ずるくて抜け目がなくてケチケチしていて、それでいて「大悪党」ではないニュアンスがある言葉だ。
新居に引っ越し、新しい人間関係
「40歳にして、中古マンションを購入、越してきたのが1年ほど前です。近所には新築マンションもあるし、一軒家もある。そんなごく普通の町なんですが、子どもの友だちの家がどのくらいの経済状況なのかわからなくて、付き合いづらいなと思うことも多々あります」そう言うのはユリさん(42歳)だ。同い年の夫との間に10歳と6歳の子がいる。彼女自身は週4回、パートで仕事をしている。
「不動産会社に勤める夫の友人が、職場からも近いしとこのマンションを薦めてくれたんです。確かに交通の便がいいし、駅から近いし。隣の年配のご夫婦もとってもいい方たちで気に入っているんですけどね」
まずは子どものことが優先、そのためにも「ママ友情報」をつかまなければならない。
ママ友界隈の力関係を知る重要性
ママ友情報というのは、どういうママ友と付き合えばいいのか、どういうママ友がいるのかといったママ友界隈の力関係を探ることだとユリさんは笑った。
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ただ、そのうちのひとりエミカさんは、少し親しくなると、あとのふたりがいないところで、『うちの子、3歳なんだけどお宅のお子さんのいらない洋服とか、ない?』と言うようになったんです。
引っ越しするときにかなり断捨離しちゃったんですよね。そうしたらエミカさん、『じゃあ、これからはよろしくね』って」
スーパーでばったり会ったとき、彼女は野菜売り場で考え込んでいた。ユリさんの顔を見ると、「ねえ、キャベツ、半分こにしない?」と言った。
キャベツならどうにでも使い切れるからユリさんは乗り気ではなかったが、彼女はお願いと言ってキャベツをユリさんのかごに入れた。
「私がぼんやりしていたせいもあるんですが、レジで精算してから、彼女はそのキャベツをもっていって半分にしてもらってきたんです。あとから考えたら、あれ、払ったのは私じゃないか、と……。金額はたいしたことなくても、あの人には気をつけなければと思いましたね」
いつも知り合いにそうしているのだろうか、疑惑をもたせない早業だったという。
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いつも遅れて現れるママ友
それだけではなく、彼女はママ友たちとファミレスなどに行くとき、いつも遅れて合流する。「私たちがドリンクバーなどを頼んでいると、あとからやってきて『ね、少しちょうだい』と持ってきた紙コップを出すんですよ。あげく、食べているものも『お腹すいてないんだけど、少しだけ味見させて』と。
それでいち早く引き上げるわけです。他のママ友は『まったく、あの人はいつもああよね』と呆れながらも慣れている感じでした」
ユリさんは、エミカさんはそれほど経済的に困っているのかとママ友たちに尋ねたが、「さあ、もうああいう人だと思っているから、家庭の事情まではわからないわ」と言うばかり。
エミカさんの家の場所を聞いて、ユリさんは行ってみることにした。
「ちょうど小さくなって履けない息子の靴があったので、それを持って行きました。教えてもらった自宅は、とんでもない邸宅でしたよ。ドリンクバーをごまかしたりキャベツを半分さらっていくような経済状態とは思えない。
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話せない事情を抱える人もいるのだ、と
エミカさんの家庭での立場を知ったユリさんは、急にエミカさんが気の毒になった。彼女は優雅な専業主婦のように振る舞いながら、せこせこと「こすっからい」ことを繰り返している。だがもしかしたら、彼女は自由になるお金をまったく持たせてもらっていないのかもしれない。
「あるときエミカさんをつかまえて、『もし困ったことがあるなら相談して。私のいとこが弁護士をしているの。女性の立場をよくわかっている人だから』と伝えました。
エミカさんは今、いとこの弁護士に相談をもちかけているそうです。守秘義務があるからいとこからは何も聞けませんが、彼女にとって状況が好転すればいいなと思っています」
ユリさんにとっても話は意外な方向に進んでいったそうだが、実はそういうことはあるのかもしれない。人には話せない事情を抱えながら、日常生活を送っている人もいるのだ。
「ただのこすっからいケチなママ友、という話で済んだほうがよかったような気もしますけどね」
ユリさんは複雑な表情でそう言った。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))