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2021年6月23日、最高裁大法廷は民法が定める夫婦同姓の規定は「合憲」との判断を示しました。その後、選択的夫婦別姓の制度導入を求める裁判が次々と最高裁で敗訴するなか、制度に対する関心は高まりつつあります。
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衆院選と同日の10月31日におこなわれた最高裁判所裁判官の国民審査前には、ツイッターなどSNSで夫婦同姓の規定を合憲とした裁判官を名指しして、バツをつけようと呼びかける動きもありました。
一方、選択的夫婦別姓に反対する声も根強くあります。「名字を変えたくない」と思い事実婚を考えていたものの、夫やその家族の反対を受け、自身が名字を変えて法律婚をした女性は「夫婦別姓を認める法改正をしなければ、これからも苦しむカップルは増え続ける」と訴えます。
法律婚にいたるまでの過程を寄稿してもらいました。
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「自分の名字を変えたくない」と思ったのは、パートナーとの結婚の話が具体的になったときのことでした。実はそれまでは、「名字を変えるのは私だろう」と漠然と思っていました。当時、夫が名字を変えた女性の友人は周りにおらず、「妻側が変えるのはしょうがない」とどこかで諦めていたのだと思います。
しかし、いざ名字を変えるタイミングが近づいたとき、ふいに20年以上呼ばれてきた自分の名字を変えるさみしさを感じました。「なぜ私だけが」とも思いました。
ちょうどその頃、韓国の女性差別を描いたチョ・ナムジュさんの小説「82年生まれ、キムジヨン」(筑摩書房)を読み、自分のこれまでを思い返していました。
今よりずっとわんぱくだった子どもの頃、先生から「女の子なのにはしたない」と怒られたこと、電車で痴漢にあった時に恥ずかしくて誰にも言えなかったこと、通学路で露出狂に突然見せつけられた男性器の気持ち悪さ…。
これらは全部、私が「女性だから」遭ったことだと気づきました。それなのにまた、幸せいっぱいのはずの結婚で、私は「女性だから」名字を変えなければいけないのか。「これ以上我慢するのは嫌だ」と強く思いました。
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だからといって、パートナーに改姓を強いるのも嫌でした。思いつくのは、事実婚の選択肢だけでした。
勇気を出して「名字に愛着があるから変えたくない。女性ばかりが改姓するのもおかしいと思う。事実婚を考えてみないか」と提案したところ、案の定、彼は困惑しました。彼の周りにも「名字を変えたくない」という女性の友人はいなかったからです。
彼は、自分が名字を変えずに結婚することは当たり前だと思っていました。長男であるため、両親も当然のように名字を継ぐことを期待していました。とはいえ、私も長女なのは一緒。「あなたが長年使った名字を変えたくないのは私も一緒。名字はアイデンティティーの一部だから」と何度も話し合って伝えました。彼も徐々に理解してくれました。
お互いこれからの人生を一緒に過ごしていきたい気持ちは変わらなかったため、二人で事実婚を真剣に検討し、法律婚との違いを手分けして調べました。しかし、万が一お互いが事故に遭ったとき、夫婦関係を証明できなければ緊急時の手術同意書などにサインできるか不明、というのは不安なままでした。
私の両親は「名字は二人で決めれば良い」と見守ってくれていましたが、彼の両親の考え方は違いました。
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直接二人の決定に口は出さないにしても「事実婚というのは、何か問題があって結婚できない夫婦がするもの」という考えで、彼に大きな影響を与えていました。何度話し合っても彼の気持ちは「法律婚で結婚しないと、本当の夫婦という気持ちにどうしてもなれない」から変わりませんでした。
とはいえ、彼も自分の気持ちを優先すると、私に改姓を強いることになるのは分かっていました。最後は黙り込み、話は膠着状態に。
法的に夫婦と認められるにはどちらかが改姓を我慢するしかない理不尽さへの怒りと、私から見ると「古い」と感じる彼の考え方への違和感でいっぱいになり、どうしていいか分からない日々でした。一番つらかったのはこの時です。
約1年間話し合い、最終的に「本当に申し訳ないが改姓してほしい」と頭を下げた彼の姿を見て、私が音を上げました。20年以上彼が信じて疑わなかった「家族は同じ名字でいるもの」という価値観は、簡単に変わるものではないと判断したのが正直な気持ちです。
選択的夫婦別姓制度が認められるまで結婚を待とうかとも考えましたが、いつ実現するのか全く見通しがたたない今、一緒に暮らしながら、何か病気や事故があったときに法的に夫婦と認められない生活を送るのは不安でした。「もし別姓が認められたら再び改姓する。今後の改姓手続きは必ず二人で行く」などを条件に、改姓しました。
その後、仕事では旧姓を使い続けているのもあり、「自分の本来の名字は旧姓だ」という意識のまま過ごしています。新しい健康保険証で新姓を見ると「なぜか突然降ってきた別の名字」のような不思議な気持ちになります。
結婚後、友人に「もう○○○○さん(旧姓のフルネーム)という人は世の中にいないんだね」と言われました。決して私を傷つけようと言ったわけではありません。私の表情を見てすぐに謝られましたが、これが現実なんだと突きつけられました。いくら仕事で旧姓を使えても、戸籍上では「私」はもう存在していない、という喪失感は忘れられません。
名字について悩む間、「結婚するとき当然のように改姓を求められたけど、今でも名字が変わって悲しいよ」と話してくれた友人がいました。名字を変えたくない女性は周りに少ないと思っていましたが、自分の思いを話してみると、同じ思いの女性は想像以上にたくさんいました。
苦痛を感じているのは、女性だけではないとも思います。夫は今、私との話し合いを経て「自分はずっと加害者なのか」と悩んでいます。夫婦の中に「加害者・被害者」のような構図が生まれてしまったことにどう向き合えばいいか、気持ちが揺れているようです。
妻の姓に改姓した「サイボウズ」社長の青野慶久さんは以前「夫婦同姓制度は、名字を変えたくない人だけでなく、変えさせてしまった人も不幸にしている」と話していましたが、その通りだと感じます。
事実婚のカップルたちが夫婦別姓を求めて起こした裁判で、最高裁は2021年6月、夫婦が同じ名字を名乗らなければならない今の制度は合憲で、「女性側が不利益を受けることが多いとしても、通称使用の広がりで緩和される」と判断しました。
名字はアイデンティティーであることを無視した考えだと思います。それなら、合憲と判断した裁判官は、実際に改姓を迫られたら「通称が使えるから構わないよ」と応じるのか聞きたいです。
名字を一緒にしたい人はもちろんそうすればいい。でも、そうしたくない人に改姓を強いる今の制度は構造的な暴力です。その不合理さに気づけば、結婚したいと願う限り、引き裂かれるのは当事者です。
最高裁は、議論を立法府に促しています。2021年の衆院選でようやく選択的夫婦別姓が論点になったのは良かったですが、国には一刻も早く選択的夫婦別姓を認める法改正をしてほしいです。そうでなければ、これからも苦しむカップルは増え続けるでしょう。
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