【実録・怖い女】夫を放火で殺害、娘はバラバラ殺人犯…金に目がくらんだ強欲女の「嘘つき人生」

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2021年12月29日 09:00  週刊女性PRIME

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※写真はイメージです

 男に溺れ、金に目がくらみ、欲望のまま犯罪に手を染めた女たち。人を騙し、“誰か”を殺めてしまった女たち。この世にはさまざまな「怖い女」が存在する。いったい、何が彼女たちをそうさせたのかーー。大きな事件から、あまり知られていない小さな事件まで。昭和から平成にかけておきた事件を“備忘録”として独自に取材をする『事件備忘録@中の人』による「怖い女」シリーズ、第2弾。

◆   ◆   ◆

 事件は平成17年12月に起きた。

 広島県福山市内の雑居ビルから出火、焼け跡からは男性と見られる遺体が発見された。司法解剖の結果、遺体は火元の喫茶店経営者の男性(当時50歳)と判明、男性の妻はその夜、友人らと食事をしており、その際にも夫の寝たばこを気にするなどしていたことなどから、当初は男性の寝たばこによる失火と思われていた。

 しかし1年後、広島県警と福山東署は、男性の妻の逮捕状を取る。妻はそのとき、すでに別の犯罪で服役中だった。

 捜査が進むにつれ暴かれた嘘で塗り固められた女の人生とは。そして、女のそばにいたもうひとりの女のその後。

結婚9日目に起きた事件

 殺人と現住建造物等放火の容疑で逮捕されたのは、被害男性の妻・依子(仮名/当時48歳)。

 依子は夫が死亡したのちに、県の融資制度を悪用し銀行から825万円を騙し取った疑いで知人の男(当時36歳)とともに逮捕、服役中だった。

 失火だと思われていた雑居ビルの火災だったが、警察はこの妻に対して疑いの目を持っていた。

 そもそも被害男性とこの妻が結婚したのは男性が焼死するわずか9日前のことで、さらに同じころ、その男性に対して1億5000万円の生命保険をかけていた。当然、受取人は依子だった。

 告別式では泣いて取り乱す依子を、周囲の人々は冷ややかな目で見ていたという。男性の母親は依子に対して、

「お前が殺したんじゃろうが!」

 と、怒りを隠すこともなかった。が、当の依子は周囲の視線をものともせず、「ひどいことを言うね」などと言って悲劇の妻を演じていた。

 男性の家族らは、当初から依子との結婚には猛反対していたという。

 その理由は、依子の多額の借金だった。加えて、依子は自身が運営する結婚相談所の会員らからも、なにかにつけて金を要求していたという話もあった。それでも男性は家族の反対を押し切って依子と結婚してしまう。それは、依子が「妊娠した」からだった。

マタニティルックの未亡人

 依子と男性が知り合ったのは平成17年の3月。知人を介しての出会いだったが、当時依子は火災現場となった喫茶店で結婚相談所も運営していたといい、その運営に男性も誘い込んだ。

 順調だと話していた経営は実はうまくいっておらず、当時依子には多額の借金があったという。ところがあるとき、依子は完済証明書を持ち出し、それを見せて依子に不信感を抱いていた男性の家族らを説得して回った。

 その後、妊娠したことを機に入籍するも、その9日後に男性は命を落とした。

 男性の死から数日後、男性が勤務していた会社にマタニティルックの依子が現れた。男性の退職金をもらいに来たという依子に、会社は違和感を覚える。

 それは生命保険会社も同じだったようで、男性の死の10日後に保険金の支払いを要求してきた依子に対し、その支払いを留保した。しかし、社会保険事務所などいくつかの機関は依子の請求に応じていた。

 警察も当初からこの出来すぎた男性の死に疑念を抱かざるを得なかった。事件直後から夫婦関係や依子の周辺を洗い出したが、そこから見えてきたのは、依子という女の嘘にまみれた過去だった。

嘘にまみれた人生

 依子は広島に来る前、大阪で働いていた。寝屋川で娘が生まれたが、借金から逃れるために広島へとやってきた。

 依子を知る人らによれば、とにかく“変わった人”という印象だった。安いからという理由で平気で事故物件に暮らし、家の外壁に七福神を描いたりもしていた。

 しかも当時から依子には一緒に暮らしている年下の男性の存在があった。依子の子どもらがまだ幼いころからその男性はいたという。そして、事件の被害者となった男性と依子が結婚した時期も、この男性は内縁状態であったというのだ。

 このことは被害男性の家族も感づいていて、幾度となく男性に結婚をやめるよう忠告していたが、男性は結婚願望が強かったことや、何より依子の妊娠が結婚へと急がせた。

 が、その妊娠は嘘だった。

 依子がついていた嘘はこれだけではなかった。男性に対し、自分の名前は“加藤愛”と名乗り、年齢も10歳ほどサバを読んでいたという。そして、男性の家族に示した借金の完済証明書も偽造したものであり、実際には数千万の借金が残ったままだった。

 また、依子が暮らしていたとされる家が火災で全焼したことがあった。その際、約500万円の火災共済金を依子は受け取ったが、実はその家には生活実態がなかったのだ。

 依子はわざわざ古い家屋を安く買いたたいていたが、その家にはほとんど暮らさず、別の家で生活していた。そしてたまたまその住んでもいない古い家に火災保険を掛けていたところ、偶然にもその家が火災に見舞われたというのだ。

 嘘の妊娠でこぎつけた結婚、それと同時に行われた生命保険の加入、さらには、男性が20年勤めあげた会社に対し、依子は勝手に退職届を書き提出していた。男性は退職する気などなかったというが、男性の死後すぐに退職金を要求しているところを見ると、ここからは依子の「取れるものは全部取る」という強欲さが見えないだろうか。

 警察はこれらの事実を丁寧に拾い上げた。そして、当初は検出されなかった睡眠導入剤が、別の検査方法を試したところ被害男性の体内から出たこと、現場が外から施錠されていたこと、出火時間より後に男性からメールが来たと依子が話していたこと、そのほか、状況から男性と近しい関係の人間が犯行に及んでいると強く推認されることなどから、依子の逮捕に踏み切った。

 裁判では一貫して否認していたが、検察は「(依子には)被害者を利用して多額の金を手に入れる動機がある」と主張、依子に無期懲役を求刑した。

 平成21年、広島地裁は求刑通りの無期懲役の判決を下し、その後最高裁まで争われたが、平成23年上告棄却となって依子の無期懲役は確定した。

娘が起こした「バラバラ殺人事件」

 放火事件で逮捕されるより前、依子が詐欺で逮捕された際には、一緒に逮捕された男性の存在があった。この男性は、依子が長年内縁関係を続けてきたあの年下の男性である。この男性は放火事件でも当初は共犯として逮捕されたが、後に嫌疑不十分で不起訴となっていた。

 が、この男性、先の詐欺事件で逮捕された際、証拠調べの中で別の罪を犯していたことが判明していた。

 それは、依子の娘に対する性的虐待であった。

 男性の所有するパソコンの中にその証拠の画像が残っていたのだという。その事実を、娘は「母が悲しむから」という理由でずっと心の中に秘めてその後の人生を生きていた。しかしそれはやがて娘の人生そのものを母と同じ道へと進ませることとなる。

 平成27年のクリスマスイブの日、娘は大阪で同居していた女性を殺害し、バラバラにした。

 動機は検察によれば「借金」だったという。同居女性の身分証を用い、自分がその女性になりすまして金を引き出していた。それが行き詰った挙句の犯行とみられている。

 娘は裁判でその生い立ちを語った。そこには、母の逮捕と、その母の内縁男性から受けた惨い性的虐待のくだりもあった。

 依子の娘に殺害された被害女性の両親は、「不遇な境遇だったと思うが、今のあなたはあなた自身が作り上げた」と諭した。

 依子の生き方が娘に連鎖したとは言わないが、それでも母と娘のそれぞれが犯した罪を見てみれば、いくつも共通する部分があるように思える。娘も母と同じく、最後まで殺人を否認した。

 根っからの詐欺師と言われた母、依子の足元にも及ばないとはいえ、娘もまた他人に成りすまし、睡眠導入剤を用い、犯行後には母と同じようにメールなどで被害者が生きているかのような偽装を行っていた。娘の犯行動機は完全に解明されたとは言えないかもしれないが、少なくとも借金の存在は外せないだろう。

 母が夫を死に追いやったあの日から10年目の同じ12月の夜。娘の脳裏に、母・依子の姿は一度もよぎらなかったろうか。

 母の業火は、娘までも飲み込んだ。

事件備忘録@中の人
 昭和から平成にかけて起きた事件を「備忘録」として独自に取材。裁判資料や当時の報道などから、事件が起きた経緯やそこに見える人間関係、その人物が過ごしてきた人生に迫る。現在進行形の事件の裁判傍聴も。
サイト『事件備忘録』: https://case1112.jp/
ツイッター:@jikencase1112

【参考文献】


週刊文春 平成28年1月14日号 p141〜142


読売新聞 平成19年1月16日9時13分配信、平成19年1月20日大阪朝刊、1月23日大阪夕刊


毎日新聞 平成19年1月16日3時6分配信


時事通信 平成19年1月17日21時1分配信


朝日新聞 平成19年1月20日、1月23日


産経新聞 平成19年1月26日大阪朝刊


犯罪の世界を漂う 無期判決リスト2011年、2017年

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