◆ 白球つれづれ2023〜第15回・ロッテの快進撃をけん引する藤原恭大の勢いは本物か?
ロッテファンにとっては夢見心地の1週間だったろう。
吉井理人新監督を迎えて船出したが、いきなり開幕3連敗。今年も苦戦必至と見られたが、4月4日の日本ハム戦からチームは別人のようによみがえった。地元・千葉に戻った時から逆襲の5連勝で貯金生活が始まった。
とりわけ、9日の楽天戦は内容も素晴らしい。
打っては、安田尚憲、藤原恭大、平沢大河の「ドラフト1位組」3選手が、併せて6安打7打点の大暴れ。投げては右肘のトミージョン手術から復活を期す種市篤暉投手が988日ぶりの勝利だから、お祭りムードに包まれても当然である。
「令和の怪物」佐々木朗希投手だけが、この快進撃を支えているわけではない。
5連勝の中身を見ていくと藤原の働きが光っている。
9日現在(以下同じ)打率.407はリーグ2位。ただいま6試合連続安打中だが、そのうち4試合がマルチ安打。しかも、長打率(.667)はリーグトップで、得点圏打率(.500)もチームトップだから、満点のすべり出しと言っていい。
甘いマスクで人気先行と呼ばれてきた藤原の変身を裏付ける打席がある。
5日の日本ハム戦。1点リードされて迎えた7回一死一塁の場面だった。日ハムのコナー・メネズ投手に追い込まれてから超人的な粘りを発揮。カウント1−1から実に9球ファウルで粘り、12球目を投手強襲安打で好機を広げる。この後、二死満塁から救援の玉井大翔投手が暴投する間に、二走の藤原が一気にホームまで駆け込んだ。
鮮やかな逆転勝利を呼び込んだ粘りの打撃は「藤原の12球」と呼ぶにふさわしいもの。昨年の大半は二軍暮らしの続いた未完の大器は確実に、一軍レギュラーの階段を登り始めた。
ソフトバンクに移籍した近藤健介やヤクルトの青木宣親選手らを思い浮かべていただきたい。打率を残し、結果を残す巧打者には大きな特徴がある。選球眼が優れている。なおかつ、追い込まれてからもファウルでかわしながら、甘い球を待って仕留める。「藤原の12球」はまさにこの形を実践したものだ。伸び悩みを指摘されていたドラ1君もプロ5年目。そこにはワンランク上の技術が集約されていた。
◆ 大谷を見て自分の生きる道を知る
沖縄・石垣島キャンプでは、新任の村田修一打撃コーチや、巨人、広島などで選手を育成してきた内田順三臨時コーチから打撃の心構えから新たな練習法までを吸収した。さらに大きな転機となったのは、WBC侍ジャパンのサポートメンバーに選出されたことだ。
中でも、衝撃を受けたのは大谷翔平選手の打撃練習だと言う。広いバンテリンドームの最上段に叩き込む怪物パワーを見せつけられて野球への意識までが変わった。
「もう、(本塁打への)あきらめがついたと言うか、ホームランはたまに打てればいいと思い知らされました」。大阪桐蔭高時代から強肩強打の一級品と称されてきた男が、大谷を見て自分の生きる道を知る。これこそが現在の安打量産につながっている。
安田や平沢も伸び悩む時期が続いたが、同じドラフト1位の藤原が打ちまくれば自分たちもうかうかしていられない。そんな相乗効果が今のロッテ打線に活気を呼び込んでいる。
「九番・中堅」で先発メンバーに名を連ねていた藤原にとって、新たな転機も訪れた。不動の一番打者・荻野貴司選手が6日の日本ハム戦で右足に肉離れを発症、一軍登録を抹消された。本来ならチームの大きな危機だが、絶好調の藤原が切り込み隊長の穴を埋めている。
「今日はドラフト1位トリオが打ってくれて、本当に良かった」と楽天戦大勝後に吉井監督は新たな手応えに喜んだ。
もちろん、このまま「4割打者」が続くわけではない。相手チームのマークも厳しくなっていく。それでも新たな壁を突き破っていけばいい。将来的には藤原、安田と山口航輝選手の若手三羽烏でクリーンアップを形成できれば、チームは理想形に近づく。
昨年はリーグ5位に沈んだチームの最多連勝は「5」が二度あるだけ。今季は早くも一度目を記録した。
この勢いは本物なのか? 進化は成長株の藤原にも問われている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)