限定公開( 22 )
昭和の名作漫画がSNSで注目されることが多いが、たびたびバズっているタイトルの一つが矢口高雄による釣り漫画の傑作『釣りキチ三平』だ。矢口がアナログ画材で描くリアルな魚や自然描写は、しばし“超絶技巧”と評価される。それでいて、三平君の動きはデフォルメが効いていて実に漫画らしい。こうしたリアルとデフォルメが混在する点も『釣りキチ三平』の魅力だ。
(参考:【画像】令和の時代に色褪せるどころか、輝きを増している『釣りキチ三平』イラストギャラリー)
矢口の高い画力に対しては、漫画家の間からも絶賛の声が上がる。おそらく、漫画家の間に熱狂的なファンをもつ漫画家という点では、矢口はトップクラスの存在かもしれない。そんな矢口と『釣りキチ三平』の魅力を堪能できるプレミアムな一冊が、2024年11月25日に発売された。『釣りキチ三平 大解剖』(三栄書房)である。
そもそも、『釣りキチ三平』は「週刊少年マガジン」および「月刊少年マガジン」で、1973年〜1983年の10年間にわたって長期連載された。単行本は65巻、別巻2巻を数え、当時の漫画では屈指の巻数を誇った作品である。その高い人気ゆえにアニメ化もされ、子どもたちの間に釣りブームを巻き起こしたとされる。
『釣りキチ三平大解剖』は、春夏秋冬、季節ごとに分類された美しい一枚絵を多数収録した「イラストギャラリー」から始まる。そして、三平三平、鮎川魚紳、三平一平といったメインキャラクターや、三平と釣りバトルを繰り広げたライバルやサブキャラ、さらには名場面も紹介されている。
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そして、最大の見どころが、原画で収録された最終章「釣りキチ同盟」編だろう。矢口の神業といわれる緻密なペンタッチ、描き込まれた背景などを間近で鑑賞できる、ファン垂涎の内容となっている。矢口の原画の美しさは、原画展を訪れた人が原画の前で時間を忘れて見入ってしまうほどであるが、その感動を自宅で楽しむことができる。
記者は秋田県の出身であるが、『釣りキチ三平』は秋田県の文化を全国に、そして世界に広めた最重要な漫画であると考えている。作中に描かれる四季折々の風景はもちろんだが、秋田弁で話す三平のキャラも当時の読者に強烈なインパクトを残したことだろう。本書は『釣りキチ三平』ファンはもちろんだが、秋田県内の公共図書館がぜひ1館に1冊買ってほしいほどの、永久保存版と呼ぶにふさわしい本である。
(山内貴範)
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