限定公開( 31 )
「インターネット通販で、痩せるサプリが通常価格9千円のところ、“初回お試し価格1千円”“定期縛りなし”と書かれていたので、1回限りのつもりで購入しました。ところが、到着後、納品書に“次回お届け日”が書かれていて、このときはじめて定期購入になっていることに気づきました。
すぐにサイト事業者に電話したところ“5回継続(総支払額3万7千円)で申し込まれており、解約する場合は違約金が発生する”と言われ……。契約内容をきちんとチェックせずに買ったことを悔やんでいます」(東京都・50代主婦)
“売り切れ間近”“今回限り”“本日〇時まで”……。ネット通販などで、このように購買意欲をあおり立てるフレーズを目にしたことがある人は多いだろう。いま、ウェブサイトやスマホアプリなどで、事業者側が有利なように消費者の気持ちを誘導して欺く、グレーゾーンのウェブデザイン「ダークパターン」が、大きな社会問題となっている。
消費生活全般に関する苦情や問い合わせの相談窓口である国民生活センターでも、ネット通販での“定期購入”に関するトラブルの相談件数が年々増加している。同センターのホームページでは、《“定期縛りなし”は“最低購入回数の指定がない契約”(“いつでも解約できる定期購入”)である可能性があり、契約時には注意が必要》と、警鐘を鳴らしている。
「ダークパターン」の具体的な手法とは、いったいどんなものか。
|
|
「OECD(経済協力開発機構)が分類するダークパターンの手法は大きく分けて7つ。たとえば、会員登録をしないとログインできない【強制】。“三冠達成”“業界No.1”など、自社の商品は人気がある、安心できると消費者に思わせる【社会的証明】。“在庫わずか”“いまだけ”とあおる【緊急性】。1回きりの購入と見せかけて、定期購入だと気づかせないようにして申し込ませる【こっそり】。契約は簡単なのに、解約は極めて難しく設定されている【妨害】など、あらゆる手法を組み合わせて、消費者を心理的に誘導していきます」
こう話すのは、消費者の正しい選択を後押しするための活動を行う「一般社団法人ダークパターン対策協会」代表理事の小川晋平さん。
もちろん、すべての通販事業者がダークパターンに該当するわけではないが、サイトが謳う宣伝文句が正しいことを消費者が確認するすべはない。そのため、グレーゾーンの手法がはびこっているのが現状であると小川さんは指摘する。
「金銭的被害がとくに多いのは、縦スクロールの長い商品説明ページの中で、消費者の気持ちを事業者側に有利に誘導するやり方です。
たとえば、【社会的証明】で、大げさな口コミや“いまこのサイトを○人が見ています”“いまこのページを見ているあなたはラッキー”といった表示がされる。そして、いまだけお試しキャンペーンで“毎月5千円の商品が980円で買える”。さらには“このキャンペーンはあと5時間で終了。このページは二度と表示されません”と【緊急性】をあおってきます」(小川さん、以下同)
|
|
“980円ならいいか”とお試しで買おうと最終確認画面に行くと、小さい字で書かれた規約の内容を確認しないまま「同意」し、クレジットカード情報を入れ「購入」をクリックする。
「ところが、その規約には“最低1年間の定期購入”や“解約手数料は5千円×〇カ月分”などと書かれている。極めて小さい文字でわかりにくく書かれていたため、よくチェックせずに同意し、購入してしまうというパターンが多いのです」
さらに、定期購入になっているのに気づいた後、解約をしようとするも、【妨害】によって解約ページにたどり着けない。やっとたどり着いてもコールセンターに連絡をしなければならず、電話をかけてもなかなかつながらない。ようやく解約できても、解約料が〇万円にも……。一度同意してしまっているから、と泣き寝入りする人が後を絶たないのだという。
「Webの同意を考えようプロジェクト」が実施した調査によると、日本のインターネット人口は推定で1億400万人。そのうち、「ダークパターンを経験したことがある」が全体の86.2%。そして、「意図しない契約・購入などで金銭的な被害を受けたことがある」が30.2%であった。
ダークパターンによる推定被害総額は、なんと年間1兆円以上にもなるという。通販で焦って買ったものの、期待したほどのものではなかったという経験がある人も少なくないだろう。
|
|
では、金銭的被害に遭わないためにはどうすべきか。小川さんに対策法を教えてもらった。
「まず【社会的証明】や【緊急性】を前面にあおってきている縦スクロールのウェブサイトは疑ってかかること。疑いの目をもち、購入しないという判断が最善でしょう。
それでもどうしても気になる場合は、購入前の最終確認画面で、定期購入になっていないか? 解約方法は? 解約手数料は? などの条件をしっかり確認することがとても大事です。
そして、最終確認画面は必ずスクリーンショットで保存する。トラブルになったときに備えて、証拠を残しておくためです」
被害に遭った場合は、すぐに国民生活センターや地域の消費生活センターに相談しよう。ダークパターン対策協会では、ウェブサイトを審査・認定し、基準を満たした誠実なサイトにロゴマークを付与する制度を7月から開始する。
「ロゴマークを見れば、安心してネット取引できるウェブサイトだとわかるという仕組みです。すでに大手企業各社などからも賛同をいただいております。これによって、誠実なウェブサイトが正しく消費者に認知されて、少しでも被害を減らすことに貢献できればと考えております」
おいしい話には必ず裏がある。その視点を忘れないことが大切だ。
動画・画像が表示されない場合はこちら
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 Kobunsha Co., Ltd. All Rights Reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。