◆ 白球つれづれ2023〜第16回・メジャーでの辛苦を乗り越えカープで再び輝きを取り戻した秋山の挑戦
新井貴浩新監督率いる広島が元気だ。
16日のヤクルト戦を鮮やかな逆転勝ちで飾ると3連勝で、一気に首位へ躍り出た。開幕から泥沼の4連敗でスタートしたチームは地元・マツダスタジアムに戻ると、ただいま6連勝中。降雨コールドや中断も味方につけて、神がかった進撃を続けている。
好調カープを牽引しているのが秋山翔吾選手である。
直近のヤクルト戦では、第2戦に自身11年ぶりとなる逆転サヨナラ本塁打を放てば、第3戦でも3打数3安打の固め打ち。ついに打率を.468に上げて首位打者争いのトップに立った。(16日現在、以下同じ)
開幕以来13試合消化時点でノーヒットに終わったのは、3試合だけ。残り10試合のうち、6試合にマルチ安打。さらに3安打以上の固め打ちがすでに4度もある。
ここまでに対戦したヤクルト、阪神、巨人、中日との対戦別成績も全球団に4割以上の数字を残している。いかに、安定した打撃かを物語る。そんな安打製造機が三番にどっしりと座っているのだから、首位躍進もうなずける。
「自分はレギュラーが約束されているわけではない。挑戦者の立場で臨みたい」と今季のスタートを切った。
昨年6月にMLBから日本球界復帰。古巣の西武移籍が有力視されるが、あえて新天地に広島を選んだ。提示された契約年数が西武の2年に対して、広島は3年。この時点で日米通算2000本安打まで残り500本を切っていた。
「2000本まで、思う存分暴れてください」と言う鈴木清明球団本部長の言葉が秋山の背中を押したと言われる。
しかし、シーズン途中の入団となった昨季は出場も44試合にとどまり、本来のシャープな打撃も影を潜めた。
◆ 復帰2年目で取り戻した本来の打撃
復活の原点は、メジャーでの苦い思いにある。
20年に海外FA権を行使してレッズ移籍。2015年にはプロ野球最多安打記録である216安打をマーク。“イチロー二世”の期待を背負って新たなスタートを切ったが、メジャー特有の快速球と手元で曲がる変化球に苦戦が続き成績は上がらない。左太ももの故障も抱えて、翌21年の開幕前には戦力外の通告を受ける。その後、パドレスとマイナー契約を結ぶも、再びメジャーから声はかからなかった。
「メジャーの野球は別物だった」。「自分の実力を知ることが出来た」。後に秋山は米国での2年間をこう振り返っている。
パワー全盛のMLBにあって、こつこつ安打を稼ぐ打者の評価は低い。それに抗うために本来の打撃を失っていった。そう考えれば帰国後の昨季の不振は復活への準備期間だったのかも知れない。
昨年は主軸打者に「核」を欠いた打線が、秋山が三番に座ることで全体が活性化する。菊池涼介選手や、西川龍馬選手らが脇役として威力を発揮すれば、新外国人のマット・デビットソンも低率ながら目下リーグトップの4本塁打で貢献する。
16日のヤクルト戦では八番打者の田中広輔選手が、劣勢を追いつく起死回生の同点グランドスラム。打率1割台に悩むベテランを信頼して送り出した新井監督の采配も見事に的中だから、チームは勢いづく。
新指揮官は、秋山が逆転サヨナラ本塁打を放った時、選手と一緒に歓喜の輪の中ではしゃぎまくった。昨年オフ、FA流失も囁かれたが西川が残留を決意したのも「新井さんがいるから」だった。
現役時代から良き兄貴分。人一倍の努力も厭わず、明るいキャラクターが人望を集めた。カープ黄金期を知る若き監督の醸し出す「明るいイケイケ野球」が現時点ではセ界を席巻している。
昔から5月は「鯉のぼりの季節」で、カープは強いと言われてきた。それより半月早くやってきた好調期。この先を考えればビジターの時にどんな戦いが出来るのか? 肘痛で出遅れているエースの森下暢仁投手がいつ戦列復帰出来るのか? まだ、不確定要素が多いのも確かだ。それでも秋山の復調が本物なら、まだまだ主役の座は譲れない。
メジャーリーガーからの“出戻り組”が成功した例は少ない。果たして秋山の再挑戦の結末はどうなるか? レッズで失敗した赤いユニホームも、広島なら似合ってきた。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)