こだわりの葉巻とお酒で、落ち着いた大人の時間を堪能できる人気のシガーバーを紹介していく連載「Barで”最高の一服”を」。
今回は風情ある裏路地にさまざまな飲食店が軒を連ねる神楽坂にあるオーセンティックバー「Salon de Bar 喜えん」を訪れ、季節を彩るフルーツカクテルや葉巻を嗜んできた。
○■一日の仕事終わり、神楽坂で1杯引っ掛けたい!
美食の街として知られ、近年、若者やインバウンド客も多く訪れて賑わいを見せている神楽坂。夜には和洋中さまざまな店々の明かりが軒先に灯り、裏路地の石畳を照らして、かつての花街の名残りをとどめる趣と風情をたたえた街並みが立ち現れる。
夜な夜な大人たちが集まる「喜えん」は、そんな神楽坂の裏路地に隣するオーセンティックバーだ。創業は2002年。神楽坂駅から徒歩7分、飯田橋駅から徒歩5分という立地で、外堀通りから伸びる軽子坂に面した飲食店ビルの3階に店を構える。
随所に和モダンな意匠が施された店内は薄暗く、神楽坂らしい上品さと落ち着いた雰囲気が漂う。カウンターへアプローチする出入り口部分には踏み石を用いた石畳の敷かれた玄関ポーチのような空間が広がっていた。
カウンター席に着き、まずはジントニックを注文する。カウンターの棚にはたくさんの酒瓶が並んでいた。ウイスキーやワインなどの洋酒から、日本酒や焼酎といった和酒まで幅広く揃えているようで、ビール(1,000円〜)は常時3〜5種類。ウイスキー(800円〜)はシングルモルトを中心に100種を越えるボトルを用意しているそうで、全国各地の地酒やプレミアム焼酎なども充実しているようだ。
程なく出されたジントニックを軽く口に含み、一日の疲れやら、来し方の後悔やら、行く末に待つ生活上のアレコレの懸念やらと一緒に飲み下して、泡みたいにさっぱり弾け飛んだところで、紫煙がメキメキ恋しくなる。
昨今の値上がりの波は葉巻にも押し寄せているが、サイズと予算感の希望を伝えて初心者におすすめの1本をリクエスト。今回は1時間弱のショートタイムスモーキングに適したサイズの中から、キューバシガー最古のブランドと言われる「H.アップマン」のシガーを所望した。
聞くと、シガーならではの愉しみ方も丁寧にレクチャーしてくれた。さっそく火をつけてもらって、さっそく一服。ふぅー……ウマい。甘くスパイシーな味わいで、杉の木などに例えられるボタニカルなフレーバーや土っぽいアロマが特徴のシガーのようだ。
ジントニックの清澄な味わいとシガーの芳醇な風味のマッチングをしばし楽しみ、2杯目でのペアリングを相談すると、葉巻の強い風味に負けない味わいのラムとシェリーを提案してくれた。ラムの中でもこの日のおすすめはこちらの2つとのこと。
ボトルとラベルの印象で「キャプテン・モルガン」をロックでオーダーする。「キャプテン・モルガン」はアプリコットやバニラのフレーバーを配合し、バニラやシナモンを思わせる香り高い仕上がりのラム。振る舞われたものはスタンダード品より長期間熟成したプレミアム品で、ほんのりと上品な甘さが感じられて、40度というアルコール度数のわりに恐ろしく飲みやすい。
「飲みにくければ炭酸で割るので気軽に声をかけてください」とのことだったが、結局30分ほどでグラスをきれいに空けてしまった。
○■旬の果物を贅沢に使ったオリジナルカクテル
ラムのほかにもテキーラ、シェリー(1,200円〜)なども幅広く取り揃えている「喜えん」だが、カクテルの種類(1,000〜1,500円9も多種多様。スタンダードなカクテルから変わり種のオリジナルカクテルまで用意し、フレッシュフルーツカクテル(1,300〜1,500円)は定番人気の1杯となっているようだ。
苺、桃、スイカ、ザクロ、パッションフルーツ、ブドウなど季節折々で旬の果物を贅沢に使うという趣向のフルーツカクテルで、この日は最後に苺の果肉たっぷりのオリジナルカクテルをいただいた。
気軽に相談すれば、腕によりをかけたノンアルコールカクテルも提案してくれるので、アルコールが苦手な人もバーで過ごすひとときを共有しやすいだろう。
豊富なレパートリーから好みや気分など、要望に応じてとっておきの1杯をバーテンダーが提供するスタイルのため、同店にはメニュー表はない。気後れするかもしれないが、お会計は2時間弱でお酒3杯と葉巻1本を堪能して7,000円。内容や場所柄を考慮すれば、良心的な価格に感じた。
翌2時までの営業で2軒目としても使いやすい。ソファー席やカウンターの奥に格子戸の和モダンな個室もあるので、少人数のグループで談笑して寛ぎながら飲みたいときにもぴったりだ。
神楽坂の賑わいから少し離れた立地もあってか、全体的に大人っぽい落ち着いた雰囲気だが、一見さんもそれなりに多いようで、敷居の高さを感じさせないバーテンダーの気配り・心配りも嬉しい。客同士との談笑も弾み、一言でいえば居心地の良い、通いたくなるお店だった。
バーテンダーや常連客が醸すそんな空気感こそ、この店が同地で20年以上にわたって愛されてきた一番の理由かもしれない。フードメニューにもこだわっているようなので、次に訪れる際は、ぜひそちらも試してみたい。
伊藤綾 いとうりょう 1988年生まれ道東出身、大学でミニコミ誌や商業誌のライターに。SPA! やサイゾー、キャリコネニュース、東洋経済オンラインなどでも執筆中。いろんな識者のお話をうかがったり、イベントにお邪魔したりするのが好き。毎月1日どこかで誰かと何かしら映画を観て飲む集会を開催 @tsuitachiii この著者の記事一覧はこちら(伊藤綾)