「完敗ですね」しゃぶ葉の担当者が語る 素人の“だし”が「5.3倍」も選ばれた理由

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2024年05月16日 06:41  ITmedia ビジネスオンライン

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しゃぶ葉の「だし」が話題に、なぜ?

 野球部、サッカー部、水泳部……帰宅部もあったような。学生時代にスポーツや音楽などの部活動にチカラを入れていた人も多いだろうが、「しゃぶしゃ部」をご存じだろうか。


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 「なんだよそれ。ひょっとして、しゃぶしゃぶを楽しむクラブなの?」などと思われたかもしれないが、100点満点で言えば「20点」といったところ。答えは、すかいらーくレストランツ(東京都武蔵野市)のしゃぶしゃぶ店「しゃぶ葉」が運営しているファンコミュニティーのことである。


 2023年6月、ロイヤル顧客プラットフォーム「coorum(コーラム)」を手掛けるAsobica(アソビカ)と組んで、「しゃぶしゃ部」を立ち上げる。コーラムの特徴は、コミュニティーの運営や顧客の嗜好(しこう)などを分析できること。今回のケースでいえば、オンライン上で「しゃぶ葉の担当者と部員がつながる場」を提供している。


 しゃぶ葉のスタッフと部員が新しいメニュー開発に取り組み、「博多豚骨だし」を完成。豚骨・鶏がらエキスに魚醤(しょう)を合わせただしを提供したところ、どのくらいの反響があったのか。商品選択率を見ると、過去のフェアと比較して「5.3倍」もの数字をたたき出したのだ。


 しゃぶしゃ部とはどのような組織なのか、どのような活動をしているのか、商品はどのようにして生まれたのか。その秘密を紹介する前に、しゃぶ葉に行ったことがない人もいると思うので、簡単にお店のことを紹介しよう。


 同店が誕生したのは、2007年のこと。しゃぶしゃぶ食べ放題の専門店として、全国に282店(2024年3月31日現在)を展開している。お肉だけでなく、野菜、カレー、めん類、スイーツなどが食べ放題になるコース(大人平日昼1539円〜、夜1979円〜。一部店舗によって違う)があって、このほかに薬味やタレなどもバイキングスタイルで楽しめるようにしている。


 ファミリー層や若い女性に人気の飲食店であるが、なぜオジさんが好みそうなダジャレをきかせた「しゃぶしゃ部」を立ち上げたのか。きっかけは、新型コロナの感染拡大である。ご存じのとおり、しゃぶしゃぶは1つの鍋を複数の人が食べるので「ひょっとしたら感染するかも」と不安を感じる人が増え、客数が減少した。


●入部にあたってハードルを設定


 そして、アフターコロナである。お客がどんなことを考えているのか、どんなメニューを期待しているのか。「コロナ禍前の顧客データは当てにならない」と感じていた店の担当者は、SNSなどを使って“生の声”に耳を傾けていたが、なんとなく「こんな感じかな」といったふんわりとした感覚にとどまっていた。


 新しいデータを集める方法はないか。お客から直接話を聞くことができれば、アンケートよりも解像度が高いのではないか。そんなことを考えて、しゃぶしゃ部をつくることにしたのだ。


 企業のコミュニティーサイトと聞くと「誰でも参加できるよね。さっきから何度も『しゃぶしゃ部』を目にするけれど、ちょっと大げさでしょ」と感じられたかもしれないが、入部するには高いハードルがある。「しゃぶしゃ部への志望理由、しゃぶ葉の好きなところ、コミュニティーへの期待、やってみたいこと」を書かなければいけないのだ。ゼロ回答であれば、不合格である。


 なぜ入部にあたって、このようなハードルを設けたのか。しゃぶ葉を担当する岡田智子さんに聞いたところ「お店に対して、熱量を感じられる人に集まってもらいたいと思っていました。同じ熱量がある人たちが集まれば楽しいことができるのではないかと考え、あえて課題を設けました」とのこと。


 結果、74人が合格。10〜60代の幅広い層が集まったわけだが、部員の熱量はどのくらいあるのか。メンバーの来店頻度を確認したところ、1人当たり年20回という結果に。コミュニティーがオープンして2カ月目に、サイトにログインした割合を見ると、80%に達した。この数字が高いのか低いのかよく分からなかったので、Asobicaの担当者に聞いたところ「平均の1.4倍ですね」とのこと。


 また、サイトにログインして、コミュニティー内で行動した人は50%。平均に比べて、こちらは1.9倍なので、入部に一定の条件を設けたことによって熱い人たちが集まったことは確かなようだ。


●過去のフェアと比べて5.3倍


 さて、晴れて合格したメンバーは、どのような活動をしているのか。商品開発である。新だし開発プロジェクトを立ち上げて、「食べてみたいなあ。他の店で食べておいしかったなあ」と感じた「だし」を募集したところ、82の案が集まった。コミュニティー内で投票したところ、「博多豚骨だし」は2位だった。


 「あれ、1位じゃないの?」と思われたかもしれないが、1位は「焦がしニンニク醤油だれ」。この結果を受けて、しゃぶ葉の本社で開発を進め、部員は試食会に参加。「ああでもない」「こうでもない」と改良を重ねて、両方の商品が誕生したのだ。


 ちなみに、焦がしニンニク醤油だれの特徴は、にんにくを細かく砕き、油でじっくり揚げていること。九州ラーメン「黒マー油」から発想したオリジナルのつけだれで、“味変用”に使っている人が多いようだ。


 話を冒頭の数字に戻そう。しゃぶ葉では5種類(期間によって違う)から鍋だしを選べるわけだが、博多豚骨だしは9月に提供した。同店は定期的にフェアを実施していて、期間内に「博多豚骨だし」を選んだ人は過去のフェアと比べて5.3倍だったのだ。


 この数字を聞いて気になったのは、これまでだしを開発してきた担当者のハートである。プロとして、考えに考え抜いて「このだしは絶対に人気が出る。たくさんの人が選んでくれるはずだ」と信じて商品化しているはずなのに、素人のアイデアから生まれたモノに大きく水をあけられたのだ。


 このことを岡田さんに尋ねたところ、ハッキリと「完敗ですね」と語った。敗因として、商品開発の担当者はとんがったモノを開発する傾向がある。「いまこの味がトレンドだから」「この味を出せばメディアが取り上げてくれるかも」といった切り口で企画が進むことが多いそうだ。しかし、部のメンバーは違う。「自分はこのだしを食べたい」という視点に立って、新たな商品が生まれた。


●5月に第二弾が登場


 新商品を開発するにあたって、多くの担当者は何度も何度も次の言葉を耳にしているに違いない。お客さまの目線に立って考えること――。


 しゃぶ葉のケースでいえば、今回は「素人のアイデア」に軍配があがったので、担当者はこの言葉の意味を重く感じているのかもしれない。お客さまの目線に立って考えること――。


 「推し活」という言葉が使われるようになってから、20年ほどの月日がたつ。自分にとってイチオシの人やキャラクターを、さまざまな形で応援する活動のことだが、企業にとってもファンの存在は欠かせないものとなっている。「推し」てもらうことによって、次はどんな商品が生まれるのか。


 ……と思っていたら、5月16日に第二弾が登場している。その名は「花藻塩のねぎ塩だし」(7月中旬まで)。部員も100人を超えていて、再び議論を重ねて新商品を開発したようだ。


 ちょっと気が早いが、結果はどうなるのか? しゃぶ葉の担当者は再び「完敗」という言葉を口にするかもしれないが、販売終了後にこのセリフだけは言いたいはずである。部員と一緒に「乾杯!」。


(土肥義則)


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  • どこの学校かと思ったらシャブ中じゃん。
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