ホテルは24時間営業、年中無休。もちろん年末年始もフル稼働しています。
ホテルと言えば、宿泊施設を思い浮かべる人も多いと思いますが、今回は、いわゆるシティホテルでの年末年始を紹介します。シティホテルとは、宿泊だけでなく、宴会場やレストラン、バーが併設されたホテルのこと。ちょっと高めのホテルを想像して頂くと良いかもしれません。
筆者が働いていたのは、都心にあるシティホテル。サービススタッフ、宴会担当や婚礼担当(ウエディングプランナー)として、10年以上勤務しました。
この体験談は、全てのホテルがあてはまるとは限りませんが、ホテル経験者なら共感してもらえる部分もあるはず。煌びやかに見えるホテルの裏で、休みなしで奮闘するホテルスタッフの実態をお伝えします。
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ホテルの年末年始はとにかく忙しい。
年の瀬だなぁと感じるのは、毎年恒例、宴会場で行われるディナーショー。
ディナーショーとは、歌手や有名人のショーを楽しみながら、フルコースの料理を味わうことのできる晩さん会。どこのホテルでも年末に行われる恒例行事です。
ディナーショー当日に最も大変なのは「料理を作ること」と「料理を提供すること」。筆者は料理を提供する側なので、厨房の様子は外側からしか知りませんが、とにかく料理長の殺気が怖かった。
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一度に100人以上の料理(しかもフルコース)を提供するディナーショー。何人もの料理長と一緒に働いてきましたが、日頃温厚な料理長でも、ディナーショーの日は、例に漏れず全員怖かった。料理長の怒鳴り声は、当たり前のようにバックヤードに響き渡ります。
そして料理を提供する側のサービススタッフも、とにかくひたすら忙しい。
ディナーショーは、食事をしながらショーを楽しむと思われがちですが、実際はディナータイムの後に、ショータイムが始まります。
そう、お客様が食事を楽しんでいる間、控室で有名人がスタンバっているのです。時間が押さないか、常にイベント会社の人の目が光っているのです。ショーの開始時間を遅らせるわけにはいきません。
とにかくオンタイムで料理を運び終えることが、サービススタッフの使命です。
人手が足りないために、バイトを雇うのはもちろん、フロントスタッフや、事務スタッフまでも駆り出され、料理をお客様に提供します。フロント部門のマネージャーが、いちサービス員に扮して料理を運び、婚礼部門のトップが皿洗いをしていたりもします。
それでも全く足りないマンパワー。厨房から次々とでてくる料理。運んでも運んでも、一向に皿は減りません。
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お客様の前でゆったりと笑顔で接客する一方で、ひとたびバックヤードに入れば全員小走り。ドリンクが足りなければ保管庫まで猛ダッシュ。この忙しさがデザートを出し終わるまでの1時間強続きます。
フルコースの出し始めには余裕の表情だったスタッフも、肉料理を提供する頃にはもうピリピリです。料理の提供が終わり、ショーの最中は束の間の休息時間……と思いきや、後にはディナーショーの第2部が待っています。
第1部から第2部への「どんでん」(皿やグラスの片付け、テーブルクロスの張替、フルコースのセットを数100人分!並べること)の時間が20分しか取れないことも。スムーズなどんでんのため、バックヤードでは、第2部の準備が大忙しで行われているのです。
12月22日から25日にかけては、レストラン部門が忙しくなります。日頃は満席になることの少ないレストランも、カップルで満員御礼に。高単価なコース料理が次々に注文され、レストランスタッフも厨房も大忙し。
そして、人知れず忙しくなるのがパティシエ部門。1年で一番ホールケーキが売れるクリスマス。
筆者が働いていたホテルでは、クリスマスケーキの予約販売を行っていたので、毎年100個のクリスマスケーキのオーダーがありました。
ディナーショー同様、スタッフ総動員でケーキ作りに励みます。生クリームをパテしたり、絞ったりなど技術を要することはできませんが、イチゴを乗せたり、箱を組み立てたり、日頃とは全く違う業務にスタッフ一同奮闘します。
近くでパティシエさんの技を見ることができるのは役得でしたが、各部署の通常業務もこなさなければいけません。他の職業と同様、年末年始は取引先が休業になるため、今年中に終わらせなければいけない業務が山のよう。ケーキ作りが終わったら、生クリームの匂いを漂わせながら、持ち場に戻って事務作業に明け暮れます。
ホテル勤務時代には、クリスマスなんてありませんでした。残業中にパティシエさんがこっそり差し入れしてくれたクリスマスケーキの切れ端の美味しさは今でも忘れません。
クリスマスが終わると、次は「おせち料理」が待っています。
こちらは厨房部門担当ですが、例によって他部署も駆り出されます。冬の真っ只中、宴会場を冷房でキンキンに冷やし冷蔵庫状態に。そこにスタッフが集結し、朝から晩までおせち詰め作業。伊達巻担当、海老担当など、作業を分担し、ベルトコンベアのごとく、重箱にひたすら料理を詰め込みます。
フロントスタッフも、ウエディングアドバイザーも、抗菌服にコック帽を被り、普段からは想像できない風貌に変身します。日頃は気取ってシェーカーを振るバーテンダーが、除菌服姿で重箱に黒豆を詰める様は、なんとも言えない滑稽さがありました。
おせち料理が完成したら、そのまま配送作業へ。
筆者が働いていたホテルでは、おせち料理をデパートにも卸していたので、詰め込みが終わった夜中の12時頃から各デパートへの配送作業が始まります。今思えば、それを待つデパートのスタッフさんも、大変な残業だったことでしょう。そして帰宅は深夜2時頃。また次の日にもおせち詰めが待っています。クリスマス同様、年の瀬も大忙しのホテルです。
年始めは、少し余裕があります。客足や問い合わせも減りますし(ホテルによると思いますが)、各取引先も休業中のため、日頃できない事務作業をしたり、正月明けから始まる新年会やウエディングフェアの準備をしたり、事務作業が捗ります。
ただ、ホテルは年中無休の24時間営業。正月でも、年越しでも、必ず誰かは出勤しなければなりません。一般企業のような大型連休なんて夢のまた夢。年末年始に2連休が取れる年は、最高の幸せを感じます。
毎年、怒涛の年末年始が繰り広げられるホテル業ですが、忙しさの分だけ、やりがいや達成感も感じます。
日頃の職場を離れて、違う部署のお手伝いをする年末年始は、楽しさもあり、スタッフ同士の連帯感も生まれます。今思えば、凍えながらおせちを詰めていたあの場面も、料理長の怒鳴り声さえ、青春の1ページなのかもしれません。
【一柳ひとみ:筆者プロフィール】
都心にあるシティホテルで、サービススタッフ、宴会担当や婚礼担当(ウエディングプランナー)として、10年以上勤務。現在は保育士として働きつつ、臨時で結婚式の仕事やライター業も行っている。
プライベートでは3児の子をもつ母。
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