限定公開( 25 )

現代のデジタル社会において、動画コンテンツの倍速視聴は日常的な光景となった。YouTubeやNetflix、オンライン講義など多くのプラットフォームで倍速視聴している。時間効率を重視する人にとって、これは魅力的な選択肢であるが、果たして倍速視聴は本当に効率的な学習方法なのだろうか。
米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究チームは、2021年と2023年に発表した一連の研究において、講義動画の再生速度が学習効果に与える影響を詳細に検証している。
21年の研究では、231人(18〜41歳、平均20.83歳)を対象に、講義動画を異なる速度(1倍、1.5倍、2倍、2.5倍)で視聴してもらい、直後と1週間後に理解度テストを実施した。
結果は、2倍速までは通常速度と比較して理解度に有意な差がなく、2.5倍速になって初めて明確な学習効果の低下が見られた。人間の通常の発話速度は毎分150語程度だが、2倍速では毎分300語を超える。理論的には認知的負荷が過剰になるはずだが、学習者たちは適応していた。
|
|
|
|
さらには、通常速度で1回視聴するのと、2倍速で2回視聴するのを比較したところ、同じ時間を費やすなら、2倍速で2回視聴し、特に2回目をテスト直前に行った場合の方が、学習効果が高いことが判明した。
しかし、この倍速視聴の恩恵を誰もが享受できるわけではない。23年の研究では、高齢者を対象に同様の実験を行い、年齢による違いを明らかにした。
研究では18〜25歳の若年成人(148人)と64〜94歳の高齢者(178人)を対象に、講義動画を0.75倍速、1倍速、2倍速のいずれかで視聴してもらい、その後の理解度テストの成績を比較した。
結果、若年成人は2倍速で動画でも通常速度で視聴した場合とほぼ同等の理解度を維持できたのに対し、高齢者では再生速度を上げるにつれて成績が顕著に低下した。むしろ、高齢者では0.75倍速のようなゆっくりとした速度の方が効果的であることを示した。これは加齢に伴う処理速度の低下や作業記憶容量の減少が影響していると考えられる。
別の実験でマインドワンダリング(心ここにあらずの状態)の観点からも知見が得られている。動画の再生速度を上げると、若年成人も高齢者もマインドワンダリングが減少することを確認。速い情報処理を要求されることで、かえって集中力が高まるという逆説的な効果だ。
|
|
|
|
Source: Murphy, D. H., Hoover, K. M., Agadzhanyan, K., Kuehn, J. C., & Castel, A. D.(2022). Learning in double time: The effect of lecture video speed on immediate and delayed comprehension. Applied Cognitive Psychology, 36(1), 69-82. https://doi.org/10.1002/acp.3899
Source: Murphy DH, Hoover KM, Castel AD. The effect of video playback speed on learning and mind-wandering in younger and older adults. Memory. 2023 Jul;31(6):802-817. doi: 10.1080/09658211.2023.2198326. Epub 2023 Apr 5. PMID: 37017554; PMCID: PMC10330257.
※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2
|
|
|
|
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。

動画の倍速視聴、本当に効率的?(写真:ITmedia NEWS)114

動画の倍速視聴、本当に効率的?(写真:ITmedia NEWS)114