限定公開( 2 )

2025年。実は今、プリキュアの売り上げが絶好調なのです。
少子化が進み子ども向け市場が縮小していく中で、2025年上半期のバンダイナムコHDのトイホビー売上は昨対153%、東映アニメーションの国内版権収入も昨対118%。映画は歴代3位の成績となりました。
数字だけを見れば、今のプリキュアは「ここ10年の中で最も勢いのある年」の一つといっても過言ではありません。
今回はこの2025年の「プリキュア好調の理由」を3つの観点から見ていきたいと思います。
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2025年11月6日、バンダイナムコHDの2025年6月期の中間決算短信が発表されました。
プリキュアの関連商品の売り上げである「トイホビー売り上げ」の上半期(4〜9月)は49億円。昨年同期の32億円と比較して153.1%となりました。
昨年比1.5倍の売り上げはちょっと信じられないレベルの好調な推移となっています。
コロナ禍の落ち込みから完全復活を遂げ、この好調を受け通期見込みも85億円から95億円へと上方修正されました。
また2025年10月29日には「東映アニメーション株式会社」の中間決算短信も発表されました。
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プリキュアの「国内版権売り上げ」は上半期(4〜9月)で4.07億。昨年上半期の3億4400万円から118.3%とこちらも好調な推移となっています。
決算短信では、プリキュアシリーズが「東映アニメーションの主力作品群」の一つと記載され、また「プリキュアシリーズのショップ事業が好調に稼働」「催事が好調に稼働」との記載もみられ、グッズ関連やイベント収益の好調さも伺えました。
さらに2025年9月12日に公開となった映画「映画キミとアイドルプリキュア♪お待たせ!キミに届けるキラッキライブ!」は興行収入11億5000万円を突破し、オールスターズ映画を含めたプリキュア映画全34作品の中で「歴代3位」の興行収入であることも決算短信で発表されました。
2025年上半期のプリキュアは「バンダイの関連商品」および「東映アニメーションの国内版権」、そして「映画の成績」と全てにおいて好調な推移となっているのです。
プリキュアのメインターゲットはもちろん「子ども」なのですが、その子どもの数は年々減少し続け、少子化は深刻さを増しています。
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特にコロナ禍以降は加速して少子化が進む傾向にあり、2024年度の出生数はついに70万人を割り込みました。
そんな少子化が進む中で、なぜ「プリキュア」はこれほどの好調となっているのでしょうか。
その背景には3つの要因が挙げられます。
1つ目は「ターゲット層の拡大戦略」、2つ目は「アニメ本編と商品プロモーションの一体化」、3つ目は「プリキュアブランドの拡張」です。
プリキュア好調の要因の一つに、今のプリキュアシリーズが「幅広い世代に対応していること」があると思われます。
まず「子ども層」については従来のターゲットの未就学児だけではなく、キッズコスメ「PrettyHolic」の展開などで、少し上の小学生女子も取り込むなど、幅広い子ども層への訴求が成功しているようです。
また、2023年の「プリキュア20周年」以降、プリキュアは「大人向け」の展開を公式に宣言し、従来の「子ども層」だけでは市場が縮小する中、大人層を積極的に取り込む戦略が本格化しました。
そしてそれらの戦略がこの2年間で確実に芽を出し、大きな売り上げへとつながっているのです。
現在放送中の「キミとアイドルプリキュア♪」は、シリーズとして初めて「アイドル」を前面に押し出しました。玩具はもちろん「推し活グッズ」も多数発売され、イベントやライブとの相性も良くファン層が広がり続けています。
メインターゲットである子どもたちはもちろん、かつてプリキュアを視聴していた10〜20代の女性層も巻き込む結果として売上全体を押し上げているようです。
事実、2025年10月に横浜で開催されたライブイベント「キミとアイドルプリキュアLIVE2025 You&I=We're IDOL PRECURE」は大人の観客の内、半数以上が女性を占めていて、それぞれ推しのグッズを身につけてライブに参戦し大きな盛り上がりをみせました。
もちろんメインターゲットは子どもたちなのですが、「アイドル×プリキュア」という新路線は、想定以上に市場の支持を得ているようです。
さらに、大人向けの市場「オトナプリキュア」関連もテレビ放送が終わった後も安定したグッズ展開、イベント展開によりプリキュアの大人向け市場を盛り上げました。
もう一つのポイントは、「アニメ本編と商品プロモーションの一体化」です。
近年のプリキュアは、テレビCMだけでなくアニメ内で商品を紹介することが増えてきています。
これは玩具のCMが流れない配信プラットフォームでも子どもたちに商品を認知させるためだと思われるのですが、今作はその点が非常に巧みなのです。
応援するシーンでは必ず玩具「キラキライト」を持っていたり、プリルンのムービー玩具を物語のキーにしたり、劇中の「ファンクラブの会員証」を実際に発売されている玩具で作ったりと、商品を作中で魅力的に使用します。
もちろん、そういった要素はこれまでのプリキュアでもあったのですが、同作はその量も多く見せ方も秀逸で、子どもたちはテレビCMを見なくても自然に関連商品が認知できる仕組みが構成されています。
そういった意味では「キミとアイドルプリキュア♪」はまさに「配信時代のプリキュア」となっているのです。
(個人的には、後半の決め技の歌「キミとシンガリボン」のときのキュアズキューンとキュアキッスが「右手にリボンバトン、左手にショータイムマイク」という「販促アイテム両手持ち」で歌って踊る、というのはなかなかすごいなと思いました)。
さらに、実際のライブイベントとの連動や、男子プリキュアの舞台作品「Dancing☆Starプリキュア The Stage」とのコラボレーションもアニメ本編で行われ、「アニメ」と「関連商品」と「イベント」がそれぞれ連動し、相乗効果で全体の売り上げにつながっているのです。
3つ目の要因としてあるのが、複数ラインによる「プリキュアブランドの拡張」です。
プリキュアの売り上げを構成するのは「現行作品」だけではありません。
現在放送中の「キミとアイドル!プリキュア♪」に加えて、キャラクターコンテンツ「ぷちきゅあ」や、大人層をターゲットにした「オトナプリキュア」のイベント、グッズ展開など、複数のラインが同時に稼働することにより売上を伸ばしています。
「ぷちきゅあ」はテレビ本編とは独立した世界観で展開されるキャラクターコンテンツとして、また「Yes!プリキュア5GoGo!」や「魔法つかいプリキュア!」の続編として制作された「オトナプリキュア」シリーズは、アニメ放送終了後もかつてのプリキュアファンに向けてグッズやイベントを展開し、これらがプリキュアブランド全体の底上げにつながっているのです。
またプレミアムバンダイでの「過去作の変身アイテムの大人豪華版」の発売、専門ショップ「プリキュアプリティストア」では毎月のようにグッズ類が発売され、食玩ではコレクター需要の高い「カードウエハース」など、大人も欲しくなるグッズ類が複数展開されるなど、多層的な商品展開も進行しています。
少子化が進む中「新規大人層」や「かつてのファン層」など複数の層を同時につかむことでブランド全体を太くし、売り上げの増加につなげているのです。
残念ながら、プリキュアといえども「子ども向け市場」は縮小している傾向にあります。
「プリキュアソーセージ」は販売されなくなりましたし、子ども向けの「かるた」や「トランプ」も市場から姿を消すこととなりました。また児童向け書籍『たのしい幼稚園』(講談社)は月刊誌だったのが2022年以降は年6回の発行へと縮小しています。
そんな中、プリキュアは「子ども向けコンテンツ」の枠にとどまらず、世代を超えて多くのファンが楽しむコンテンツへと変革しつつあります。
若い女性層の取り込み、本編と関連商品の高度な連動、そして複数ラインの同時展開という3つの施策が、少子化の中でもプリキュアの売り上げを大きくのばしているものと思われます。
ここ数年のプリキュアは、現行作の拡張と過去の資産を生かす「多層型のファン構造」を育て、ブランドを強化してきました。
「子ども向けアニメーション」を旗艦としながら「多層多様なファンが共存できる作品」へ変革し、この少子化時代を乗り越えていくことに成功しています。
大人向けへの路線変更ではなく、プラスオンでの拡大戦略。
この勢いはこの先も続いていくのではないでしょうか。
来期のプリキュアも楽しみですね。
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