“エントロピー増大”を永遠に回避できる? 量子系が示す新たな数学的証明、米コロラド大学が報告

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2024年10月15日 08:21  ITmedia NEWS

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「部屋が散らかる」のも自然現象の一つ

 米コロラド大学ボルダー校に所属する研究者らが発表した論文「Eigenstate Localization in a Many-Body Quantum System」は、自然が無秩序へと向かうエントロピー増大に抵抗できる量子状態が存在することを、新たな数学的証明で示した研究報告である。


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 物理学の基本法則の一つに、自然界のあらゆるものは時間とともに無秩序に向かうという原理がある。これはエントロピー増大として知られている。


 エントロピーの増大は、日常生活でも観察できる現象である。例えば、熱いコーヒーは時間とともに冷めていき、部屋は掃除をしないと徐々に散らかっていく。これらは、システムが自然に無秩序な状態へと移行していく例である。


 量子の世界では、通常の物理法則が予想外の振る舞いを見せることがある。1950年代に物理学者のフィリップ・アンダーソンは、特定の条件下で量子粒子が局在化し、熱化を回避できる可能性を提案した。この現象は「アンダーソン局在」として知られるようになった。


 アンダーソンの理論は当初、単一粒子系に関するものだったが、多粒子系でも同様の現象が起こりうるかどうかは長年の課題であった。この問いに対し、2016年に米バージニア大学のジョン・インブリーさんが重要な前進をもたらした。彼は、多数の相互作用する粒子からなるシステムでも局在化が起こりうることを数学的に証明したのである。この現象は「多体局在現象」(MBL)と呼ばれる。


 しかし、この証明には仮定が含まれており、これが議論の対象となっていた。研究チームはこの問題に新たな数学的アプローチで取り組んだ。


 研究者らはコンピュータサイエンスからインスピレーションを得た数学的手法を用い、無限に多くの相互作用する粒子が一列に並んでいる物理方程式を使う代わりに、グラフの数学的言語を採用。この手法では、局在化した量子状態を除去できないグラフのエラーとして表現した。この方法を用いて、特定の条件下で量子状態が永久に局在化したままでいられることを証明した。


 Source and Image Credits: Chao Yin, Rahul Nandkishore, and Andrew Lucas. Eigenstate Localization in a Many-Body Quantum System. Phys. Rev. Lett. 133, 137101 - Published 23 September 2024


 ※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2



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