1本1500円は当たり前!? 物価高でも高価格シャンプーが売れ続けるワケ

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2024年09月30日 15:11  ITmedia ビジネスオンライン

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ドラッグストアのシャンプー売り場で、高価格商品が拡大中(提供:ゲッティイメージズ)

 ドラッグストアのシャンプー売り場で、ある変化が起きている。これまでは花王やP&Gジャパン、ユニリーバ・ジャパンといった大手メーカーの商品が大多数を占め、価格も1000円以下が一般的だった。しかし、2015年頃から新興企業が手掛ける1500円前後のシャンプーが目立つように。それまでのシャンプーになかった高い機能性や使い心地の良さから、じわじわと人気が拡大している。


【画像】人気の高価格シャンプー(全15枚)


 インテージの調査によると、2023年のシャンプー1リットル当たりの平均購入金額(性年代別)は、すべての性年代で上昇。中でも、15〜29歳の女性が最も高い1964円で、2017年(1387円)の約1.4倍となった。同社市場アナリストの木地利光氏は「セルフケア需要の拡大により、肌や髪への刺激を抑えたオーガニックシャンプーのような高付加価値・高価格シャンプーの人気が高まっています」と分析する。


●高価格シャンプーの火付け役「BOTANIST」


 高価格シャンプー人気の火付け役となったのが「BOTANIST(以下、ボタニスト)」だ。化粧品や美容家電の企画開発、販売などを手掛けるI-ne(アイエヌイー、大阪市)が2015年に発売した。


 I-neの大菅研登氏(ビューティーケア事業本部 本部長/ブランドプロモーション部 部長)によると、ボタニストの開発に着手したのは2014年春頃だという。当時のシャンプーは、大手メーカーが展開する1000円以下の商品か、美容室でプロが使う数千円以上の商品が主流で、1000〜1500円の商品があまり存在しなかった。「高品質なシャンプーを1000〜1500円の価格帯で出せば、勝機があるのではと考えました」(大菅氏)


 ボタニストの中身には植物由来成分を配合し、美容室で使われるシャンプーのような洗い心地を再現。パッケージは、市販シャンプーで定番化していた華美なデザインではなく、透明のボトルに白黒ラベルというシンプルなデザインを採用した。


●「こんな高いシャンプーが売れるはずない」


 商品は完成したものの、新興企業の実績のないシャンプーを置いてくれるドラッグストアはない。大菅氏によると「こんな高いシャンプーがドラッグストアで売れるはずがない」と言われたこともあったという。そのため、まずは販売チャネルをECに限定し、実績をつくるところから始めた。


 ECでの販売と並行し、当時はまだ新しかったInstagramでのプロモーションを実施。また、会社が持っていたインフルエンサーとの人脈を通じて、メイクアップアーティストや人気美容師にボタニストを配布するなど、地道なPR活動も続けた。その結果、Instagramを通じて徐々に口コミが広がり、ECの売れ行きは好調に推移した。


 ECでの販売実績を作ったボタニストは、ドラッグストアへと販路を拡大。実店舗での売れ行きは大菅氏が「予想以上だった」と驚くほどで、在庫が追い付かず数カ月入荷待ちとなることも。発売からの累計販売個数は1.7億本(2023年12月時点)を突破した。


●続々参入する新興企業


 ボタニストの大ヒットを受けて、高価格シャンプー市場には、新興企業が次々と参入することになる。中でもヴィークレア(東京都港区)の「アンドハニー」、ステラシード(東京都港区)の「エイトザタラソ」が好調だ。


 ボタニストを手掛けるI-neも、2021年に新ブランド「YOLU(ヨル)」を投入。累計販売個数は5000万本(2024年5月時点)を突破し、ボタニストに匹敵する人気ブランドに成長させている。


●花王、新ブランド「melt」で猛追


 こうした新興企業に対し、大手メーカーも反撃の動きを見せている。中でも花王が2024年2月に立ち上げた新ブランド「melt(以下、メルト)」は、発売から約1カ月の出荷本数が計画比の9倍という大ヒットを記録。開発担当の野原聡氏(同社ヘルス&ビューティーケア事業部門 ヘアケア第1事業部 ブランドマネジャー)は、「弊社においてこれだけのヒットは近年では珍しい」と話す。


 メルトは「休みながら美しく“休息美容”」がブランドコンセプトだ。これまで同社が展開してきたシャンプーは機能性やスペックでブランドをポジショニングしてきたが、メルトは感情を軸にブランドを設計した。「先行ブランドに追い付くべく、とにかく早く市場に出したかったので、部門ごとのリレー形式ではなく、マーケティング、研究などの各担当者がチームとなって開発しました」(野原氏)。商品は5カ月ほどで完成させたという。


 メルトは商品ラインアップの豊富さが強みの1つだ。定番のシャンプーとトリートメントだけでなく、髪用の化粧水やヘッドスパから着想した生炭酸シャンプーなどさまざまなアイテムをそろえる。ブランドのポジショニングでは情緒的な部分を重視する一方、商品の機能性にもこだわり、同社が長年の研究開発で培ったノウハウを生かしている。


 ドラッグストアに設置する販促物にも力を入れている。「商品が棚のどこに置かれるかは店舗次第です。そのため数カ月に1回、店舗ごとの販売実績を振り返り、販促物の見直しを行っています。メルトは発売からまだ7カ月ほどですが、販促物の修正はすでに4回行っています」(野原氏)。通常の販促物より修正の頻度が高いそうだ。


●物価高でも高いシャンプーが売れるワケ


 大手メーカーや新興企業が次々とブランドを打ち出し、拡大を続ける高価格の市販シャンプー市場。美容系総合ポータルサイト「@cosme」を運営するアイスタイル(東京都港区)のリサーチプランナーは、拡大の要因にコロナ禍があると指摘する。


 「コロナ禍のマスク生活では、思うようにメークができない日々が長く続きました。こうした中で新しい自己投資の対象として、ヘアケアが台頭したのです。入浴の一工程だったシャンプーの時間が、リフレッシュしたり自分自身をケアしたりする時間に変わりました」(アイスタイル リサーチプランナー)


 シャンプーに対する認識が変わったことで、消費者の選び方も変化した。スキンケアのように、自分の髪質に合うもの、ダメージケアやうねりケアなど悩みを改善してくれるものを求めるようになっているのだ。かつては日用品だったシャンプーが、メークやスキンケアアイテムと同じ扱い=化粧品化しているといえる。


 シャンプーの化粧品化は、長引く物価高で家計が厳しい中でも、高価格商品が売れ続ける要因にもなっている。化粧品を選ぶ際、効果や使い心地などさまざまな観点から「購入=投資すべき」と判断すれば、たとえ高価格であっても購入する傾向がある。こうした消費者の意向が、化粧品化したシャンプー選びにも反映されているのだ。


●激化する高価格シャンプー市場


 高価格の市販シャンプー市場での競争は、今後ますます激化していくだろう。I-neはボタニストの強化を図り、頭皮ケアに特化したシリーズや、エイジングケアに特化したシリーズに注力している。3月には、ヘアカラーをしている人をターゲットにした新ブランドも立ち上げた。花王は今秋から来年にかけ、第2弾、第3弾の新ブランドを投入する。メルトの商品ラインアップも拡充する予定だ。


 メーカーだけでなく、「&be(アンドビー)」や「Wonjungyo(ウォンジョンヨ)」など、人気メイクアップアーティストが手掛ける化粧品ブランドからも高価格シャンプーが登場している。プレイヤーが続々と増える中、高価格シャンプー市場で生き残りをかけた各社の取り組みが続く。



このニュースに関するつぶやき

  • 調査不足じゃない?高いシャンプーが売れ出した1番の理由は安全性を求めるからやろう。なぜそれを書かない。
    • イイネ!12
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