「宇宙ゴミを除去する日本企業」華々しい宇宙開発に期待の一方、上場することの“危うさ”も

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2024年05月16日 09:21  日刊SPA!

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画像はXより
 中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。
 さて、宇宙ゴミ(スペースデブリ)を除去するという世界でも珍しい日本企業、アストロスケールホールディングスが、6月5日に新規上場します。衛星やロケットの残骸が稼働中の衛星などに衝突して事故を起こす、スペースデブリ問題を解決する救世主と見られています。

 映画や漫画の世界を体現するような画期的な会社ですが、上場することの危うさも見えてきます。

◆「市場そのものを創る」ビジネス構築

 2013年5月設立。創業者の岡田光信氏は1997年に当時の大蔵省主計局に入省した元官僚でした。2001年にMBAを取得して同年にコンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社しています。その後、通信会社の起業などを経て宇宙開発へと乗り出しました。

 創業当時、関係者の間でスペースデブリの除去に対する具体的なアクションはなく、岡田氏はまったくの白紙状態から事業を立ち上げました。市場そのものを創るという難易度の高いビジネス構築に取り組みます。

 2017年11月にデブリの観測衛星「IDEA OSG 1」の打ち上げを行うも失敗。しかし、2024年2月に商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」の軌道投入に成功しました。上場前にプロジェクトを成功させた意味は大きいでしょう。

 2020年にJAXAと連携してデブリの技術実装を開始。この年に受注をしています。アストロスケールは莫大な費用を投じて衛星やシステム開発を行っているため、先行投資で利益が出ていません。

◆90億円の損失を出すも手持ちの現金は170億円

 2023年4月期の売上高は前期の1.9倍となる17億9200万円でしたが、93億円もの損失を出しています。アストロスケールは投資家からの出資、金融機関からの借入のほか、政府からの補助金で活動資金の大部分を捻出しているのです。

 2023年4月末時点で170億円もの現金を保有しており、人件費などの必要な経費を迅速に支払えるよう、潤沢な手元資金を用意しているのがわかります。

 上場は資金調達を多様化すると同時に、これまで出資していたベンチャーキャピタルなどの出口(投資回収)という側面が強いものでしょう。

 アストロスケールは、上場後も資金調達に奔走する可能性が極めて高いということでもあります。

◆「開発が思うように進まなかった場合」に待ち受けているのは…

 収益認識方針にリスクを抱えているのも特徴的。

 宇宙開発はマイルストーン収入がメイン。技術開発段階に応じて設置された審査会の審査結果をもって支払われるケースが多く、ミッション完了まで複数回に分けて支払いを受けることになります。マイルストーン型は将来的に期待できる収益を四半期に分割して計上するという方法をとります。

 仮に何らかのミッションの契約締結が第1四半期に行われたとして、審査を経て実際に支払われるのが第4四半期だったとします。対価が10億円だったとすると、四半期ごとに2.5億円を収益として認識します。これは見かけ上のものです。

 ただ、開発が思うように進まずに契約条件を満たさなかった場合、収入の一部が支払われないことも当然起こりえます。そうなると、通期の業績予想はもちろん、四半期ごとに開示する数字そのものの信頼性が揺らぐことになるでしょう。

◆デブリの捕獲と除去までで得られる対価は「114億円」

 また、スペースデブリの除去という難易度の高いビジネスに対して、十分な対価が得られているのかという疑問もあります。

 アストロスケールは「ADRAS-J」においてJAXAと19億円の契約を結んでいました。次の大型プロジェクトとして、低軌道上の大型デブリに宇宙機を接近させ、捕獲、除去するというものがあります。契約金額は114億円。2028年4月期中に行うことを予定しています。

 前例がないことに加え、高い技術力が求められ、さらに長期間にわたって行われるプロジェクトですが、契約金額は決して大きいものではありません。

 一方、スペースXは衛星インターネット事業「スターリンク」が好調で、2024年度の売上高は2兆円を超えると言われています。

 スペースデブリの除去というビジネスは、宇宙開発という視点だと間違いなく意義が大きいでしょう。社会的な価値は計り知れません。しかし、上場は投資家との対話が必要。常に成長することが求められます。上場することで株主からの圧力にさらされ、中核事業に集中しづらくなる可能性があります。

 
◆「月面着陸失敗」前後で大きな明暗が…

 宇宙開発で記憶に新しいのが、月面輸送のispace。2023年4月12日に新規上場しました。公募価格254円に対して、初値は3倍の1000円。上々な滑り出しでした。しかし、上場直後の4月26日に実施した月面着陸ミッションに失敗します。

 株価はミッション開始前の4月19日に一時2373円の高値をつけましたが、失敗のニュースに売りが殺到。5月12日には一時793円の安値となりました。その後、騰落を繰り返したものの、現在も700円台で推移しています。

 月面着陸失敗の直接的な原因は、ソフトウェアの不調によるもの。推定高度と測定高度に乖離が生じ、猛スピードで月面に衝突したのでした。

 しかし、その後にフィナンシャル・タイムズが、ispaceの離職率が高いことや、エンジニアと経営陣に溝があってプロジェクトの見直しを言い出せない雰囲気があったなど、組織体制に問題があると報じました。

 上場日が4月12日で、ミッションを行ったのが4月26日。スケジュールを伸ばすという経営判断はしづらかったでしょう。離職率が高いと言われていた通り、ispaceは月面着陸船の開発から7年以上の時を経ても、従業員の平均継続年数が2.18年と長くありません。

 宇宙開発事業はエンジニアが無我夢中で開発に取り組めるような、経営者の求心力が必要です。経営陣は常にモチベーションの高い状態に保っていなければなりません。

 上場すると内部告発に対するダメージが非上場企業よりも格段に大きくなります。アストロスケールの平均継続年数は1.5年。全社共通の社員でエンジニアではありませんが、決して長いものではありません。

 一見華々しく見える宇宙開発ですが、上場にはマイナス要素も多く含んでいます。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界

このニュースに関するつぶやき

  • なんとなく蒼穹紅蓮隊を思い出してしまった・・しかしこれは誰に対して費用要求するんだろうね・・NASA とか JAXA とか?
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