと」「あと何カ月しかないのに『これからコミュニケーションやりますよ』っていう次元じゃない」「前提がいつまで経っても出てこない」「何にも出てこない」と苦言を呈したからだ。
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生放送でIOC委員から組織委にぶち込まれた非難には、真山氏も「大丈夫か」と苦笑していたが、このやりとりをみても、4カ月後に東京オリパラを開催するなど不可能なのではないか。
しかし、この番組のハイライトは、なんといっても「オリパラ開催の意義」について討論したパートだろう。ここでロス五輪女子マラソン日本代表で、五輪関連イベントに頻繁に登場してオリパラ応援団となってきた増田明美氏が、信じられないような暴言を連発したからだ。
●開催に疑問を呈す社会学者に「スポーツ好きなのか?」と迫る増田明美の横暴
まず、増田氏は開催の意義について「オリンピックの意義は2つあると考えているんですね」と言い、こうつづけた。
「世界的な意義で考えると、東京オリンピック・パラリンピックを通して国際社会にどう貢献できるか。いまコロナのなかだったら、全体の連帯であったり、ステイホームがつづくなかでスポーツをしてさわやかになったっていう、スポーツが果たす役割っていう国際社会への貢献ってあると思うんですね。あともうひとつは国内向け。招致のときには復興五輪を掲げてやりましたよね。聖火リレーも福島から出発します。復興五輪にくわえていまコロナのなかでは『困難からの復活』っていうのも多くなってくると思うんですね」
五輪開催で建築資材の高騰や建築現場での人出不足が起こり被災地の復興の妨げになったというのに、安倍晋三前首相や菅首相よろしく「復興五輪」「困難からの復活」を叫ぶ……。コロナについても「困難からの復活」などしてしないばかりか、いままさに困難の真っ只中にあるという認識が増田氏にはないらしい。
だが、さらにこのあと、増田氏は耳を疑うようなことを口にする。「私なんかスポーツやってきた人間だから、スポーツ村にいるのかもしれないけども、身体で良さ・価値を感じてる」と、非常に感覚的で無意味な「オリパラ開催の意義」を語ったのだが、そのあと、こんな問いかけをおこなったのだ。
「さっきから厳しいこと言われる水無田さんなんかは、ご自分がスポーツ好きですか? 観るのは好きですか?」
この質問に、水無田氏は「大好きです」と即答すると、増田氏は「それでもそういうことなんですね」と述べていたが、ようするに増田氏は、あくまで説明やエビデンスがないことを指摘してきた水無田氏を“オリパラを批判・反対する人はスポーツ嫌いに違いない”と決めつけ、こんな質問を唐突におこなったのだ。
このひどい決めつけには、有森氏が強い口調で「(好き)だからなんですよ。だから、みんないま反対と思われている、ネガティブなことを言っていると思われている人は、けっして嫌いじゃないんですよ。大好きだから、好きだったんだよ、いままでって。ほんとうに思いを寄せて応援してきたんだと。なのになんでこうなっているの?っていうところが残念なんですよ」と説明したのだが、それでも増田氏は有森氏の話などどこ吹く風で、またもこんなことを述べたのだ。
「競技場とかにいると、観客少なくてもそれを見ていると自然に……こういう状況のなかでもしっかり感染予防対策して、触れてほしい。そうすると理屈じゃないんですよね。なんか元気になりますし、選手たちだってやりながら自信つけていきますし」
●増田明美は、佐々木宏の容姿差別演出問題にも「あれは告げ口文化」と告発した側を批判
世界で300万人近い人たちが新型コロナで亡くなり、いまも命を奪いつづけているというのに、「スポーツに触れれば元気になる」「理屈じゃない」と無邪気に語るのは、いくらなんでも意識が低すぎるし、それこそスポーツファシズムだろう。
同じ“女子陸上界の先輩”のこの発言に有森氏はあ然とした表情を浮かべ、こう持論を述べた。
「選手のこととか、スポーツのことを思うのは一回やめてほしい。それを応援している人たち、それに日常的に関係しない人たち、その人たちあってのスポーツじゃないですか」
「アスリートファーストじゃない。社会ファーストじゃないですか。社会がちゃんとないとスポーツできないんですもん。社会があって、その下に人間がより健康に健全に生きていくための手段としてスポーツがあり、文化があり、そこのひとつなんです。そのひとつに大きなイベントとしてオリンピックがある。ちゃんとした社会と健全な人たちのもとで守られてできていっている」
「(社会に対する)愛と言葉が足りなさすぎるんじゃないですかって思う」
どうして人命第一に立たず、スポーツ大会の開催が優先されてしまうのか。多くの人が感じている大きな疑問に対し、元アスリートとして「アスリートファーストじゃない。社会ファーストであるべきだ」と明言した有森氏。まったく正論だが、対して増田氏はこのあとも絶句するような発言をおこなった。
それは、組織委の中村氏が「開催の意義」について、「ジェンダー平等のためにもやる意義がある」という旨の主張をしたときのことだ。
当然ながら、組織委の会長だった森喜朗氏の性差別発言や佐々木宏氏による容姿差別の演出案問題が話題になり、水無田氏が「開閉会式の案については、ほんとうに止めてくれてよかったなと思う」などと言及したのだが、すると、増田氏が口を挟み、こう言ったのだ。
「いや。でもさ、あれは、告げ口文化じゃない。あれ、あのことをね、打ち合わせで言ったことがね、あんなふうにね、1年前ですよ、なっちゃうっていう日本の告げ口文化、嫌い」
佐々木宏氏をめぐる報道は、あのような下劣なアイデアを平気で出すような人物が開閉会式の演出トップに立っていることを問題として「告発」したもので、「公益通報」というべきものだ。にもかかわらず、増田氏は女性蔑視の問題は棚上げした上、「告げ口文化は嫌い」などと評したのだ。
増田氏は森喜朗氏の性差別発言の際も、発言を批判しながらも「女性の目線は必要だけれど、男性でないとできないこともある。男女がうまく役割分担し、自然と調和が生まれる組織がいい」(読売新聞3月8日付)などと発言していた。このような人物がパラ陸連の会長を務めていることも問題と言わざるを得ないが、普段、解説者として増田のことを「選手の小ネタをたくさん披露する詳しすぎる解説の人」とだけ認識していた視聴者には、オリパラ開催のためにここまで無神経な意見を吐けるものなのかと衝撃を与えたのではないだろうか。
●問題の「NHKスペシャル」の放送が延期になった原因は、森喜朗氏や官邸への忖度
と、このように、開催賛成派がことごとく感覚的かつ無神経な発言に終始し、討論を見ても「開催できる気がしない」という印象しか持てなかった、この『令和未来会議』。ある意味、開催賛成派のヤバさが露呈するいい機会になったとも言えるが、問題はこのような討論がいまごろおこなわれたという点だ。
水無田氏も、冒頭で「この番組、ようやく議論なされるようになりましたけれども、もうすぐ聖火リレーがはじまるという直前期ですよね」と指摘していたが、じつは、この東京五輪をめぐる討論は当初、1月24日に放送が予定されていた。それが放送直前の1月17日に急遽、収録を中止。あらためて生放送で仕切り直したのが、今回の番組だった。
1月17日の収録はなぜ中止となったのか。当時、NHKは東京五輪の開催の是非を訊いた世論調査の結果をめぐって森喜朗氏や官邸から睨まれており、そのため番組を中止。さらにはその後の世論調査では開催の是非を問うのではなく「どのような形で開催すべきか」という“開催ありき”の質問に変更してしまうという経緯があった。
そして、ようやく、この番組が放送されたのは聖火リレー直前──。この放送によって開催賛成派の説明の滅茶苦茶さが可視化されたことは評価すべきだが、同時にNHKが圧力に屈服した事実も忘れてはならないだろう。
(編集部)
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「ねぎらい不足」職場で実感?(写真:ITmedia ビジネスオンライン)54
「ねぎらい不足」職場で実感?(写真:ITmedia ビジネスオンライン)54