所有者不明で手付かずとなっている輪島朝市近くの倒壊空き家=12日、石川県輪島市(一部画像を処理しています) 能登半島地震の被災地で、持ち主を特定できないために解体できない空き家に自治体が手を焼いている。こうした所有者不明の物件は把握されているだけで80件を超す。自治体は裁判所の許可の下で解体を行える新制度の活用を模索するが、その数はさらに増えるとみられ、多くの倒壊家屋が放置されたままになる懸念もある。
石川県輪島市の「朝市」にほど近い一角。更地が多くなる中、地震から1年4カ月以上が過ぎた今も、柱や屋根が崩れた1棟が手付かずで残る。持ち主とその息子は既に亡くなり、隣家の住人が「何とかしてほしい」と市に訴えてきた。
私有財産である家屋の解体には、原則、所有者本人の申請が必要だ。持ち主を特定できない場合、それに代わる管理人の選任を自治体などが裁判所に申し立てる「所有者不明建物管理制度」が2023年に導入された。災害での本格的活用は能登半島地震からで、市はこの制度を使って朝市近くの1棟を取り壊す予定だ。
ただ、所有者不明やその可能性がある倒壊した物件は少なくとも輪島市で47件、七尾市で35件に上る。自治体の調査が進むにつれ増えていくとみられるが、制度を活用して解体するには、登記や課税状況、現地調査などで所有者不明の根拠を示さなければならない。
現状では、能登半島6市町で申し立てを行ったのは七尾市9件、輪島市7件、珠洲市2件、穴水町1件にとどまり、解体完了まで進んだのは輪島市の1件のみだ。同市の担当者は「相続登記が何代もされていない物件の相続人を一人一人調べるのは負担が大きい」と明かす。
過疎化が進む能登地域の空き家率は、23年の総務省調査で輪島市が29.2%と、全国平均(13.8%)を大きく上回る。県行政書士会の小山内俊平副会長は「もともと空き家だった建物は、地震で崩れたからといって解体を申し出ようとはなかなか思わないのではないか」と指摘。所有者があえて放置しているケースも多いとみる。
公費解体を所管し、自治体に管理制度の活用を促している環境省の担当者は「復興を進めるには所有者不明の物件も解体していかなければならず、自治体による調査を支援していく」と話している。