ペナントレースも、いよいよ大詰め。すでに阪神とオリックスのリーグ優勝は決まり、ファンの興味はクライマックスシリーズ(以下CS)進出チームと個人タイトル争いに絞られてきた。
こうした中で、セ・リーグの最優秀選手(MVP)は誰になるのか?も大きな注目を集めている。パのMVPはオリックスの山本由伸投手の受賞がほぼ当確。最多勝、防御率、奪三振に勝率を含めた4部門でトップの実績は群を抜いている。今年も受賞なら3年連続、同リーグでは94〜96年のイチロー(当時オリックス)以来の快挙となる。
一方で混迷の度を深めているのがセのMVPだ。
18年ぶりのリーグ優勝を決めた岡田阪神。その勝因は岡田彰布監督の卓越した采配、用兵にあることは誰もが認める。指揮官の求める全員野球に多くの選手が応えたことも間違いない。だが、MVPと言う突出した一人を選ぶとなると、困った問題に直面する。「全員がヒーロー」もしくは、「ヒーローなき全員野球」が故に、ひとりに絞り切れない。嬉しい悲鳴と言うべきか?
候補者はいくらでもいる。野手なら1、2番でチームを牽引した近本光司と中野拓夢の快速コンビに、不動の4番として君臨した大山祐輔、さらには「恐怖の8番打者」木浪聖也を影のMVPとして挙げる球団OBもいる。
投手陣も多士済々だ。村上頌樹、大竹耕太郎、伊藤将司の10勝トリオに、新守護神の岩崎優と、いずれ劣らぬ好成績を残している。
彼らの中で、個人タイトルを手中に収めているのが、近本の盗塁王と村上の最優秀防御率。今も激しく争っているのが中野の最多安打と岩崎のセーブ王。この4人の中からMVPが選ばれてもおかしくない。しかし、誰か一人に得票が集まるかは、判断の分かれるところだろう。
◆ 優勝チーム以外でMVPに選出される可能性も
MVPとは、全国の新聞、通信、放送各社らが属する日本運動記者クラブの会員で、5年以上のプロ野球担当経験者による投票で決定する。さらに細かく言えば、同記者クラブは地域ごとに、東京、関西、中部などそれぞれの担当する場所が分かれている。最も多くの会員を抱えるのが東京運動記者クラブで、関西がそれに次ぐ。
近年のMVP争いは無風に近かった。昨年はセの村上宗隆選手(ヤクルト)が三冠王なら、パの山本は投手四冠。こういう年は投票する記者も苦労はいらない。
しかし、今年のセに限っては悩みも深い。通常ならリーグ優勝のチームから選出が順当だが、決め手がないので、多くの選手に分散してしまう可能性もある。そこで急浮上してきた伏兵がいる。DeNAの東克樹投手だ。
27日現在、16勝2敗の数字は群を抜いている。防御率(2.03)こそ、村上の後塵を拝しているが、最高勝率との二冠はほぼ間違いない。奪三振を除けば球界の絶対エース・山本と匹敵する働きだ。しかも直近での自身12連勝はインパクトもある。阪神勢の誰かを決めかねている記者が東に投票する確率はかなりあるはずだ。
過去に、優勝チーム以外でMVPに選出された例はある。直近では2013年にセのウラディミール・バレンティン(当時ヤクルト)が60本塁打の日本記録で受賞。(優勝は巨人)パでは14年に金子千尋(当時オリックス)が16勝5敗、防御率1.58で優勝したソフトバンク以外から選出されている。今季の東の成績は、この金子と類似しているため、記者たちがどう判断するかが見ものだ。
DeNAでは、シーズン途中まで今永昇太とメジャーのサイヤング腕であるトレバー・バウアー両投手の陰に隠れた存在だったが、今では絶対的な左腕エース。CSでも暴れれば下剋上の立役者になる可能性も秘めている。
謎解きをするように難解なセのMVP予想。その結果は日本シリーズも含めた全日程終了後に明らかになる。
「六甲おろし」に対抗する「ハマ風」も意外な強敵である。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)