「スーパー戦隊」終了の理由は? レッドだけが残った、少し切ない現実

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2025年11月26日 10:10  ITmedia ビジネスオンライン

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スーパー戦隊が終了、背景に何が?

 半世紀にわたって日本の子どもたちに勇気を与えてきた「スーパー戦隊シリーズ」(東映)が、ついに消える。現在放送中の『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』(テレビ朝日系)を最後に終了することが発表されたのだ。


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 実はこのゴジュウジャー、2025年9月に「文春報」を被弾して「戦隊内不倫」がすっぱ抜かれた。ゴジュウユニコーンなる女性戦士を演じていた19歳のグラビアアイドルが、主人公・コジュウウルフのスーツアクターと不倫関係にあることが報道された。さらに追い討ちをかけるように、未成年飲酒もしていた事実まで発覚したのである。


 そのため、当初は「不祥事が原因で打ち切り」との憶測も流れたが、報道で聞こえてくる原因は「疲弊する制作現場」と「業績低迷」のようだ。


 ビデオリサーチによれば、10月26日(関東地区)の同番組平均世帯視聴率は1.9%。日曜朝の時間帯でこれはかなり厳しい。「戦隊内不倫」報道では若手俳優たちの「朝から晩まで拘束されるわりには安いギャラ」も注目を集めたが、制作費も潤沢ではない中で、アクションの練習などもして「結果」がこれでは、演者もスタッフもモチベーションは下がってしまう。


 こうした人気低迷は、グッズの売り上げからもうかがえる。スーパー戦隊シリーズのおもちゃ・映像音楽などIPを展開しているバンダイ・ナムコホールディングスの決算資料を見ると、2025年3月通期の売り上げは64億円。仮面ライダーの307億円、ウルトラマンの140億円と大きく差をつけられてしまっている。


 つまり、50年続いた「スーパー戦隊」がその歴史に幕を閉じるのは、時間の問題だったといえる。ただ、個人的には今回のシリーズ終了は、会社で例えると「廃業」というよりも「リストラ」だと思っている。


 経営再建を目指す企業の人員整理と同じく、「スーパー戦隊」の中でほとんどのキャストが退く中で、わずかだが生き残っている者もいるからだ。それは「レッド」である。


●最もグッズが売れる「レッド」だけで勝負する


 ご存じのように、スーパー戦隊シリーズは主人公でリーダー的存在のレッドを中心に、ブルー、グリーン、イエロー、ピンク、さらに近年では白、黒、パープルなどさまざまなイメージカラーを持つ仲間たちがいる。


 そういう「5人が協力するチーム戦」こそが『秘密戦隊ゴレンジャー』から連綿と続くスーパー戦隊シリーズ最大の特徴であり、ビジネスモデル的な強さでもあった。例えば、おもちゃにしても5人分買わなくてはいけないし、それぞれの武器や搭乗するメカも集めなくてはいけないので、単体ヒーローものと比べて親の出費は単純計算で5倍になる。


 ただ、少子化で子どもの数も激減し、もはやそういう「チーム買い」の効果も薄れてしまった。そこで、最も子どもたちに人気があって、最もグッズが売れる「レッド」だけで勝負していこうと、残りのメンバーをリストラした――というのがスーパー戦隊シリーズ終了の「本当の狙い」ではないか。


 なぜ筆者がそう思うのかというと、スーパー戦隊シリーズに代わって、東映が新たに始める特撮シリーズの名が「PROJECT R.E.D.」だからだ。


「超次元英雄譚」の英訳【Records of Extraordinary Dimensions】の頭文字を取ってつけられたこの【PROJECT R.E.D.】は、その名の通り、“赤いヒーロー”が活躍する新たな特撮映像シリーズです。(東映のプレスリリース)


 そんな「赤いヒーロー」の第1弾として2026年から放映されるのは、『超宇宙刑事ギャバン インフィニティ』である。この響きを耳にして50代のおじさんたちのテンションは、爆上がりしただろう。


 ただ、これは1982年に放送され、海外ファンも多い『宇宙刑事ギャバン』とはまったく別モノだという。確かに、われわれがイメージするギャバンは「コンバットスーツ」という銀色に輝くメカニカルな外観だったが、東映の公式Webサイトに掲載されたビジュアルでは赤いスーツに身を包んでいる。


 つまり、これは過去の人気作品をリブートすることによって、ジリ貧だったスーパー戦隊シリーズの中から「赤いヒーロー」だけでもピックアップして再生していくという東映・バンダイ側のチャレンジと見ることもできるのではないか。


●「歴代レッド」のみで迎えられた「全スーパー戦隊展」


 「それってあなたの感想ですよね」というツッコミが寄せられそうだが、事実として、スーパー戦隊シリーズは業績不振に苦しみながらも、「レッド」だけでも生き残れないかという道を模索してきた。


 例えば、2025年8月に東京ドームシティプリズムホールで開催された「全スーパー戦隊展」だ。これは50年分のスーパー戦隊シリーズを一挙に紹介する展示だ。会場入口では、来場者と一緒に写真が撮れる「お出迎えグリーティング」が、ファンの要望で実現。しかし、そこで登場したのは「歴代レッド」だけだった。


 また、同時期に日本未発売の「NEW ERA(ニューエラ)」など、国内外の厳選したキャップを取り扱うコンセプトショップ「HOMEGAME」とコラボして、スーパー戦隊50周年記念Tシャツも発売されたのだが、そこでデザインされていたのも「チーム5人の姿」ではなくやはり「歴代レッド」だけである。


 さて、こういう話をすると、「いやいや、レッドは目立つし分かりやすいから、そういう“戦隊モノの顔”としてアピールされているだけでしょ」と思うかもしれないが、そんなことはない。


 「レッド」というのは主人公キャラだけではなく、色的にも「数字」を持っている。つまり、レッドのピン仕事が多いのは、ブルーやイエローと抱き合わせにしなくても、「キャラクタービジネス」としてちゃんと成立するからなのだ。


●歴代レッドのみが集合したイベント


 分かりやすいのは、東京タワーだ。ご存じのように、この施設のイメージカラーは「赤」ということで、2023年末から年明けにかけて、スーパー戦隊シリーズの「歴代レッド」だけが集合する無料撮影イベント「SUPERレッドデイズ」が開催された。


 また、同じく「赤」がチームカラーのサッカーJ1「浦和レッズ」でも2025年7月、アカレンジャーとゴジュウウルフ、さらに「We are Reds!」の文字が描かれたコラボTシャツなどが販売されている。


 なぜこんなにもレッドばかりがゴリ押しされるのか不思議だろうが、それは「お笑いトリオ」に当てはめると理解しやすい。


 例えば、リーダーだけが売れている3人組のお笑いトリオがあったとしよう。リーダーはバラエティーやドラマで引っ張りだこで、テレビCMにまで出演する人気者。一方、残りの2人はまったくお声がかからずにバイト三昧。3人そろっての仕事も今やほとんどない。そうなると、彼らのマネジメントをしている所属事務所としては、残酷なようだが「トリオ解散」をすすめて、リーダーをピン芸人として、もっとスターに育てようという考えになるのではないか。


 この「選択と集中」こそが「PROJECT R.E.D.」の狙いではないかと思っている。


 1975年に「ゴレンジャー」が始まったとき、年少人口(0〜14歳)は2700万人いた。それだけ子どもがいれば、アカレンジャーが好きな子も、キレンジャーが好きな子もいて、みんな小遣いから「推しメンバー」のカードやらおもちゃを購入した。


 しかし、時は流れ現在の年少人口は1400万人まで減った。東京都の人口に匹敵する子どもが減っている。つまり、それだけヒーローものの視聴者も、グッズ購入者も激減しているということだ。


 しかも子どもの遊びは多様化し、Nintendo SwitchやPlayStationなどのテレビゲームや、スマホにもお金を費やさないといけない。スーパー戦隊が好きな子どもでも、メンバー5人全員のグッズをコンプリートするのは負担が大きい。


 つまり、「スーパー戦隊」というビジネスモデルが成立しなくなったのは、この国の子どもが1400万人も減ったことも無関係ではないのだ。


●日本企業の現状とも重なるスーパー戦隊シリーズの終了


 今回、ビジネスモデルの転換に踏み切った背景には、「レッド」にはイベントでも企業コラボでも十分な人気がある、という事情がある。レッドをなくす必要はまったくないどころか、キャラクター性をさらに尖らせれば、ウルトラマンや仮面ライダーのように“単体ヒーロー”としての地位を確立できる可能性すらあるのだ。


 そうなると、新たなシリーズでやるべきことはひとつしかない。「レッド」の活躍や魅力を結果として薄めてしまっていたブルー、グリーンなど他メンバーには残念ながら「退場」していただくのである。


 「PROJECT R.E.D.」というのが、実はスーパー戦隊シリーズにおける「大規模リストラ」だと考えているのは、これが理由だ。


 さて、すさまじい人口減少によって、これまで先延ばしにしてきた「人員整理」や「効率化」を余儀なくされるスーパー戦隊シリーズの姿は、そのまま日本企業に重なるので、暗い気持ちになってしまったビジネスパーソンも多いだろう。


 そこで最後に、気分を変えて東映やバンダイが仕掛ける新たな「赤いヒーロー」がどのような形で企業コラボをして、社会の人気を獲得していくのか、筆者の独断と偏見で予想したい。


 まず、前例のある東京タワーとのコラボは高い確率であるだろう。ご存じの方も多いだろうが、実は東京タワーには「RED° TOKYO TOWER」というデジタルアミューズメントパークがあり、日本初のVRライドなどもある。来年放映される「ギャバン」も宇宙を舞台にしたSFもののようなので、コラボの相性は悪くない。


 次に考えられるのは、「赤」をブランドカラーとしたユニクロや日清食品など有名企業とのコラボだ。例えば、マクドナルドだ。「ハッピーセット」でスーパー戦隊シリーズを扱ってきたので、今回放送される『超宇宙刑事ギャバン インフィニティ』のおもちゃも扱われる可能性がある。


●人気ブランドとコラボの可能性も


 マクドナルドとバンダイナムコは「ガンダム」の人気キャラクター・シャアを用いて「シャア専用マクドナルド」という「赤」を押し出したコラボの実績がある。赤いマックフィズをシャアのイラストとともに「この赤、実にいい色だ」なんてコピーで宣伝したこともある。


 また、意外に思われるかもしれないが、人気ブランド「Supreme(シュプリーム)」とのコラボもあるかもしれない。バンダイは2021年に同ブランドとコラボした全身赤いガンダムのプラモデル「Supreme/MG 1/100 RX-78-2 GUNDAM Ver.3.0」を、シュプリームECサイトと直営店で販売した。


 「ギャバン」も50代に人気があり、自由に使えるお金を持っている。「赤いギャバン×シュプリーム」なんて限定フィギュアが仕掛けられるかもしれない。


 いろいろと予想してみたが、その中でも筆者が「一番ありそうなコラボ」だと思っているのは、東洋水産の「赤いきつね」とのコラボだ。


 同社のノンフライ麺「マルちゃんZUBAAAN!」は2025年9月、スーパー戦隊シリーズ最新作の『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』とタイアップして、購入したレシートで人気投票をするキャンペーンを実施した。その関係性から、次クールの「赤いヒーロー」とも何かしらのタッグを組むことがあるのではないか。


 韓国ドラマでは定番だが、劇中に商品を登場させる「プロダクトプレイスメント」という広告手法がある。潤沢な制作費のない特撮ヒーローは、この仕組みをうまく活用できないかと、昔インタビューした某有名プロデューサーもおっしゃっていた。


 『超宇宙刑事ギャバン インフィニティ』は刑事という設定なので、捜査や張り込みをするはずだ。刑事モノではそういうシーンでは、あんぱんを食べるのがお約束だが、ギャバンの場合は「赤いきつね」をすすったり、マックのハンバーガーを食べてみてはどうか。


 志半ばでリストラされてしまったブルー、グリーン、イエローなどメンバーたちのためにも、レッドはこれまで以上に貪欲に収益を上げて、子どもから大人までが楽しめる特撮エンタメを世に送り出していただきたい。


(窪田順生)



このニュースに関するつぶやき

  • いつの日かプリキュアやライダーも同じ道を歩むのだろうか。2つとも超少子化の中で大人が買い支えて維持されてるし、プリキュアだと人件費高騰で物販は増収でも減益だそうだし。
    • イイネ!6
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