◆ 阿部監督とは対照的に…
6日の中日対DeNAの試合をもって、今季のセ・リーグ公式戦は全日程が終了した。12日(土)からクライマックスシリーズ(CS)ファーストステージ(阪神対DeNA)、16日(水)からはCSファイナルでその勝者がセ・リーグ覇者の巨人に挑むことになる。
日本シリーズの直前にはドラフト会議も控えており、多くのチームがすでに来季に向けた体制を固めつつある。
そんな中、CSに駒を進める6球団の中で唯一、指揮官の交代が明らかになっているのが阪神だ。球団はすでに岡田彰布監督の今季限りでの退任、そして来季のフロント入りを発表している。後任の有力候補にはOBの藤川球児氏(球団本部付スペシャルアシスタント=SA)の名前が挙がっており、すでに次期監督の打診を内諾しているという報道も出ている。
藤川氏といえば、「火の玉ストレート」を代名詞に大活躍。救援投手としての才能を見いだしたのが他でもない岡田監督だった。
2020年限りでユニホームを脱いだ後は、解説者・評論家という肩書以外に『藤川球児の真向勝負』というチャンネル名でYouTuberとしても精力的に活動してきた。時に的確すぎる解説を披露し、“頭脳派”として多くのファンをうならせることもあった。
また、SAとしてキャンプの視察の他、新外国人の調査にあたるなど、フロントの一人としてチームに関わってきた。自身も現役時代にメジャーリーグに挑戦した過去があるだけに、そのパイプを生かして“優良外国人”の発掘にも期待が懸かる。
今季最後まで優勝を争ったライバルの巨人は1年目・阿部慎之助監督の下、4年ぶりの美酒を味わっており、「来季は阪神の番だ」と意気込む虎ファンも少なくないだろう。
ただ、阿部監督と藤川氏の間には決定的な違いが存在する。それが現役引退後の過ごし方である。
藤川氏は先述した通り、フロントの要職に就きつつも、一歩引いた立場から球界全体、そして古巣を見てきた。広い意味で“背広組”だったわけだ。
一方、19年限りで現役を退いた巨人の阿部監督は、20年に二軍監督に就任すると、その後も一軍作戦コーチ、一軍作戦兼ディフェンスチーフコーチ、一軍ヘッド兼バッテリーコーチと肩書を変えながら原辰徳前監督の下で帝王学を学んできた。
先日の優勝インタビューでも原前監督の名前を挙げて感謝を伝えていたが、コーチとして仕えた4年の間に学ぶことは多かったはず。原イズムを継承しつつ、トレードなどでは独自色も打ち出し、開幕前には新外国人のオドーアを二軍に送る厳しい決断も下したのも阿部監督だった(のちに退団)。
そんな阿部監督とは対照的に引退後はユニホームに袖を通すことがなかった藤川氏。少なくとも1年間は岡田監督の下で帝王学を受ける機会があっても良かったと思うが……。果たして阪神の賭けは吉と出るか。
文=八木遊(やぎ・ゆう)