限定公開( 1 )

少女漫画の推奨年齢とは――。Xに投稿された『いくつになっても少女漫画描いていいよね?』は、コミティアで出会った1冊の同人誌から思考をめぐらすエッセイ漫画である。
作者はデビュー27周年を迎えた、こきあいりんさん(@kokiairin)。多様化、細分化して変わりゆく少女漫画の時代に、彼女はなぜ本作を描いたのだろうか。(小池直也)
――Xに投稿した反響はいかがですか。
こきあいりん:「自分の描いてるものを“少女漫画”と名乗って良いのか悩んでいた」、「最近は漫画を読んでないけどやっぱり“少女漫画”が一番好きだ」といくつか感想をいただいて。多くの人のなかに“少女漫画”が残っているのだな、と嬉しかったです。
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――本作で言及されている女性を思い出したのは、きっかけなどがあったのでしょうか?
こきあいりん:この女性のことはイベントの直後からずっと気になってました。「漫画家になりたい」というだけでなく「漫画という夢の世界に生きたい」という彼女のエッセイ内のセリフが、漫画家を目指してた昔の自分とあまりに似ていて放っておけなかったのだと思います。
ただ当時はエッセイ漫画を描いていなかったので、この日のことをSNSでどう表現したら良いか悩んでいました。それから何年か経ち、今度は私自身も色々な事情で同人イベントに参加できない日々が続いて、ふと彼女のことを思い出しました。
それで彼女のことだけではなく、漫画を描いてイベントに参加したいと考えている人全員に向けてエッセイ漫画を描こうと決めたんです。
――少女漫画が減ってしまったことについても作中で触れていますが、それについての思いを改めて教えてください。
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こきあいりん:私にとって「少女漫画」は「大人への案内状」。年上の女性のファッションへの憧れ、大人としての立ち振る舞いと矜持。そして、異性への感情や心の機微とどのように付き合っていくのか。そんなものを紙雑誌からむさぼるように吸収しました。人生の大切なことは少女漫画から全て学んだといっても過言ではありません。
その頃の漫画の中でも少女漫画は特に感情表現が豊かで、文学的なものも多かったです。しかし漫画業界全体が豊かになったことで「少女漫画」は色んなジャンルに分かれていき、昔からのいわゆる「少女漫画」は少なくなりました。時代の変化もあると思いますが、少女漫画育ちとしては少し寂しいです。
――こきあいさんにとって「少女」とは?
こきあいりん:自分の内面に密かな嫌悪感を持ちながら、もっと美しくありたいと高い理想を追いかけている人。そういう意味では「少女」に年齢や性別は関係ありません。ついでにいうと、こういう自意識過剰な人が私は大好きです(笑)。
――キラキラと可愛い作画でしたが、これについてのこだわりはありますか。
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こきあいりん:エッセイはSNS発信がメインなので、漫画に特に興味がない一般の方にもさらっと読みやすい絵柄を心掛けています。今回は「少女漫画」がテーマだったので特に可愛いキャラクターを描こうと思いました。
ただエッセイゆえにどうしても自分自身も登場するので、可愛く描くのはためらう事も多いのですが……(笑)。
――エッセイ漫画と創作漫画で描く時の考えが違う、ということは? こきあいりんさん的にはどちらが性に合っているのでしょう?
こきあいりん:エッセイも創作も「他者に読んでもらう」ことが前提である以上考え方は変わりません。根本が創作漫画家なのでエッセイでも「事実を伝える」ことより「物語として面白く読んでもらいたい」と考えています。
そういう意味では自分の描いているエッセイ漫画は厳密には「エッセイ」と言うより「私小説」ならぬ「私漫画」かもしれません。また創作漫画についても、個人的には実体験や自分が感じた事から創作することが多いので、発想の仕方もエッセイと近い。
――なるほど。
こきあいりん:まずは自分が実体験で心に響いたことがあり、それを整理してエッセイに、さらに加工したら創作漫画に、と言う感じでしょうか。漫画とは関係ないですが、私は日記を書くことが好きで10歳から描き続けており、そのこともエッセイ漫画につながっているかもしれません。
どちらが性にあってるかはわかりませんが、30年間ずっと創作漫画しか描いてこなかったので、今エッセイ漫画を新鮮な気持ちで楽しく描いてます。また、漫画の表現方法としても新たな可能性を感じており、このキャリアで出会えてよかったです。
――デビュー27周年おめでとうございます。この仕事を長く続けていくための秘訣とは?
こきあいりん:商業でも同人でも「目の前の原稿にベストを尽くすこと」が一番大事。ただ、お仕事としては数字を出さないと続けられない、という側面はあります。私も実際何度もリストラにあってきました……。
それでも「自分のできることは全部やり切った」と思えたら次の作品へ向かう一歩が踏み出せるんですよ。そうやって自分で責任を取ってコツコツ描き続けていれば、その姿勢を見守ってお声をかけてくれる編集さんもいらっしゃる。
だから静かに見守ってくれる読者さんも必ずいるはず。すべてが数値化され結果もすぐ求められる世の中だからこそ、周りの評価に振り回されずとにかく描き続けることが大事だと思います。
――今後の展望や次回作などについても教えてください。
こきあいりん:しばらく充電期間を過ごしてましたが、来年2026年には同人活動を再開してコミティアに参加予定です。あと11月25日から『あなたの代わりに愛されます』の連載が始まりましたので、こちらも頑張りたいと思います。
(文・取材=小池直也)
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