限定公開( 19 )

「申し訳ないのですが、広報車は用意できていないんですよ。あまりにも注文が殺到したものですから、試乗車などに回すより、1台でもお客さまにお渡ししなければならない状況なんです」
そう申し訳なさそうに説明してくれたのは、スズキの広報担当者だ。
ジムニーノマドは、2026年1月末に一部仕様変更を実施し、停止していた受注を再開。そろそろ広報車の利用も落ち着き、ゆっくり借りられるのではないかと問い合わせたところ、上記の回答だった。
2025年後半、ブランド別販売台数ランキングでジムニーの順位が急浮上した。これには軽自動車のジムニーは含まれないので、ジムニーシエラと4ドアのノマドだけでたたき出した数字だ。しかし、これがノマド人気だけで支えられていると捉えるのは早計だ。
|
|
|
|
ジムニーシエラ自体、現行モデルがデビューした2018年以来、高い人気を維持し、ブランド別販売台数ランキングでも25位前後をキープしていた。だが2025年9月以降、登録台数を1.5倍程度も増やし、ランキングを10位ほど押し上げたのだ。
スズキは、ジムニーノマドのあまりの人気ぶりを受け、2025年7月から日本向けの生産台数を月産3300台に増やした。納車ペースを早めたことで登録台数が増加しているのである。
この調子なら、年間販売台数でもソリオを抜いてスズキの普通車でナンバーワンとなりそうな勢いである。それでも、ソリオは実用性や居住性の高さから、需要は手堅い。そして、ジムニーノマドも納車が進めば需要は落ち着いていくだろう。
しかしながら、ジムニーの人気が今後も続く可能性は高い。その背景には、ジムニーというモデルが刻んできた歴史の特殊性がある。
●ジムニーを生み出した、幻の軽自動車メーカー
|
|
|
|
他の国産クロスカントリーモデル(トヨタ・ランドクルーザー/三菱ジープ/日産サファリ)が米国の軍用車であったジープを模倣したものがルーツとなっているのに対し、ジムニーは、軽自動車ならではの小型軽量を生かし、独自に開発された。
そもそもジムニーはスズキが開発したのではなく、ホープ自動車という軽自動車メーカーが作り上げたものだ。高度成長期の日本では軽自動車メーカーが乱立。差別化を図るため、ホープ自動車はジープタイプの軽自動車「ホープスターON型4WD」を1967年に開発する。
これは単なる軽自動車規格の4WD車にとどまらない、本格的な悪路走破性を備えたクルマだった。だが、ホープ自動車には量産化する体力がなく、製造権を他社に売り渡すことになった。
このクルマに対して、他の自動車メーカーは興味を示さなかったが、スズキの前会長である故・鈴木修氏が、周囲の反対を押し切って製造権を買い取り、量産化を進めた。そして、1970年にジムニーを発売したのだ。
ジムニーは、現行モデルのスクエアなシルエットにゴツゴツしたディテール、丸いヘッドライトを組み合わせたスタイリングが、アウトドアブームの影響もあって大ヒット。2018年以来、バックオーダー(在庫がない商品の注文を受け付けること)を抱え続けるほどの高い人気を維持している。
|
|
|
|
それでもジムニーで本格的にオフロード走行を楽しんでいるのは、ユーザーの1割にも満たないだろう。キャンプなどのアウトドアで未舗装路を走るユーザーは多いだろうが、その程度の走破性なら生活四駆(一般的な乗用車の4WD仕様など)と呼ばれるクルマでも十分だ。
しかしジムニーは、いざとなれば険しい岩場や大きな傾斜も走破できるリアルオフローダーだ。これを乗り回すことで非日常的な満足感を得ているユーザーも多いのだ。
そのため、ジムニーシエラ/ノマドはアフターマーケット(カスタムやアクセサリーパーツなど、車両販売によって生じる二次的な市場)でも需要が高く、フロントグリルやホイール、外装のアクセサリーなども豊富に用意されている。
SUVやブランドのヒエラルキーにとらわれない、独特の世界観がジムニー人気を支えているのだ。
●シエラとノマド、ユーザー層の違いとは
スズキによると、ジムニーオーナーのうち、シエラとノマドは50歳前後が平均年齢層となるが、ノマドの方が若い傾向がある。シエラは50〜60代がボリュームゾーンなのに対し、ノマドは40〜50代が多いという。
また、シエラは男女比が6:4であるのに対し、ノマドは8割が男性オーナー。もちろんノマドを夫婦で共有するケースも多いであろうし、契約者は夫でもセカンドカーとして妻が使用するケースもありそうだ。
そして注目すべきは、シエラ、ノマドともに、軽のジムニーを含むスズキ車よりも、他社登録車から買い替える比率が非常に高いことだ。
また、ノマドに関しては、所有台数を増やすために購入するケースが多い傾向にある。セカンドカーとしても手頃であるということだろう。しかも、競合車種はほとんどなく、指名買いが圧倒的に多いという。
リタイアした熟年ユーザーが新たな趣味や日常を楽しむために、ちょっと個性的なクルマとしてシエラを購入するケースが多いようだ。
一方、ジムニーノマドは実用性や快適性を求めるユーザーが購入しており、子育て世代から熟年ユーザーまで幅広く支持されているようだ。
●4ドア化だけではない、入念な作り込み
そもそも、ジムニーの4ドア版という発想はいつからあったのだろうか。開発にはどれくらいの年月を要し、解決すべき問題は何だったのか。
「ジムニーノマドは、2020年頃から量産に向けた開発をスタートしました。開発には約4年かかりました。開発において苦労したのは、ジムニーシリーズ共通のコンセプト『本格的な悪路走破性を持つコンパクトクロカン4X4』を守りつつ、後席の高い乗降性、乗り心地、居住性の実現および室内、荷室拡大を両立できるホイールベースを決定することでした」(スズキの広報担当者)
2019年の東京モーターショーで、スズキはジムニーシエラをベースにボディ後半を荷台に改装したピックアップ仕様のコンセプトカーを発表し、かなりの反響があった。しかし、4ドア化とピックアップではシャーシの負担が大きく異なることから、ピックアップ仕様はあきらめ、4ドア化を進めることにしたのだろう。
ジムニー/ジムニーシエラでも4人乗車は可能だが、ドア開口部が限られることから後席は乗り降りしにくい。4人分の手荷物をラゲッジスペースに収めることも難しい。リアシートを畳んでラゲッジスペースとして使うことで実用性を確保する、実質的には2シーター車ともいえる。
ジムニーノマドは、単にシエラの後ろ半分を延長しただけでなく、フロントドアをやや短縮し、センターピラー(ドアを保持する柱)の位置を変更している。これにより、後席の使い勝手や快適性の向上を実現しているのだ。
また、4ドアとすることで後席の乗降性が向上するだけでなく、ドライバー1人だけで移動する際も使い勝手が良い。買い物などでちょっとした荷物がある場合、ラゲッジスペースに入れるほどではない荷物や、頻繁に手に取るものを後席に置けるため便利だ。
●国内生産の可能性はあるのか
ジムニーノマドは現在インドで生産し、日本に輸出している。現在の受注状況では、国内生産も検討する価値があるのではないだろうか。
「国内(湖西工場)ではジムニー、ジムニーシエラを生産しており、この2車種についても発売以降バックオーダーが続いていることから、海外工場でジムニーノマドを生産しています。将来的な生産計画などはお伝えできませんが、1台でも多くの車両をお客さまにお届けできるよう努めてまいります」(同)
現在、4年分ものバックオーダーを抱えているといわれるが、その中には転売目的で注文した業者や個人も少なくないと思われる。増産によって納期は2年程度に短縮されたと推測できるし、そうなれば転売目的の契約者からキャンセルが続出することもあり得る。
したがって、今後1年程度で納期は大幅に短縮されるのではないだろうか。そうなれば、中古車価格も落ち着き、正常な流通が期待できそうだ。
5ナンバーサイズで面白いクルマが少ない中、ジムニーノマドは手頃な価格で非日常を味わえるクルマとして人気だ。燃費を考えると厳しい部分もあるが、それを差し引いても「楽しいクルマに乗りたい」と思うユーザーが選んでいるのだろう。
ジムニーというブランドは、今後ますます強みを発揮していくとみられる。ユーザーが「クルマに何を求めるか」をキャッチできるメーカーやブランドが、これからも求められそうだ。
(高根英幸)
|
|
|
|
|
|
|
|
Copyright(C) 2026 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。