
猫たちが鉄道ジオラマの上を我が物顔で闊歩したり遊んだり、ときにはレールの上を走る車輌模型に猫パンチをお見舞いして弾き飛ばしたりして、猫好きのお客さんが拍手喝采。その光景はSNSを通じて海外にまで知られ、コロナ禍が落ち着いてからはインバウンドも多く訪れるようになった大阪の新名所「ジオラマ食堂てつどうかん」が、4月5日に移転した。新しい店舗でも元気いっぱいの猫たちを取材してきた。
コロナ後はインバウンドも多く訪れる
レールの上を走る車輌を見つけると狩猟本能が刺激されるのか、狙いを定めて猫パンチ。見事に仕留めて脱線させたら、お客さんたちから歓声と拍手が起こる。そんな光景が何度もメディアに取り上げられて、連日予約で満席だという。
リニューアルオープン初日、正午のランチタイムまであと30分。店の前には、お客さんたちが行列をつくっている。店内では掃除の仕上げ、テーブルの配置と椅子の高さ調整、コーヒーメーカーの試運転と、オーナーの寺岡直樹さん以下スタッフ総出で準備に余念がない。
そんな人間スタッフの忙しさをよそに、接客を担う猫スタッフたちは普段通りリラックスしている。
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開店まであと20分となったとき、猫スタッフのうち1匹が天井裏に迷い込むハプニングがあったものの、なんとか無事に救出され、定刻通り開店にこぎつけた。
大阪を拠点に活動する歌手・三島由衣さんのライブもあり、爽やかで伸びのある歌声に猫スタッフたちも一時動きを止めて聞き入っていた。
新しい店舗は旧店舗から歩いて1分。もともとパン屋だった店舗が空いたため、物件のオーナーから「使いませんか?」と勧められたそうだ。旧店舗より表通りから近くなり人通りも多い。パン屋時代のショーウィンドウを活かし、鉄道ジオラマの上で遊んだり寛いだりしている猫たちの様子が外からよく見える。
新店舗の鉄道ジオラマは、爪研ぎをしても破損しにくい、猫たちがリラックスできる場所を確保するなど、猫のためのジオラマとして新しくつくられた。
この日訪れたお客さんからは「YouTubeを見て、前々から来たかったんですけど、なかなか予約が取れませんでした。今日やっと来られました」「猫ちゃんたちを見て、一生懸命生きているんだなと思ったら、感動して泣きそうになりました」などの感想が聞かれた。
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コロナ禍が落ち着いた今は、インバウンドのお客さんも多いという。この日はオランダ、フィンランド、スイス、中国から、カップルあるいは単独で訪れる姿が見られた。
コロナ禍で客足が途絶え倒産寸前のレストランを救ったのは4匹の母子猫
ジオラマ食堂はもともと鉄道ジオラマに囲まれて、車輌模型を走らせながら食事を楽しむレストランとして営業していた。ところが2020年のコロナ禍で客足が途絶え、店の売り上げはほぼゼロに。スタッフの給与も滞るようになり、倒産の危機に瀕していた。
「事実上、倒産していたかも」と、寺岡さんは当時を振り返る。
ある夜、寺岡さんは、店の前に迷い込んできた4匹の母子猫を発見した。どうせ客が来ないからと食べ物を与え、店内で保護した。
ケージの扉を開けたまま帰宅した翌朝、寺岡さんは店内の様子を見て驚愕する。大事なジオラマの上で子猫たちが遊んでいたのだ。
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「何してくれてんねん」
そのときはまだ、ジオラマのほうが大事だった寺岡さん。そんな子猫たちの様子を動画に撮ってSNSに投稿したところ、思わぬ反響があった。
「かわいい」「ジオラマと猫のミスマッチがいい」と、たちまち評判になった。と同時に、猫好きのお客さんが全国から訪れるようになった。おかげで売り上げはV字回復し、倒産を免れた。その後YouTubeチャンネルを開設し、昨年7月には天保山にある大阪文化館(旧サントリーミュージアム)に「天保山ジオラマ食堂」をオープンした。
「この店は猫に助けられたようなもの」
猫へ恩返しの気持ちを込め、寺岡さんは保護猫活動にも取り組んでいる。定期的に譲渡会を開いて、保護猫が幸せに暮らせる里親探しにも熱心だ。
最初に迷い込んできた母子のうち母猫は「さら」、子猫3匹の中で唯一のオスは「れお」、キジトラのメスは「なら」と「らいあ」と名付けられ、今も元気に暮らしている。
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)