限定公開( 6 )
「ゆるキャラ大国」と言われる日本でファンを急増させている『ちいかわ』。ナガノ氏がX(旧Twitter)にて2020年から連載している作品で、ちいかわ(なんか小さくてかわいいやつ)をはじめとした可愛らしいキャラクターが過ごす穏やかな日常を描いている。
かと思いきや、突如としてシリアスな展開、不可解な謎が残る伏線的な描写などを入れ込み、深い考察や議論が交わされるような展開で読者を魅了する。
そんな本作で重要な要素となっているものが、実はもうひとつある。それは、ちいかわ世界の住人の糧となっている“食”だ。
『ちいかわ』がただキュートなだけではないのと同じように、普遍的なジャンルでも時にマニアックに。ナガノワールドで描かれる“食”にもまた、思わず通が唸ってしまうような描写が見て取れる。
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■食欲が刺激される、くりまんじゅうのつまみ
実際に『ちいかわ』で描かれた“食”の例を挙げてみよう。作中ではくりまんじゅう先輩という、缶ビールとつまみを片手に晩酌しているキャラクターが登場する。2024年7月29日に投稿されたマンガでは、労働の後にビールとじゃがバターマヨネーズがけ――それも祭りの屋台で売っているようなプラスチックの容器入り――を持ち、ぐいっと杯を傾け「ッッハ〜〜…」と美味しさを噛みしめる姿が描かれている。
「噛みしめてる…幸せ…」
幸せそうな姿たるや、彼を見たハチワレが思わず感嘆としながら呟くほど。くりまんじゅうは労働後の一杯とつまみを至高の幸せと感じていて、毎回お供にするつまみが酒好きの心をくすぐってやまないチョイスなのだ。
2023年1月16日の投稿では「味染み玉こんにゃくの木」なる木が登場し、そこで収穫した玉こんにゃくを串に刺し、からしをつけすぎたことで悶絶する彼の姿も描かれた。
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■垣間見える「家系ラーメン」への強いコダワリ
また、ちいかわ世界では人間界と同じようにさまざまな店が登場する。中でも「ラーメン”郎”」のエピソードは印象的だ。
コラボカフェでも実際に作中のラーメンをイメージしたものが提供されるなど読者人気も高い一品だが、ここにも作者の食へのこだわりが垣間見える。「郎」は「ラーメン二郎」がモデルとなっていると推測されるが、作中でも「かため濃いめ」という、家系ラーメン特有の注文方法を忠実に描写していた。
また、モモンガと古本屋が連れ立ったラーメン屋「山」では内装が赤いことやその店名からファンの間で「ナガノ先生が好きな山岡家がモチーフでは?」と予想合戦が白熱。細かな部分まで描き分けた作者の家系ラーメンへの愛情が感じられるエピソードだ。
■ただのグルメ漫画で終わらないナガノ氏のセンス
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他にも「巨・〇〇」(巨大なウインナーやシュークリーム)をほおばったり、前触れもなく現れた湖の女神から「黄色っぽい干し芋と黄土色っぽい干し芋、どっちがいい?」と聞かれたり……エキセントリックでどこか恐怖すら覚える絶妙な世界観に、和洋中分け隔てなく幅広いジャンルにわたって登場する食べものたち。そのほとんどが庶民的で、食べ方やつけあわせにコアな要素を付随させるバランスがまさに職人技ともいえる。
“食”に対する並々ならぬこだわりは、作者が長年食べ歩きを趣味にしていたり、食レポマンガを描いているからこそ磨き上げられたセンスにほかならない。『ちいかわ』以外の作品『MOGUMOGU食べ歩きくま』や『くまのむちゃうま日記』などで見られる“食”の描写にも注目してほしい。
ただのグルメ漫画で終わらないナガノ氏の漫画。本作が人気たる理由は、作者の中に蓄積された知識や経験がオリジナリティを確立させるセンスとなって作用しているところにあるからなのではないかと感じている。
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