アルバイトの後輩の山本さんは、あと2ヶ月で高校の卒業式というところで妊娠が分かったそうです。なるべく話を広めたくないようで私にだけ打ち明けてくれました。しかし間もなく体調不良を理由に遅刻が始まり、私のシフトにも影響が出るようになってしまったのです。
当時まだ私は妊娠の経験もなく、身近に妊婦さんがいたこともありませんでした。そのため後輩の「少し駅で休んだらすぐ行きます」という言葉を真に受けて、「しばらくしたら普通に出勤してくるんだろう」と思いながら待っていました。
後輩がほぼ毎回遅刻してくるようになると、私は連日残業をさせられる羽目になり疲れきっていました。しかもそのたびに店長から嫌味を言われ……。どうしても残業ができない事情があった日も山本さんから遅刻の連絡が。私はついに電話口で後輩に怒りをぶつけてしまいました。それ以降、後輩とバイト先で会うことはありませんでした。
しばらくして念願のイラストレーターとして仕事をもらえるようになった私は、ネットカフェのバイトを卒業することになりました。そのときふと思い出したのが、ひっそりと辞めていった後輩の山本さんのことです。
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中編へ続く。
文、作画・猫田カヨ 編集・井伊テレ子