20年以上も「昭和ぐらし」を貫く平山雄にインタビュー。なぜ続けるのか? その精神から学ぶ人生のヒント

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2024年05月16日 16:10  CINRA.NET

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Text by 鈴木渉
Text by 生田綾
Text by 廣田一馬

家具、電化製品、インテリア、車、ファッション——それらすべてを昭和で埋め尽くす「昭和ぐらし」を20年以上続ける平山雄さんが、著書『昭和ぐらしで令和を生きる』を4月26日に上梓した。

同書では平山さんの自宅の様子が包み隠さず公開されているほか、昭和を愛する友人のファッションや「昭和ルーム」が多くの写真とともに紹介されている。

今回の記事では、平山さんが実際に住む「昭和ハウス」を舞台にインタビューを実施。

昭和デザインの魅力や「昭和ぐらし」のリアル、平成以降に生まれた若者のなかでも「昭和レトロ」としてブームが起こった「昭和」という時代の魅力について話を聞いた。

ー平山さんは昭和に建てられた一戸建てを購入し、家中を昭和のアイテムで埋めつくす「昭和ぐらし」を約20年続けられていますが、いつから昭和が好きだったのでしょうか?

平山:もともと若い頃から1960〜1970年代のファッションが好きでした。僕は1968年生まれなのですが、昭和の時代からずっと昭和が好きです。

35歳くらいの頃、ずっと住んでいた都内を離れて家を買おうと思い、どうせ一戸建てに住むんだったら自分の趣味の集大成として、徹底した昭和の部屋づくりをしようと思いました。

1968年東京生まれ。昭和好きが高じて、昭和中期に建てられた一戸建てを2005年に購入。家具や電化製品から小物類まで、すべてのものを昭和時代製で揃え、完全に昭和の家庭を再現して暮らしている。休日は、昭和が体感できる飲食店や街並みなどを訪問し、ブログ「昭和スポット巡り」でレポートしている。

ー「昭和ぐらし」の楽しさを教えてください。また、定期的に部屋の模様替えをする人も多いですが、飽きがくることがないのでしょうか?

平山:朝起きてから寝るまで、日常の全部の時間をワクワクしていたいと思ったので、こういう部屋にしました。日常になっているので楽しさの説明は難しいですが……飽きるってことはまずないですね。

僕にとって昭和っていうのは、飽きるとか飽きないという次元ではなく、迷いは何もないです。自然といまの暮らしになって、これからもずっとそう、という感じです。

ー暮らしているなかで感じる不便さはありますか?

平山:よく聞かれるんですが、不便さはまったくないです。昭和から平成になる時に平成の流れに乗らなかったですし、令和になってもずっと昭和のスタイルです。

昭和時代には「昭和って不便だな」と思わなかったわけです。そのままの感覚で来ているので、不便と感じないというよりは「いまの便利さ」を知らないのかもしれないですね。

平山:古い電化製品や家具は、いまのものよりもつくりもしっかりしています。いまのものは丁寧に使っていてもすぐに壊れてしまうじゃないですか。昔のものは壊れたとしてもつくりが単純なので、大体すぐに直せるし、古いから不便という感覚がないですね。

逆にスマホのような現代の物のほうが使いにくくて不便です。携帯電話も本当は持ちたくないんですが、持っていないと人に迷惑がかかるような時代になってしまったので、仕方なく持っています。

ー平山さんが考える、昭和という時代や昭和デザインの魅力を教えてください。

平山:僕は昭和のなかでも主に昭和30〜40年代が好きなんです。当時は高度経済成長期で、海外のデザインが急速に取り込まれていった時代だと思います。それより前だと和の要素が強いですし、昭和後期になると完成されてしまってちょっと面白みがないんですよね。

高度経済成長期のものは、「アメリカの家具ってこんな感じだよね」とか「アメリカの車ってこうだよね」とか、海外の要素を取り入れて模索しながらデザインを考えていった時代だと思うんです。

当時の人は海外のイメージでつくっていると思うのですが、いまのように情報が完全ではないので、どうしても日本人の本来のセンスみたいなものが混ざっちゃう。海外の雰囲気でつくっているのに日本人っぽさがどこかにあって、その意図しない和洋折衷具合がすごく好きなんです。

平山:たとえば僕が住んでいる家は、玄関のドア周りのガラスは完全に洋風なのに、床には小石が敷き詰められています。その組み合わせがかっこいいと思ってそうしたというより、たんに洋風の新しいドアにしただけで、大工さんが持っていた感覚が自然と出てしまい、床までは気が回っていなかっただけだと思うんです。

それはその時代の日本にしかないもので、僕はそういう時代に愛着があります。でも、それもあえて理由を言うならばという話で、直感的に好きなだけなんですけどね。生まれた当時は、そんなふうに日本のものと海外のものが融合しているようなものが多かったんです。

ーデザインとしてもオリジナリティがありますよね。

平山:いまの時代のデザインは完成されていて、そこに人間味を感じないんですよ。昭和のデザインの不完全なところが僕にとっては完全で、そこに魅力を感じます。ちょうど日本のセンスから海外のセンスに移行していく過程でつくられたものが、自分にはハマるんです。

ナショナル製のフラワーペンダント。古さを感じさせないデザインだが、1970年代前半にヒットした製品だという。

ー服装も昭和のコーディネートにしていますが、好きになたきっかけはありますか?

平山:初めて昭和中期のものを自分で買ったのは、18歳の頃(編注:1980年代半ば、バブル景気の初期)ですね。街で売られている服のなかに着たいものがなかったので古着屋を物色して、この時代のものを買ったんです。理由は、見た目がかっこいいと思ったから。

ーインテリアもファッションも、直感で選ぶことが多いのでしょうか?

平山:そうですね。流行とかに左右されないし、人の目が気にならないタイプなんですよね。だから自分が好きなものを見て、感じて、取り入れていきました。

ーいま、タイムマシンに乗って昭和に戻れるとしたら、どこで何をしたいですか?

平山:やっぱり自分の生まれた昭和43年頃に行ってみたいですね。新宿生まれ新宿育ちなので、当時の新宿の駅の周辺や街並みを歩いてみたいなと思います。

生まれるちょっと前のギリギリ見られなかったものにも関心があります。僕が昭和43年生まれで、当時そこにあった風景は、ほとんど昭和30年代につくられた建物なんですよね。それが新築、新品だった頃に関心があります。

ー新宿や渋谷などはどんどん再開発などで姿が変わっていますが、どのようなことを感じていますか?

平山:渋谷に関しては、死ぬときの未練が一つなくなったと感じました。

学生時代は渋谷経由で通学していたんですが、最近渋谷に行ったらその頃の面影がほとんどなくなっていて……。新宿西口の立体駐車場も壊し始めていたのですが、自分の原風景としてあった場所なので、そういう場所がなくなっちゃうなら、死ぬときにこの世に未練ないな、みたいな気持ちになります。

ー変化する場所がある一方で、地域のレガシーや日本が持つオリジナリティーを残そうとする場所もあると思います。平山さんには、これまでの日本の良さを継承してほしいという思いがあるのでしょうか?

平山:そうですね。僕がよく使っている古いお店や街並みなど、時代の良さを少しでも多くの人に知ってほしいという気持ちはあります。

そのために活動しているわけではないですが、せっかくだったら自分が好きなものをみんなにもいいと思ってもらいたいです。かなり地道な活動ではあるんですが、「この時代のお店っていいよね」とか「この時代の建物っていいよね」と思う人が1人でも多くなれば残りやすくなるので、好きなものを発信していくのが自分の役目なのかなと思っています。

ー昭和を生きたことがない若い世代にも「昭和ブーム」が広がっていることについてはどんな思いを持っていますか?

平山:僕が20歳くらいまで昭和だったので、自分が持っている感覚は昭和に身についたものだと思うんですが、その時代をいまの若い人にいいと言ってもらえるのは自分を肯定してもらっているみたいで嬉しいですね。

「あの時代はダサいよね」みたいに生まれ育った時代を否定されるよりは、やっぱりいいじゃないですか。平成の中頃までは、「昭和ってダサいよね」っていう人が多くて。その頃は古いものは否定されても仕方ないと思っていました。でも、いま若い人から「昭和が好き」って聞くとやっぱり驚きますよね。

ー昭和世代と平成・令和世代では考え方や性格も変わってきていると思いますが、そのことについて考えていることはありますか?

平山:どんどんネットが発達した監視社会になって、世の中全体が萎縮してますよね。「何かやったらこう言われるんじゃないか」とか「なるべくおとなしく、はみ出さないようにしよう」みたいな風潮になっている気がしますね。昭和の時代はもっとのびのびと元気にやりたいことやっていたような気がするんですけど、一人一人の元気がない感じがしますね。

ー昔はなかった「ネットで晒されたらどうしよう」みたいな恐怖心も生まれましたよね。

平山:いまの若い人は大変じゃないかなと思いますね。僕は若い友達も多くて、その人たちは「そんなことない、むしろそんなことは言われたくない」と言う人も多いんですけど、どうしても僕からは大変そうだな、と思っちゃいますよね。もうちょっと好き放題に生きていい気がするような。

ー平山さんは自分の好きを貫いて「昭和ぐらし」をしていますよね。自分の好きなことや個性を外に出せない人に向けて、メッセージがあれば教えてください。

平山:他人がどう思っていたって、自分には影響ないですから、周りを気にしないでのびのびやってほしいなという気持ちはあります。そうするにはどうすればいいかと言われると精神論になってしまうので、説明するのはやめておきますけど……。

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