京アニ『ツルネ』が話題 いま「弓道」小説がじわじわ人気に 耳に弦音が聞こえてくる作品とは

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2022年08月28日 07:11  リアルサウンド

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 アニメ映画『劇場版ツルネ―はじまりの一射―』が公開になって、弓で矢を放った時に弦が弓に当たって鳴る弦音(ツルネ)が映画館に響き始めた。原作は綾野ことこによるライトノベル『ツルネ―風舞高校弓道部』(KAエスマ文庫)。高校の弓道部を舞台に、少年たちが挫折したり仲違いしたりしながらも、同じ目標に向かって進む物語は、耳に弦音が聞こえてくるような丁寧な描写で読む人を惹きつける。


 小学生の頃から弓道を習い始め、中学でも弓道の強豪校でエース級の腕を見せていた鳴宮湊だったが、自分の意思に逆らって手が動いて、早く矢を射ってしまう“早気”という状態になってしまう。もう弓は引けないと思った湊は、同じ学校の高等部には進まず、地元の風舞高校に入ったが、そこで幼なじみの竹早静弥と山之内遼平から出来たばかりの弓道部に誘われる。


 最初は逃げていた湊だったが、ある事情から1日100射という修練を続けている滝川雅貴という青年と出会い、交流を続けるうちに早気をどうにか克服。そして風舞高校で5人が全員1年生というチームを作り、全国大会への出場権をかけた県大会の団体戦を目指す。


 無名の学校が練習し、団結して頂点へと近づくストーリーは、弱小野球部が甲子園を目指して突き進むようなスポーツ物と同じ面白さを持っている。感情の起伏が激しい湊や、逆にいつも冷静沈着な静弥、キツい性格の小野木海斗ら個性的な5人のメンバーが、ぶつかり合いながらも理解も深め、補い合いつつそれぞれが抱える問題を克服していく展開から、仲間がいる素晴らしさが感じられる。


 同時に、ひとり射場に立って的を狙い弓を引く弓道は、同じ武道でも技や力を競い合う剣道や柔道とも違った雰囲気があって、自分自身を相手にした戦いの積み重ねといった雰囲気を漂わせている。早気を克服しようと足掻く湊や、湊のことになると冷静さを失う静弥が、それぞれに自分の課題に直面していくシーンからは、自分にもある課題の解決方法を学び取れる。


 テレビシリーズはそんな小説をそのまま描いていったが、ダイジェストとなる劇場版は、湊にとってライバルとなる藤原愁が強豪校のチームのメンバーとなして登場し、風舞高校と県大会の決勝で激突するシーンが強く描かれる。そこでの結果を踏まえた一種のリベンジに、湊と愁にとって中学時代の先輩にあたる二階堂永亮が所属する辻峰高校が絡んで来るストーリーが、続く『ツルネ―風舞高校弓道部―2』のメインストーリーだ。


 劇場版の公開と同時に、この第2巻のアニメ化も発表され、二階堂役を福山潤が務めることが決定。改めてテレビから弦音が響く時を期待させる。それが終われば、8月19日に刊行となったシリーズ最新刊の『ツルネ―風舞高校弓道部―3』の映像化も話に乗ってきそうだ。


 2年生になった湊や静弥、愁がそれぞれの弓道部で新1年生たちの相談に乗ったり、狂信的なアプローチに困らせられたりする内容。風舞高校では湊たち5人だけだったメンバーに力のある1年生が加わり、メンバー交代の可能性が起こって推しキャラがどうなってしまうのかとハラハラさせる。滝川雅貴の過去に触れる場面もあって4巻以降の展開に絡んできそうだ。


 もちろん湊や愁が射場でいっしょに弓を引く試合の場面になると、一気に武道を極め己を極める描写が繰り出されて引き込まれる。何度目かになる2人の勝負の行方は? それは読んで確かめよう。


 『ツルネ―風舞高校弓道部―』以外にも、読むと弦音が聞こえてきそうな小説が幾つかある。『書店ガール』の碧野圭による『凜として弓を引く』(講談社文庫)は、弓道部ではなく近所の神社に作られた弓道場で女子高生が弓道にハマっていくストーリー。引っ越し先で高校の入学式まで間があった矢口楓が、弓道場で弓を引く少年に見とれていたら6日間だけの体験会に来ないかと誘われた。


 試しに入ると最初は弓を触らせてもらえず、礼儀や作法を叩き込まれる場面に、弓道って面倒なのかもと思えてしまう。けれども、楓が基本を学び美しい所作でしっかりと弓を引けるようになっていく様子に触れると、苦労の末に成功を掴むのと同じような喜びを得られる。登場人物たちといっしょに成長していける作品だ。


 もう1冊、ミステリー作家の我孫子武丸による『凜の弦音』(光文社文庫)と続編『残心 凜の弦音』(光文社)も、弦音とタイトルにあるように弓道がテーマとなっている。『凜の弦音』は弓道部に入っている高校一年生の篠崎凜が、引退した恩師の家で起こった殺人事件を解決に導いて「天才弓道少女」と呼ばれながら、身の回りで起こるちょっとした事件に挑んでいく弓道×ミステリーとなっている。


 これが『残心 凜の弦音』になると、弓に力が入らずスランプに陥った凜が立ち直っていく青春小説の色を濃くしていく。的まで矢が飛ばなかったり大きく的を外れたりする状況を見かねたのか、ライバルで女優をしている波多野郁美が凜を誘い出していっしょに遠的をしながら、相談に乗って凜の気持ちを解きほぐす場面では友情の輝きを見せられる。その郁美が女優としての壁にぶつかり悩んでいるところに、凜が手を差し伸べる展開からは弓道が結んだ関係の素晴らしさを堪能できる。


 ミステリー作家らしく、同じ弓道部員の男子が起こしたらしい動物虐待事件の真相を解き明かしたり、先輩がいったんなくして戻って来たビデオカメラから一部の映像が消されていた理由を言い当てたりと、凜の「天才弓道少女」としての活躍もしっかりと見られるが、より深く弓道とはなにかを探る方にウエイトが置かれている印象だ。ミステリーでありながらも弓道をテーマに書いていたことで、キャラクターたちの心に気持ちが同化し、響く弦音に魅せられてしまったのかもしれない。その魔法は読者にも存分に働くだろう。


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  • その番組に三森すずこ氏も起用して欲しい。
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