井上尚弥のPFP1位は週明けにも終了? ウシク、クロフォードとの超ハイレベルなトップ争い

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2024年05月17日 17:20  webスポルティーバ

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【井上がクロフォードを上回った理由】

「リング誌のPFP1に返り咲きました 皆さんの応援のおかげです!! いつも応援ありがとうございます」

 井上尚弥(大橋)がSNS上で残したそんな言葉が、パウンド・フォー・パウンド(PFP)ランキングでトップに立つことの意味と価値を物語っている。

 アメリカ最大手の『リングマガジン』は5月9日、全階級を通じて最も優秀なボクサーを選出するPFPランキングを更新。同6日に東京ドームで行なわれた世界スーパーバンタム級4冠の防衛戦で、ルイス・ネリ(メキシコ)を6回KO で粉砕した勝利が評価され、"モンスター"は約2年ぶりにランキングのトップに立った。

 2019年秋以降、同ランキングの選定委員(パネリスト)を務める筆者も「井上が1位になるべきだ」と考えた。チェーンメールで行なわれる選考会議中、スーパーライト級、ウェルター級の4団体統一王者テレンス・クロフォード(アメリカ)よりも井上が上にいくべき理由として、こう主張した。

「去年の7月、クロフォードをわずかに井上の上に据えたが、以降、クロフォードは一度も試合をしていない(8月に次戦が決まったが)。その間、井上は質の高い相手に2度も勝利した。井上を昇格させる十分な理由だ。アクティビティ(試合頻度)に感謝したい」

 いまだに勘違いされがちだが、PFPは「体重が同一と仮定したら誰が一番強いかを決めるランキング」ではなく、「全階級を通じて誰が最も優秀なボクサーであるかを、経歴と表層状の戦力評価で定めるランキング」である。

 いわばレジュメの比べ合い。スポーツは常に相手次第であり、どれだけ強い勝ち方をしても、対戦相手の質が伴わなければ基本的に高評価はされない。ランキングの上位を守るためには、定期的に上質な勝ち星を重ねる必要もある。米スポーツ特有の「What have you done lately(最近何をやったのか)」はPFP選考でも重視される傾向にあり、最新の勝ち星はもちろん重要である。

 昨年7月、エロール・スペンスJr.(アメリカ)との"PFPトップ5対決"で完勝したクロフォードのパーフェクトなボクシングは見事だった。その時点では、直前に無敗のスティーブン・フルトン(アメリカ)を蹴散らした井上よりも、クロフォードを上に据えるという判断に誰もが納得しただろう。

 ただ、両者の実力、実績は甲乙つけ難いのも事実だった。そして、スペンス戦後、クロフォードが試合を消化しないまま1年以上もトップを守り続けるのは妥当と思えなかった。

 クロフォードがSNSでのみ存在感を発揮している間、マーロン・タパレス(フィリピン)、ネリという階級のトップ選手たちをKOした井上の精力的なレジュメは好感が持てる。それでもクロフォードが1位のままでいることを支持した選者はいたが、ほかのパネリストたちも多くが似た意見だった(最終的には、今回投票した11人のパネリストのうち8人が井上を支持)。

 試合の頻度以外にも、ネリ戦の初回にダウンを喫したあとの適応能力、強烈なKOを生み出し続けるインパクトも高く買われ、比較的にあっさりと井上の1位浮上が決まった。

【1位の期間はかなり短くなる?】

 こうして多くの関係者から支持された井上の"王座返り咲き"。日本ボクシング界の最高傑作は現在、"世界最高のモンスター"として確立したと言ってもいい。しかし一方で、『リンガマガジン』のシニアエディター、ブライアン・ハーティ氏がこう記していたことは見逃せない。

「ナンバーワンでいられる期間は、今回も短くなるかもしれない。それでも井上は、1位に据えられるだけの価値があると私も思う」

 井上はノニト・ドネア(フィリピン)との再戦を2回KO で制した直後、2022年6月に日本人初となる『リングマガジン』のPFP1位を達成。ただ、8月下旬には2位に下がり、王位は約2カ月強と"短命"に終わっていた。その時と同じように、いや、今回はその当時以上に落ちるのは早いかもしれない。

 2年前、井上が2位に下がる直接的な理由となったのは、元クルーザー級の世界4団体統一王者であり、現WBA、IBF、WBO世界ヘビー級王者オレクサンデル・ウシク(ウクライナ)が、前3団体統一同級王者アンソニー・ジョシュア(イギリス)との再戦を、2−1の判定ながら明白な勝ちを飾ったことだった。

 ウシクは過去11戦中10戦を相手の敵地で勝ち抜き、クルーザー級、ヘビー級を制した"史上最高のロードウォリアー"。興行的な"Aサイド"が圧倒的に優位なボクシングの常識を覆すような存在である。PFPランキングでは昨夏、キャリア最高級の白星を挙げたクロフォード と井上に抜かれたものの、依然として3位の好位置につけている。

 世界ヘビー級の3冠を保持するウクライナの拳豪は、現地時間5月18日、サウジアラビアでWBC王者タイソン・フューリー(イギリス)との4団体統一戦に臨む。直前の予想では、サイズなどで上回るフューリーがやや優位という見方が多いようだ。とはいえ、サウスポースタンスからの確かな技量と勝負度胸で多くの難敵を下してきたウシクは、決して侮れない。

 ここでウシクがフューリーの壁をも破り、クルーザー級に続いてヘビー級でも史上初の4団体統一王者になったら......。それは、とてつもない偉業である。もちろん試合内容次第ではあるが、フューリー撃破後のウシクが歴史的英雄と再評価され、PFPでもあらためて1位に推される可能性は高そうだ。

【クロフォードもついに8月に試合】

 また、36歳になったクロフォードも沈黙を破り、8月3日に次戦が決定している。40戦全勝(31KO)の3階級王者は、復帰戦でさらに階級を上げ、WBA世界スーパーウェルター級王者イスライル・マドリモフ(ウズベキスタン)に挑戦。ここでも快勝して4階級制覇を果たしたとすれば、その勝ち星はPFP選考委員会でも話題になるに違いない。

 井上、クロフォード、ウシクの超ハイレベルの争いは続いていく。現在、"我が世の春"を謳歌する井上も、週明けにはPFPランキングで2位に、8月上旬には3位に落ちても不思議はない。

 こんな階級を超えたバトルを、ファンも楽しんでいるだろう。現在のPFPトップ3、4位のサウル・"カネロ"・アルバレス(メキシコ)まで含めた4人は、いわゆる"オールタイム・グレート(歴史的英雄)"として称されるべきスーパーボクサーたち。前述通り、「What have you done lately(最近何をやったのか)」も重要な要素であることを考慮すれば、ランキングトップの変動は続くのかもしれない。

 それほど激しい世界最強争いの一角に、日本人選手が食い込んでいることを喜ぶべきだ。ランキングがどう移り変ろうと、私たちが今、後世まで永く語り継がれる日本人ボクサーの戦いを見られていることは間違いないのだから。

このニュースに関するつぶやき

  • 井上尚弥も衰える前に中谷潤人と試合しとかなやばいんちゃうかな。
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