営業利益6割強も……「民放テレビ局」決算で見えた“アニメ頼み”の収益構造 専門家に聞く現状と見通し

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2024年05月29日 07:10  リアルサウンド

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photo:thom milko(unsplash)
■日本のアニメとテレビ局の蜜月関係

 劇場公開作品の上位を占めるなど、近年とみに存在感が増している日本のアニメ産業。「マニアが見るもの」というイメージはすでに過去のものとなっており、アニメは全年代が親しむ娯楽として親しまれている。


  そんな状況を如実に示しているのが、地上波各局のアニメ事業の売り上げだ。日本テレビは3月期の通期決算にてアニメ事業が前年比およそ80%の増加を記録したことを発表。またアニメに強いテレビ局として知られるテレビ東京は、同じく3月期の通期決算でアニメと配信の事業成長を報告。資料には営業利益のうち、およそ67%がアニメ・配信事業で占められているとある。


  広告による放送収入が落ち込む中、民放各局にとってアニメがもたらす収入は貴重なものだ。では、現在の民放とアニメはいかなる状況にあるのか。アニメ作品に関して数多くの取材を行ってきた数土直志氏に、現状のアニメとテレビ局の関係、そして今後の見通しを伺った。


──現状、各局の収入においてアニメ事業が占める部分はどれほどの大きさになっているのでしょうか?


  実際にはとても大きいものであると思うんですが、前提として細かい事業の収益に関しては具体的な数字が出ないこともあるので、テレビ局によるアニメ事業の売り上げというのは全体像が掴みにくいものなんです。それを踏まえた上でいうと、まずテレビ東京はアニメが収益に占める圧倒的に大きいテレビ局なのは間違いありません。


──イメージ通りですね……!


 テレビ東京はいち早くアニメ事業部を作ったり、アニメ担当の役員が経営陣の中にいたりして、アニメというものを自局の主要ビジネスとして早い時期から打ち出していました。それが今しっかりと当たっている。他局はその成功モデルを見て、「アニメというのは放送局と親和性が高くて、ビジネスとして伸び代が大きい」ということに気づいて、現在力を入れている……という状況に思います。


──テレビ東京以外のテレビ局の動きはどうでしょうか?


 TBSなどはさほど事業として大きく取り組んでいる感じはありませんが、他に目立つテレビ局といえば日本テレビですね。本体でやっているアニメ事業もありますし、タツノコプロやマッドハウスといったスタジオも子会社として抱えています。細田守監督作品をマネジメントするスタジオ地図LLPにも出資しているし、アニメ事業には熱心なテレビ局です。


──日本テレビに関しては、直近では『葬送のフリーレン』や『薬屋のひとりごと』といったヒット作もありました。


 『フリーレン』と『薬屋』は大きかったと思います。『フリーレン』に関しては最初からちゃんとヒットを狙って放った作品がしっかり大ヒットしたという例ですね。『薬屋』は思っていた以上に伸びた作品だろうと思います。この2作は、前年の収益に関していえば大きな存在だったはずです。


──ヒット作ということであれば、『鬼滅の刃』といった作品もありました。


 『鬼滅』はもともと集英社とアニプレックスとufotableでやっていた作品ですが、放送に関しては今はフジテレビががっつり噛んでいますね。フジテレビにとっても大きなプロジェクトになっていますが、あれだけの大ヒット作なので損をしたということはないと思います。


■配信ビジネスとの相性の関係も

──しかし、どうしてアニメ事業が民放各局の収益で存在感を持つようになったのでしょうか?


 まず、単純にアニメ作品の需要が増しているからだと思います。国内外でアニメに対する需要が大きくなっているから、当然売り上げも増える。昔に比べればアニメを見ること自体がずっと一般化しているから、それによる市場の拡大もあります。映画でもヒット作の多くがアニメですが、これはもう「子供の見るもの」というイメージがなくなっていて、特撮も洋画もアニメも全て横並びになっていることを示しています。「アニメである」ということに対して、特別な違いや意味があると誰も感じていないのではないでしょうか。あとは配信ビジネスとテレビ局の蓄積してきたノウハウの相性がいいという事情もあります。


──それはどういうことでしょうか?


 そもそも、アニメ作品の海外販売・配信権というのはかなり魅力的なもので、製作委員会の中でも取り合いになるような強力な権利です。ビデオソフトメーカーやなかにはスタジオ自身が配信権を持って作品を販売することもあります。


  ただ、日本のテレビ局というのは以前から番組を輸出する事業を行なっているので、海外への販売ネットワークやノウハウを蓄積しているんです。これは他のアニメ業界の企業に比べると圧倒的に強い部分です。実際に出資を増やしたことでテレビ局が海外番販を獲得している作品が増えていて、それを海外で売ることで利益が出ている。アニメスタジオが自分たちで権利をとって海外で番組を売るぞ、ということになっても、ちゃんと売ることが難しいんです。海外で売るための明確な窓口を持っているというのは、テレビ局の強みですね。


──なるほど……。ネット配信が主流になっている現在では、そのノウハウがあるというのは非常に重要ですね。


 ただ、現在の日本のテレビ局がアニメ頼みになっているかというと、そうでもないと思います。テレビ東京は例外ですが、他局に関していえば売り上げの中での存在感はまだそこまでではありません。ただ、今後の成長という部分ではアニメは見逃せないものになっていることも間違いありません。発表されている事業計画を見ると、各局とも主要戦略の中に「アニメ」という言葉が入っている。おそらく、放送収入が落ち込んでいる中で、大きく伸びる余地がアニメや配信しかないんだと思います。先ほどお話ししたように、世界で配信権が買われているというのもパッケージメーカーや放送局が力を入れた結果出た成果ですし、アニメに対する民放各局の期待感は大きいのではないでしょうか。


──今すでにアニメ頼みになっているというよりは、今後より大きな存在になっていく可能性が高いということですね。


 この状況はしばらく続くと思いますが、さらにもっともっと拡大していくかというと、そうとも限らないはずです。あらゆるメディア企業が「アニメです、海外進出です」と言っているので、そう言った企業間の競争が高まっているのが現在です。市場は拡大すると思いますが、その反面で勝てた事例とイマイチうまくいかなかった事例に大きく分かれるはず。みんながみんなハッピーということにはならない気がします。


──厳しいですね……!


 でも、成長産業ってだいたいそういうものですよね。大きく成長するときにワッと新規参入が集まって、成長が鈍化すればどんどん振り落とされて寡占化が強まっていく。この世の多くの産業の成長過程と同じようなことが、今後アニメ産業にも起こっていくと思います。


このニュースに関するつぶやき

  • 世界市場を当てにしたアニメなど、劇的にアニメががつまらなくなる未来しか見えないのだがw外国に擦り寄って今までに一度でも良かった例があるのか?
    • イイネ!9
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